被害者たちは心の底から死を望んでいたのか? 座間市9人殺害事件の法廷で明かされたそれぞれの半生
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 神奈川県座間市で2017年に9人が殺害された事件の裁判は、それぞれの被害者ごとの審理が大詰めを迎えています。これまで審理が行われた被害者の事情はそれぞれですが、心の底から死を望んでいたわけではないのではないかと感じました。そして、被害者の周りには、その気持ちを受け止め、支えてきた家族や友人の存在がありました。(テレビ朝日社会部・稲垣耕介)

■証拠調べで明かされた被害者一人一人の半生

被害者たちは心の底から死を望んでいたのか? 座間市9人殺害事件の法廷で明かされたそれぞれの半生
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 白石隆浩被告(30)の異常性が際立つこの事件ですが、裁判では、被害者一人一人の半生と、なぜ命を絶たれることになったのかが、数々の証拠調べで明かされてきました。

 被害者は3つのグループにわかれていて、10日には、最後のグループである8人目と9人目について審理が始まりました。被害者を特定する情報は伏せられているため、法廷ではアルファベットで呼ばれています。

 8人目の被害者Hさんは当時25歳の女性で、神奈川県で両親と兄と暮らしていました。法廷には、証人として母親が出廷し、毅然とした口調で語りました。

 「娘は中学でいじめに遭い、『生きていても仕方がない』と言ったことがあります」。
 「7年間引きこもっていましたが、事件の前には、やっと決まったアルバイトを始めていて、『これから頑張るね』と言っていました」。
 「『30歳までに結婚して子供を育てたい』と言っていました」。
 「生きていれば、色々な未来があったでしょう」。
 「悔しくて、なりません」。
 (母親の言葉の一部)

 Hさんが殺害されたとされているのは、2017年10月18日です。検察側によると、Hさんはその前日にツイッターで「死にたい」「#自殺募集」などと投稿しました。そこに白石被告が接触し、「一緒に死ぬ」という嘘で誘い出したといいます。事件当日、アルバイトに出かけたHさんは、二度と家に帰ることはありませんでした。

 部屋は朝起きたままの状態で、毛布は乱れ漫画が散らかっていたと母親は話しました。書き置きなどはなかったといいます。事件が発覚した後の日々の中で、Hさんの父親は、誰もいない娘の部屋の前で、「行ってくるよ」「帰ってきたよ」と声をかけ続けたということです。

 最後の9人目の被害者Iさんは、東京都の23歳の女性です。事件の4か月前に母親を亡くしました。精神障害を抱えながら、兄の支えと生活保護を受けて、事件当時は1人で暮らしていました。

■「やっぱり生きようと思う」というメッセージを送った人も

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 これまで審理が行われた被害者も、事情はそれぞれです。子どもに愛情を注ぎながら心の病と闘っていた人。過去に友人と一緒に自殺未遂をし自分だけが命を取り留めた人。学校や恋愛など、様々な悩みを抱えていた人。多くの被害者が、SNSで、“一緒に自殺をする”という趣旨で白石被告とつながりました。しかし、心の底から死を望んでいたわけではないのではないかと、私自身は感じました。

 被害者の中には、白石被告を信頼して好意を持ったとみられる人がいました。また、白石被告に対して「やっぱり生きようと思う」というメッセージを送った人たちや、気持ちが揺れ動いていた人たちもいました。そして、被害者の周りには、その気持ちを受け止め、支えてきた家族や友人の存在がありました。その支えからふとこぼれ落ちてしまう瞬間の事件だったように思えてなりません。

 白石被告はこれまで「心の弱っている女性を狙った」と述べています。語られた犯行の中身は、“自殺の手伝い”ですらなく、いきなり襲い、殺害し、金を奪うというものでした。8人目と9人目の事件の審理はこの後、白石被告の被告人質問や証拠の読み上げが続くことになっています。(ABEMA NEWS)

稲垣耕介(いながき・こうすけ)

社会部記者として事件・事故や皇室などの取材を経験。現在は司法担当として主に裁判取材を続けている。東京都出身の35歳。趣味は散歩と読書。

(ABEMA NEWS)
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