「日本にワクチンが入ってこなくなる懸念」「高校1年生の9月が重要」…HPVワクチン接種の“積極的勧奨”、再開を急ぐべき理由
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 年に約1万人の女性がかかり、およそ2800人が命を落としている「子宮頸がん」。主に性交渉に伴うHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染によって引き起こされることが多いため、HPVワクチンによる予防が効果的だとされている。

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 海外に目を向けると、ブラジルやメキシコ、イギリスなどでは15歳未満の女性の8割以上が接種を受けており、日本でもHPV感染症は予防接種を受けるべき「A類疾病」に分類、2013年以降は小学6年生~高校1年生の女子を無償の定期接種の対象としてきた。

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 「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」代表理事としてHPV予防のための啓発活動を行っている稲葉可奈子医師(産婦人科専門医)は「子宮頸がんは20代~40代の若い世代に多く、結婚・妊娠の前に子宮を失うことになってしまうかもしれない病気だ。そのためHPV感染症は公衆衛生上、予防すべきだということでA類に指定されている。HPVは色々なタイプがあり、一度感染した人が再び感染する可能性もある。すでに性交渉の経験がある方の場合でもワクチンを接種することで感染予防効果がある」と話す。

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 ところがHPVワクチンを接種した人の中から全身の痛みなどの重い症状を訴えるケースが相次ぎ、国や製薬会社を相手取った訴訟も提起されるようになったことから、厚生労働省は2013年6月、ワクチンの“積極的勧奨”を控える決定をする。その後、世界中の研究により副反応と疑われた様々な症状とワクチン接種の因果関係は示されないと判断され、WHOなどがHPVワクチンの接種を勧奨するようになったものの、日本における接種率は1%未満にとどまっていた。

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 「ワクチンを接種した後に起きたあらゆる良くないことを“有害事象”と呼び、接種後に様々な症状がでたことは事実。ただそれが果たしてHPVワクチンが原因だったかどうかをしっかり検証した結果、副反応が疑われた症状とワクチンに因果関係は示されないと判断されるようになった。そういった安全性の情報もしっかり分かりやすく伝えていくことが非常に大事だと思う」。

■「大きな進歩は感じた」一方、日本にワクチンが入ってこなくなる懸念も

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 こうした状況を受け、稲葉医師らは8月30日、自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」とともに田村厚生労働相と加藤官房長官宛に要望書とあわせて署名を提出。積極的な接種の勧奨を再開するよう求めた。

 「私たち専門家としては何年も前から要望してきたことではあるが、議連も含めて議論が盛り上がってきた背景には、昨年、16歳までに接種すると子宮頸がんに罹るリスクが88%も低下するという最新のデータが発表されたことも大きい。他にも安全性については問題ないというエビデンスが世界中の研究で蓄積されているので、有効性・安全性が十分に揃っているということになる」。

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 稲葉医師らが“9月から”にこだわる理由は、無償の定期接種に関わってくるからだ。

 「HPVワクチンは合計3回打つことになっており、通常、1回目を打ってから3回目を打つまでに6カ月の間を空けることが必要だ。つまり3月までに全3回を無償で打ち終えるためには、9月中(遅くとも11月まで)に1回目を打っていただく必要がある。そのことは、特にいまの高校1年生には知っていただきたい。もちろん、高校2年生以上の場合でもワクチンを打つ効果はあるので、独自に高2、高3まで助成している自治体もあるし、残念ながら実費であったとしても、なるべく早いうちに接種していただいた方がいい」。

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 2013年、当時の安倍内閣の閣僚として“積極的勧奨”を控える決定をした田村厚労相は要望を受け、改めて接種勧奨について議論を再開する方針を明らかにした。その一方、「コロナの状況がまだ分からないので、いつまでとは今は申しあげられない。しかしながら、先ほども申し上げた通り、いつまでも後延ばしでいいとは思っていない」として、時期についての明言は避けている。

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 「コロナ対応で忙しいというのは事実ですが、それを言い訳にせず、具体的にどうすれば再開できるのかという前向きなコメントが欲しかった。ただ、この前日に田村大臣とお話しした際には、“専門家に聞けば、全員が積極的勧奨を再開すべきだと言うだろう”とおっしゃっていたので、よく分かっておられると思う。再開へと向かっているという点では大きな進歩を感じたが、まだ時期は未定とのことなので、今しばらくは一人でも多くの中高生に正確な情報を伝えていく活動を地道に続けなければと思った」。

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 とはいえHPVワクチンも新型コロナウイルスのワクチン同様、世界的に不足が続いており、とりわけ余ったワクチンを廃棄してきた日本に対しては、製薬会社が今後の供給について苦言を呈してもいる。

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 「HPVは中咽頭がんや肛門がん、つまり男性も罹る病気の原因にもなるので、男子にも接種を推奨する国が増えてきた。私も男子も接種の対象になることを目指している。ただ、そのことで供給が需要に追いつかなくなっていて、WHOが“まずは女性を優先してほしい”と訴える事態になっているくらいだ。そういう中でワクチンを廃棄するということは、やはり公衆衛生上許されないこと。製薬会社から厳しいことを言われるのも仕方がないし、このままでは本当に日本への供給が止まってしまい、打ちたくても打てない、ということになってしまうかもしれない」。

■柏木由紀「学校で習った記憶がないし、身近な人と話しにくい話題」

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 AKB48柏木由紀は「学校で習った記憶がないし、身近な人と話しにくい話題でもあるので、若いうちに接種をしておいた方がいいということは最近初めて知った」、日本舞踊家で、今年第一子を出産した五月千和加は「私の場合、20代前半のときに自治体の健康診断で子宮頸がんの(検診の結果)3aだと診断されたことがある。先生からは“自然治癒するかもしれない”と言われ、実際にそうなったが、やはり診断結果を見た時には色々なことを考えてしまった。それでもワクチン接種を打とうという気が起こらなかったのは、ネットで検索したときに副反応の情報がいっぱい出てきたからだ」と振り返る。

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 パックンは「もちろんワクチン接種はリスクを負う本人が判断すべき問題なので、強制しようとは思わない。ただ、僕が基本的にワクチン接種推進派で、自分の子どもにもできるだけ打ってほしいと思っているのは、ワクチンは自分だけでなく、他人も守るものだからだ」と話す。

 「HPVワクチンに関して言えば、自分がワクチンを打つことによって性行為をした相手、つまり一番親しく、愛し合っている相手が感染する可能性を減らせる。そう考えれば、接種の時の少しの痛み、因果関係がはっきりしている副反応については我慢していいかなと僕は思う」。

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 慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「無償になる対象者の年齢を考えれば、本人以上に親御さんの判断が重要になってくる。そこに対して勧奨する、その際にきちんとエビデンスを伝えなければならないと思う。逆にいえば、コロナでワクチンの重要性がこれだけ社会に認知されている今こそチャンスだ。確率論で言えば、子宮頸がんで亡くなる方が年間2800人というのは、交通事故で亡くなる方の数に匹敵する、日本人の大きな死因の一つだといえると思う。加えて、若い世代が罹るケースが多いということを考えると、集団接種も含め、積極的に考えていくべきだと思う」話した。

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 こうした意見を受け、稲葉医師は「誰もが無料で接種を受けられるにもかかわらず情報格差がある現状を見過ごしてはいけないと思う。個別にお便りを送っている自治体には接種券も同封するとか、期間を過ぎてしまった方のキャッチアップをするといった対応をしていただけるとありがたい。もう一つは学校だ。がん教育が取り入れられ始めているので、その中でがんを予防できる予防接種としてを取り上げていただけるといいと思う。

 そして信頼できる身近な専門家、かかりつけ医だ。中高生がコロナワクチンの接種に来た時、“HPVワクチンは受けましたか?”と声をかけていただけると嬉しい。正確な情報を聞くことのできた保護者の方が、お友達にもお話ししていただけるのもいいと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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