非正規訴訟判決で最高裁「ボーナス・退職金なしは“不合理”といえず」 是正のため、“これからの働き方”を考えた立法を
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 非正規労働者にボーナスや退職金が支給されないことをどう考えるのか。働く人のおよそ4割が非正規労働者(2070万人)といわれるなか、いわゆる“同一労働同一賃金”が大企業でスタートして半年、注目の裁判で最高裁が相次いで判断を下した。

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 まず、大阪医科大学の研究室で秘書のアルバイトをしていた女性が起こした訴訟。正職員への賞与支給について、最高裁は「(大学側には)職務を遂行し得る人材確保やその定着を図るなどの目的」があったとした一方、アルバイトについては「業務内容が易しいとうかがわれる」と判断。「不合理な格差には当たらない」と訴えを棄却した。

 次に、東京メトロの売店で働いていた契約社員らが起こした訴訟。正社員の職務について「複数の売店を統括し、売り上げ向上のための指導やトラブル処理などを行うことがある」と契約社員との違いを指摘。退職金を支払わないことは「不合理な格差には当たらない」と、こちらも訴えを退けた。

■代理人弁護士「極めて不当な判決だ」

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 判決後の会見で「最低裁判所だ。(退職した際に)ご苦労様の花束一輪さえもらえない。本当に使い捨てなんだ」と訴えた元メトロコマース契約社員の疋田節子さん。その代理人を務めた青龍美和子弁護士は「いずれも極めて不当な判決だと思っている。労働の実態や待遇差の大きさの実態を最高裁にきちんと受け止めてもらえなかったという悔しさがある」と話す。

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 「誇りを持って働いていたということが会社にも評価されず、裁判所にも評価されなかったということに忸怩たる思いを持っている。契約自体は1年間だが、延長を繰り返していたし、契約社員であるにも関わらず65歳定年と定められていた。この点については最高裁も認めた。にもかかわらず、功労報償部分が退職金として認められないのは不合理ではないというのは、理由づけもはっきりしない、説得力もない判断だ。司法の頂点としてそんな判決でいいのかと怒りを覚える」。

 その上で青龍弁護士は「労働者にとってきちんと格差を是正できるような法律というのは必要だろうとは思う。例えば別々の仕事であっても職務評価の結果、同じ価値であれば同じ賃金にする。あるいは職務の内容や責任に応じた均衡待遇が判断できるような法律の仕組み、訴訟では労働者側が少ない証拠で立証しなければならない状況があるので、その転換も必要だと思う」とした。

■「次は立法措置を取るかどうかだ」

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 元経産官僚の宇佐美典也氏は「話を聞く限りでは、契約社員を都合よく使い倒して既得権益を守ったというのは間違いないと思う。一方で、世の中にはパソコンいじっているだけでボーナスをもらっている窓際の正社員もたくさんいる。そんな“身分制”みたいな社会ではおかしい。今の法律に基づいて最高裁が判決を出した以上、次は立法措置を取るかどうかだ」と指摘する。

 「ただ、こうした制度を決めているのは基本的には官僚と政治家だ。官僚は正社員だし、政治家もエリートが多いので、非正規の人たちが見ている風景を見たことがない。だから簡単に実力主義だと言ってしまう。僕は東大を出て官僚になったが、辞めて一人になってみたら食えなくて、上野公園で呆然としていた時期もあった。実力というのは人が見てくれているから評価されるもので、チャンスが与えられなければ活かせない、伸ばせないものだ。そういうことを考える人が欠けているから、正社員の既得権益が守られるような制度設計がなされてしまっている」。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「バブル崩壊後の不況の中で、人件費も減らさなきゃいけないという圧力が企業に対して働いた。結果としては消費する人がいなくなり、デフレからも脱しきれない。そして、竹中平蔵さん的な、みんな正社員なんかやめてフリーランスになればいいんだという新自由主義的な考え方も強くなり、なんとなくコアじゃない部分は非正規でいいやという考えで進んでいった。その結果、企業の体力は落ちていった。これが20年ぐらい続いたのが今の状況だ」と話す。

 「社員として入っちゃうと安泰だという“メンバーシップ型”から、職務内容に応じて給料をもらえるようにする“ジョブ型”に進めていくべきだという議論があるが、専門性を持てない人は一体どうするのかという問題が残るし、我々が本当に幸せになれるかどうかは分からない。すごく優秀な人なら2000万円もらってもいいが、そうでないから200万しかもらえなえなくてもいいというのはおかしい。今の日本社会は、かつての学歴主義に加えてメリトクラシー=実力主義が蔓延しているし、さらにコミュ力なども要求されるようになった。いわば全人格において認められない限り正規社員にはなれないような恐ろしい時代になってしまっている」。

■「私たちの意識が問われている」

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 労働問題に詳しい深澤諭史弁護士も「お気持ちを前提に考えると、やはり不当な判決だろうと思う。ただ、企業側としては条件に納得して採用したはずなのに、事後的に“おかしい”と言われてしまうのはリスクだと感じてしまうだろう。このあたりの線引きは非常に難しく、今回は企業の方に軍配を上げざるを得なかったという事情もあるのではないか。今回の裁判でも、地裁、高裁、そして最高裁と判決がひっくり返っているのを見ると、裁判官にとっても判断が難しかったということだ」と話す。

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 「私も法律を作るべきだと思っている。同じような制服を着て、同じ場所に立って同じような仕事をしているのに待遇に差があることを原告は知らなかったということだが、その背景には“多様な働き方”と言いつつ、実態は身分制、階級制のような“上下の多様性”ができてしまっていることがある。そのことを是正するような法律を作る必要があるのではないか。原則でいえばどんなに過酷な労働契約でもOKではあるが、“時給10円で1日20時間働きなさい”というのは絶対にダメだよねということが労働基準法などで定められている。つまり、最低ラインは法律で決められるということだし、今はその最低ラインが低く、いびつだということだ。だから一社だけが“うちは待遇を良くするぞ”と頑張っても、安い待遇のライバル企業にコスト面では負けてしまう。そういうことがないよう、公平に最低基準を付けようというのが労働法の考え方だ。ある意味では法律を決めるのは国民なので、私たち自身の、働く人に対する意識が裁かれているのかもしれない」。

 あす15日には、郵便局で働く契約社員らが訴えた3件の訴訟で最高裁の判断が示される。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

「本当に悔しい...最低裁判所です」
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