鎮魂、共生社会、風化を防ぐ…「採火の理由にはどれも無理がある」津久井やまゆり園事件の被害者家族・尾野剛志さん
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 「本当に寝耳に水で、とんでもない。本当に憤ってる」。

 先月、東京パラリンピック聖火リレーの採火式を障害者施設「津久井やまゆり園」で行うことを発表した神奈川県相模原市。これに対し、2016年に起きた無差別殺傷事件の被害者家族たちから疑問の声が上がり、13日には長男が重傷を負った尾野剛志さんらが県と市に対し変更を求める要望書を提出。黒岩知事は「反対する要請をされた方の話を市が丁寧に伺うと聞いている。その上で、県としては市の考え方を確認して対応していきたい」と述べた。

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 会場に選んだ理由について、市は「事件を風化させず差別をなくしていくという強い決意を世界に向けて発信したい」と説明、指定管理者の「かながわ共同会」は「市や県の決定に協力していく立場」としているが、いずれも尾野さんたち遺族の意向は確認していなかったという。

 同日夜の『ABEMA Prime』に出演した尾野さんは、「先月23日にNHKがすっぱ抜いた形で放送し、それを見ていた仲間から“尾野さん、採火の話、聞いたよ”と連絡があり、その後も次々と問い合わせがあった。ただ、その時点では園の前を通過する程度だと受け止めたていた。しかし31日になって本村賢太郎市長が正式発表したので、“え?あの津久井やまゆり園でお祭りをするの?と思い、市に抗議の電話をした」と説明する。

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 「実は2019年にも候補として上がっていたが、開催が延びたので白紙に戻したと聞いていた。それが去年の10月になり、市が“会場にしたい”と建物、敷地を持っている県にお伺いを立てたようだ。県の担当者からは“やっていいですよ。でも事件が起きた場所なので、家族や利用者、職員、被害者家族にきちんと話をして、納得してもらった上でやってください”との話があったが、先月31日の発表の日まで、連絡は一切なかった。

 市からは“説明するつもりでした”みたいな話をされたが、なぜ説明しなかったのか、ということに対しては回答がなく、“誠に申しわけありませんでした”という謝罪だけだった。忘れていたのではなく、開催すれば僕たちが喜ぶだろうと、簡単に考えていたんじゃないかと思う。事件そのものや働いている職員、働いている職員、怪我をした被害者家族、亡くなった19人のご遺族の気持ちを軽視しているのだろう。今日も話をしてきたが、市としては事件の風化を防ぐためにやるんだ、鎮魂のためだ、というようなことを説明していたが、どうしても納得できなかった」。

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 「事件を風化させたくない」とする市側の説明に対し、「鎮魂の場でお祭りをしないでほしい」とする被害者家族たちの思い。尾野さんは「事件が起きて、4月で事件が起きて5年になる。本当に心がズタズタにされて、それこそ言葉も出なかったのが、やっと少し心が癒えてきた」と話す。

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 「8月1日には利用者が戻ってくるし、鎮魂のためのモニュメントも出来上がった。みなさん手を合わせてください、という場であえて採火するということがどうしても納得できない。4月に入って遺族や家族、当時の利用者さんたちにも話を聞いているが、やってほしいという人はいないかった。市の対応によっては、結果も違ったのかもしれないが、5年前のあの日、現場に駆けつけた家族としては、あの光景は死ぬまで忘れない。

 “風化させないためだ”と言うが、僕たちもテレビや色々なところで事件のことを発言しているし、採火をしたからといって風化を防げるかということもないと思う。また、“共生社会とは何だ?”と聞いても市側は返事をしなかったが、被害を受けた方々、遺族、体育館で過ごした利用者たちの悔しさ、辛さを考えたら、“そういうふうに理解してください”というお願いも、とても受け入れられない。本当の意味での共生社会とは、障害があろうとなかろうと、平等に、そして堂々と暮らせる社会だと思う」。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「2004年のアテネ五輪の際には聖火リレーが五大陸を回り、アメリカでは同時多発テロが起きたニューヨークの世界貿易センタービル跡も走っている。そのことを関係者たちがどう考えたかはわからないが、ある種の鎮魂の儀式の一環としての意味合いがあったかのもしれない。一方で、聖火リレー自体は1936年、ナチス政権下のベルリン五輪の時代に始まった、比較的新しいものでもある。つまり、我々にとってどういう意味を持つ行事なのか、という共有がないイベントだという難しさがあると思う。

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 同時に、何が弔いになるのかという難しさもある。例えば東日本大震災の津波で多くの子どもが亡くなった大川小学校の校舎について、残した方が鎮魂になるのだという人もいれば、目に入ると辛いから壊してくれという人もいる。やはり決して一つの正解はないということを踏まえて、事件のことを社会全体としてどう共有し、後世に残していくのか、それを聖火リレーみたいなものとどうやって結びつけるのか、踏み込んだ議論を続けていかないといけない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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