「怒羅権」創設の元メンバーが語った日本社会からの“疎外” 孤立する外国ルーツの子どもたちは今も…
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 「最初から暴走族とかマフィアの団体を作ろうとして作ったわけじゃない。ヤンキーの襲撃に対抗するために集団下校していて、それが創立メンバーになってしまった。初めは助け合いとか、いじめに抵抗するだけだったが、だんだん非行少年になってしまった」。

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 1980年代に結成された、いわゆる“半グレ”の草分け的存在「怒羅権」。その創設期のメンバーである汪楠氏(1972年生まれ)が1月に出版した『怒羅権と私 創設期メンバーの怒りと悲しみの半生』が注目を集めている。

 自分たちを守るために集まったという中国出身者のグループが、なぜ暴走族に姿を変え、さらには警察への襲撃や強盗、さらには人身売買などの凶悪犯罪を行う集団へと変質していったのか。15日の『ABEMA Prime』では、汪楠氏本人に話を聞いた。

■「何かあると、“またお前がやったのか”と理不尽に疑われた」

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 満州に渡っていた日本人が、戦後やむなく現地に残してきた子ども、中国残留孤児。80年代に帰国事業が本格化する中、孤児だった女性と父親が再婚したことから、汪氏は14歳で来日することになった。

 両親の都合でやってきた東京で、他の元孤児の家族とともに一時入所施設に住むことになった汪氏。編入した区立中学校には、おなじ境遇である二世の子どもたちが男女合わせて60人くらい在籍していたという。

 「学校では“おう・くすのき”と、名前を訓読みに直された。中国では勉強が大好きだったので学校へ行くのは苦ではなかったが、あいうえおも知らないので、当然“おう・くすのき”と呼ばれても自分のことだと分からない。本をめくる音を立てただけで他の子の勉強の邪魔になるからとすごく怒られたり、何かあると、“またお前がやったのか”と理不尽に疑われた。

 ある時、襲ってきたヤンキーと喧嘩になり、そこから日本人の友達もできた。家庭の事情でグレた子たちも似たような境遇だから、コンビニから食べ物を盗んだり、店員を脅かして奪ったり。当時は『ビー・バップ・ハイスクール』などのヤンキー漫画も多く、ファッションでヤンキーみたいな格好をしている子たちがいた。そいつらもいじめてきたが、いざ喧嘩になるとめちゃくちゃ弱くて、お小遣いを1000円、2000円と差し出してきた。そこで“暴力はお金を生む”ということを学んでしまった」。

■日本社会からの疎外感…「それは親も同じだった」

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 しかし一時入所施設にいられるのは半年だけ。

 「運良く都営住宅に入れる人もいれば、民間のアパートを借りて生活を始める人もいる。一時入所施設で一緒になったことで仲間意識が芽生えていたみんなが違う学校に通うことになる。しばらくすると、友達から、いじめに遭って嫌だとか、SOSの電話が来るようになった。そこから社会、先生に対する怒りが生まれた。自分も中国では成績も良く、ちやほやされて褒められていたのに、こっちでは“バカ、アホ”と、後ろから蹴飛ばされたりした。

 それは親も同じだった。父親は病院の院長や政治活動もやっていたが、中国の政治にがっかりして日本に来た。しかし皿洗いや掃除の仕事しかなく、収入は母親に頼ることになった。それで父親の威厳というかプライドが傷ついたみたいで、家庭内暴力が始まった。学校では先生に怒られ、親は終電にならないと帰ってこないから食べ物もない。それなら中国語が喋れる仲間のところへ行った方が、お腹は空いていても楽しい。そうやってコミュニティみたいなのものができていった。初めは普通のヤンキーというか、非行少年と同じように学校をサボり、夜は公園にいるのが楽しいので家に帰らなくなり、食べ物は万引きで入手して、バイクに乗って盗んだり喧嘩したりしてということを繰り返していった」。

■「売春管理のお金を取った時には違和感も覚えた」

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 そしてグループは87、8年ごろから「怒羅権」という名前を使うようになり、犯罪行為をエスカレートさせていく。

 「バイクが楽しくなり、今度はシンナーや薬物を覚えてしまったりもした。他の暴走族が全部チーム名みたいなのをつけていたから、自分たちも何か名前を付けようみたいな。喧嘩になると、人数では日本人に勝てないので、勝とうとすれば殺す気でいかないといけない。友達にも、死んだのは何人もいる。盗むものも大きくなっていったが、犯罪は仕事という感じで、罪悪感はなかった。それを考えると元々いじめの被害者だったのに、確実に加害者に代わってしまった。怒羅権には3000人が所属していたとか言う人もいるが、自分が関わっていた時期で多い時には確実に800人くらいいたと思う。その頃には3分の2が日本人だったと思う。

 17歳になる頃には暴走族としてはちょっと名前が売れていたので、ヤクザにスカウトされた。ただ18歳にならないと盃をもらえないルールがあるので、1年間は組じゃないところにいた。中学校も結局1、2カ月しか行っていないし、大人から常識や道徳について教えられることもあまりなかった。そういう子どもたちだけで集まったグループなので、“お前がこのくらいやるなら俺はこのくらいやる”という競争がルールになり、今度はヤクザの“一宿一飯”というルール、世界を教えられた。みかじめ料を取る時には“自分の営業努力”という感覚があったが、売春管理のお金を取った時には違和感も覚えた。女性が身体を売った、そのお金を取るのはどうかなと…」。

■受刑者・出所者支援の日々…「反省してやっているわけではない」

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 偽造、ピッキング、さらには暴力団の抗争事件の現場で後処理にも関わるようになった汪氏だが、ついに2000年、詐欺容疑で逮捕される。服役し、13年後に出所。様々な誘いもあったというが、怒羅権も脱退した。今はNPOを立ち上げ、受刑者や出所者の更生を支援する活動を行っている。

 「時代が終わったので、怒羅権には解散してほしい。本にも書いたが、やはり被害を受けた人もいる。反省して更正したって“許してください”では済まないことだから。修復できない被害もある。自分も“立派な活動をしている”と言われるが、そういう気はないし、反省してやっているわけでもない。ただ刑務所にいたときに、“俺の人生、こんなのでいいのか”、“今からでも遅くないから、なりたい自分、したい生き方を見つけたいな”と考えるようになった。昔から取材を受けていたこともあって、支援者のある弁護士の先生に“君は問題提起してきたかもしれないが、大人になった今、問題解決を何もしていない”と言われ、“そうか”と思った」。

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刑務所を出てからの1年間は、週4日は仕事をして、残りの3日間はホームレスなどの問題にボランティアで取り組んだ。それから受刑者に本を送る活動を始めた。やはり再犯率が高いことが問題になっているし、自分も出所してからの6年間、社会から孤立すると再犯しやすい、仕事と住むところが大事だ、ということを感じた。住まいや仕事を斡旋して欲しいと言われることもあるが、一歩間違えると貧困ビジネスになりかねない。だから団体としては古本と手紙を送る、というところで留まりたい。将来はそういう団体を作り、支援もしていきたい」。

■日本語を教えられないまま教室に座っている子どもたちは今も…

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 NHKアナウンサー時代に中国残留孤児の家族を取材した経験もあるジャーナリストの堀氏は「文科省の調べでは、海外にルーツのある子どものうち、日本語が話せないまま公立学校に通っている子どもは4万人近くいる。そのうち7000人が、かつての汪さんのように何も教えてもらえないまま、ただ教室に座っているという。放っておけば社会との接続を失い、働く気力、生きる気力を失い生活保護対象になってしまうかもしれないし、まさに半グレ集団のようになってしまう可能性だってある。例えば福生にあるYSCグローバル・スクールという日本語教室では、出身国のバリエーションが増えて対応できなくなっていると言っていた。日本がどんどんグローバル化しているのに、言葉を教えてくれる人すら育っていないというのは大問題だ」と指摘していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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