一緒に育てたはずのアリペイが邪魔者に? ジャック・マー氏の“所在不明”に見る、中国共産党と新興IT企業の微妙な距離感
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 中国のネット通販最大手「アリババ」グループの創業者ジャック・マー氏が公の場所に姿を見せなくなって2カ月が経過、海外メディアが中国当局に拘束されたのではないかと報じるなど、様々な憶測を呼んでいる。

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 昨年10月に上海で開かれた経済フォーラムでの講演で「健全な金融システムがない」「銀行は質屋のような発想のままだ」「未来を規制するために昨日の方法を使うことはできない」などと指摘し、金融政策や銀行の体制を暗に批判していたマー氏。すると翌11月、キャッシュレス決済サービス「アリペイ」を展開するアリババ傘下のアント・グループの上場が2日前になり金融当局により延期されることとなった。

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 アリババグループを一代で築き上げた世界的な経営者のジャック・マー氏。すでに会長職を退任している人物だが、中国の動向に詳しい講談社の近藤大介・特別編集委員は「アントの最大の株主は彼なのでやはり影響力は大きい」と話す。

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 「中国の産業の中で国有企業よりも民間企業の方が唯一優れていると言っていいのがITの分野だ。アメリカのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に対抗する中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)ということがよくいわれるが、バイドゥは自動運転に特化しているのでぶつからない。アリババが“狼のジャック・マー”と呼ばれるのに対し、テンセントの創業者は非常におとなしい人物で“羊のマー・フアテン”と呼ばれるくらい従順。深センの本社ビル前には、“われわれは共産党とともにある”という巨大なモニュメントが魔除けのように置いてあった。そして2002~2007年に習近平が浙江省の党委書記、つまりトップを務めていた時に出てきたのがジャック・マーのアリババ。いわば二人三脚で育てきた企業だったし、習近平はロシアのプーチン大統領やインドのモディ首相、韓国の朴槿恵大統領などと会談をする時にはジャック・マーを連れていったくらいだ」。

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 ところが中国共産党は12月に入ると、国内のインターネット企業への規制を強化する方針を打ち出し、アリババに独占行為の疑いがあるとして調査する意向であることを表明したのだ。背景には、デジタル人民元の普及を推し進めるため、電子決済サービスのアリペイやWeChatペイをライバルとみなして牽制する目的があるのではないかとの見方もある。実際、アリババの持つ決済サービスなどは銀行とも密接な関係にあり、市場において50%以上のシェアを誇っている。

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 近藤氏は「事実、中国当局、中国人民銀行はものすごく脅威に感じている。2022年に北京冬季オリンピックまでにはデジタル人民元を世界にお披露目したいが、皮肉なことにアントフィナンシャルがその最大の壁になってしまっているということだ。昨年12月に開かれた中央経済工作会議で定められた経済方針の中に、行き過ぎた資本を規制していく、つまりアリババを叩いていくと言っているような項目もある。今年7月には中国共産党は100周年を迎える。やはりデジタル人民元を作り、そこにアリババも組み込んでいく力を示したいということだろう」と推測。

 ジャック・マー氏の所在について「“北京のトランプ”と呼ばれ、中国人なら誰でも知っている任志強(レン・ジチャン)という人物がいるが、この人も中国共産党と習近平主席を批判した結果、一時的に行方不明になった。“天津の海に浮かんでいる”という説まで出たが、実際には1年ほど蟄居させられていたということだった。彼が去年3月、コロナよりもそれを隠蔽している中国共産党や習近平が恐ろしいというようなことを言ったことで、今度は懲役18年だ。ジャック・マーも、“馬雲”という名前の通り、世界中を飛び回り、言いたいことを言う人物。しかしこれは中国共産党にとって喜ばしくないこと。“静かにしていないと国有化してしまうぞ”とアリババを人質に取られ、“蟄居(ちっきょ)”しているのだと思う」との見方を示した。

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 ドワンゴ社長の夏野剛氏は「僕も中国の企業とは付き合いがあるが、IT系も含め新興企業が中国共産党を非常に意識しながら動いていることは確かだ。北京にある本社に行くと、中国茶がセットされているような、共産党幹部用の部屋が必ずある。携帯事業会社の社長が全人代の委員を兼ねていたり、大企業の幹部が共産党の肩書も持っていたりすることは普通にある。そして越えてはならない一線を守っている企業は保護するし、便宜も与える。しかし歯向かえば牙を向くぞという、硬軟織り交ぜた経済インセンティブの作り方の上手さが、中国と旧ソ連との最大の違いではないか。これは共産主義や社会主義、あるいは資本主義とはまた異なるものだと思う」とコメント。

 その上で「アリペイがここまで来ることができたのも、全ての銀行とのシステムの繋ぎ込みを中国共産党が認めたからだ。アリペイ以外が流行らなかったのは、それができなかったからに他ならない。テンセントが育ったのも、GoogleやFacebookをブロックしたからだ。しかし、今はそれが行き過ぎているということなのだろう。最近のジャック・マーの体制批判的な発言も覚悟の上でのものだったのだろうが、やはり中国の中では生きづらくなったのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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