「今の状況で(五輪を)やるというのは、普通はないわけですよね。このパンデミックで」
「五輪開催すれば国内の感染や医療の状況に必ず何らかの影響を起こす」
開催まで残り50日をきった東京オリンピックについて、こう懸念を示している政府の新型コロナ対策分科会の尾身会長。そんな中、大会組織委員会の橋本会長は開催に向けての意欲を示した。
「一丸となって感染症というものを抑え込んでいく、そして一日も早く社会が、多くの国民が生活を取り戻すためにどのように乗り越えていけるのかということも、開催されることによって次にしっかりとしたものをレガシーとして残していく」
また、菅総理も「まず感染対策をしっかりと講じて安全安心な大会にしたい」と、開催に前向きな姿勢を見せた。
しかしその一方で、自民党の北村誠吾前地方創生担当大臣から否定的な考えが示されたのだ。
「何が何でもやるというのは大きな間違いの元だと思いますから。何が何でもやらなきゃいかんと、いつかどこかであった戦争みたいなことをやっちゃいけない」
政権与党からこのような“否定的な見解”が出るのは異例だという。また、開催については国内のワクチン接種に全力を挙げることが第一だと強調した。一方で、現時点での五輪開催の可否に対する自らの立場については言及を避けたということだ。
尾身会長は「なるべく早い時期に我々の考えを正式に然るべき場所に表明する」とも発言し、これに対して田村厚生労働大臣は「政府として参考とさせていただけるものがあれば取り入れることはあると思うが、自主的な研究の成果の発表なので、そういう形で受け止めさせていただく」との見解を示している。
BuzzFeed Japan News副編集長の神庭亮介氏は「五輪開催について、尾身会長は4月下旬の段階でも『議論をしっかりやるべき時期に来ている』として、その時点でできる最大限の発信をしていた。今回は『普通はない』とさらに踏み込んでいる。これは専門家としての良心、覚悟をもっての発言だと思う。政治家はきちんと耳を傾けるべきなのに、自民党幹部は『言葉が過ぎる』と不快感を示したと報じられている。田村大臣からも、自由研究扱いで軽視するような発言が出ている。非常に由々しき事態だ」と指摘する。
また、政治主導と専門家軽視はイコールではないとし、「政治がリーダーシップを発揮して決断することは大事だが、専門家からの“耳の痛い指摘”に耳をふさいでしまうのはよくない。政府の審議会や有識者会議でも、あらかじめ結論や進めたい方向性が決まっていて、賛成8割・反対2割とかの比率で専門家を呼んで、既定路線に落とし込むような“シャンシャン会議”がたくさんある。コロナ対策をめぐっても、政治家は専門家のことを、都合よくお墨付きを与えて追認してくれる『便利グッズ』のように捉えているのではないか。やるかやらないか、賛成・反対も含めてテーブルの上にすべての意見を並べて、その中から何を選んでどう決めるかが政治主導の役割。『テーブルに並べることすらまかりならん』というのはおかしい」と苦言を呈した。