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 安倍総理大臣とロシアのプーチン大統領が、「日ソ共同宣言」を基礎とした平和条約締結に向け交渉を加速させる方針で一致した。

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 1956年に締結された日ソ共同宣言では、平和条約の締結後に歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すことが明記されており、ロシア側もこれに沿って「4島一括返還」を強硬に拒否してきた。プーチン大統領もかねてから2島返還を示唆しており、「私たちが目指すのは勝利ではなく、柔道でいう"引き分け"のようなものだ」と語っていた。

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 これまで4島一括返還を主張してきた日本政府は、2島の先行返還に舵を切ったのだろうか。菅義偉官房長官は会見で「いずれにせよ北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結するということが我が国の一貫した立場であり、この点に変更はない」と述べている。

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 戦後70年以上解決していない北方領土問題は、解決に向けて一歩を踏み出すのだろうか。15日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、長年この問題に取り組んできた新党大地代表の鈴木宗男氏に話を聞いた。

■「ぜひとも事実を知ってほしい」宗男氏が語る日ロ交渉の歴史

 「ぜひとも正しい歴史の事実を知ってほしい。"4島一括返還"というのはソ連時代のフレーズだ」と話す鈴木氏は領土を巡る日ロ交渉の経緯について、次のように説明する。

 「東西冷戦の時代、アメリカは日本がソ連と仲良くなり、共産主義国家になることを危惧したし、56年の日ソ共同宣言の時には当時のダレス国務長官が"2島で平和条約を結ぶのなら、沖縄は未来永劫返さない"とまで恫喝している。そして1960年に安保条約が改定されると、当時のソ連の外務大臣は"外国軍が駐留する国には領土問題は存在しない。56年宣言で、平和条約締結の後に歯舞群島と色丹島を返せと言ったこともない"と言っており、それがソ連の姿勢だった。だからソ連時代、領土問題は存在しなかったし、日本政府も"4島一括返還"に"即時"と付けていた。そういった事実を外務省は国民に知らせていない。そして1991年にソ連が崩壊すると、当時の中山外務大臣が訪露し"日本は4島一括返還の旗を降ろす。まず帰属の問題を解決してから平和条約だ。4島の帰属が認められるなら、それぞれの時期には差があって結構だ"と伝えた。これも大きな変化だったが、"右バネ"を気にした外務省が国民に説明しなかった。この事実をわかってほしい」。

 そしてロシア時代に入ると、鈴木氏は橋本、小渕、森政権下で対ロ外交に関わることになる。

 「ロシアになった27年前からは、4島の帰属問題を解決してから、平和条約という流れになった。プーチン大統領も2000年の来日時、"56年宣言は有効だ"と記者会見で述べた。つまり、4島ともロシアに行く可能性あるし、ロシアが3で日本が1、ロシアが2で日本が2、ロシアが1で日本が3、ロシアが0で日本が4、という5通りのシナリオがあることになる。当時の日本政府は"2+2"だった。まず56年宣言を履行し、歯舞・色丹を返還してもらい、残りの国後・択捉についてもなんとか引きつけようと努力してきた。森総理とプーチン大統領の会談でも、それについて協議を続けようということになったし、ここまでは上手くいっていた。ところがその後の小泉総理はあまりロシアに関心がなく、外交よりも内政に関心があったので、"4島一括"と言ってしまった。しかも田中真紀子外務大臣は"日ロ関係の原点は、田中・ブレジネフ会談だ"と言った。それは昔の話であって、ロシア側もびっくり。さらに次の川口順子外務大臣は森さんの提案を下ろしてしまった。プーチン大統領は"森とはうまくやって来たのに、なぜそれを反故にするのか、付き合いきれない"となり、日ロ関係はそこから10年の間、止まってしまった。そしてプーチン大統領は2度目の大統領になった頃から、"引き分け"と言うようになった。その前提の上で日本政府は交渉をやっている」。

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 そしてプーチン大統領は9月12日、ロシアのウラジオストクで行われた「東洋経済フォーラム」で「平和条約を結ぼう。今ではなく年内に、前提条件なしで」と突如提案することになる。再び北方領土問題に関して動き始めたプーチン大統領と、そこに乗った安倍総理。背景には何があるのだろうか。

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 鈴木氏は「世界一のエネルギー大国はロシアで、世界一の工業技術を持っているのは日本。この両国がしっかりとジョイントすることで、極東、アジアの安定はもちろん、世界の発展と安定に資する。プーチン大統領は世界地図を見ながら、そう考えておられる。もちろん地球儀を俯瞰する外交を展開している安倍総理も、日本の果たすべき役割を考えた時、隣国であるロシアとのジョイントは世界のためになるという大所高所に立った判断をしている。」と話す。

■懸念される国内の反発を抑えられるのか?

 そこで懸念されるのが、日ロ両国内からの反発だ。元島民である国後島出身の宮谷内亮一さんは、4島返還が原則としながらも「2島返還を1つの出発点として、段階的に返還を求めていく、そういう選択肢もあるのかなと思う」と話すが、立憲民主党の辻元清美衆議院議員は「やはり4島一括で歴代の政権も含めて先輩方が努力してきたので、その点に向かう交渉であってほしい」と指摘している。東洋経済オンラインの編集長である山田俊浩氏も「4島でなければ、特にネット上では右派からの強い反発もあると思う」と話す。

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 鈴木氏は「ロシアの関係者からの話も合わせると、ウラジオストクでのプーチン発言は、ロシア国内のしかるべき会合で打ち合わせをしてからの話のようだ。"戦後の国際社会の枠組みで正当に手に入れた北方領土。1島も引き渡す必要はない"というのがロシア国民の理解だが、プーチン大統領は2000年に大統領に就任してから18年間、ぶれてない。日ソ共同宣言は日本の国会も当時のソ連の最高会議も批准している、法的拘束力のあるものだという一貫した考えがあるし、勇気と決意と覚悟がある。人情家で約束を守る人だから、2島の引き渡しを実現してくれると信じている」と説明。

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 そして日本側の判断についても「安倍総理は記者会見で"私の時に仕上げをする"と言った。初めて使った表現だ。私はそれだけでも安倍さんの勇気・決意・覚悟というのを感じた。元島民の思いを十分に受け止め、国益を考えて、見事な判断をしたと思う」とし、歯舞群島と色丹島を日本領とする一方、国後島と択捉島はロシア領とした上で日本人が自由に行けるようになるという"2島+α"が現実な流れだとの見方を示した。

 「16年前、"2島返還論の鈴木宗男は売国奴だ"と言われ、逮捕までされた。しかし今は世の中の空気も冷静になって、外交というのは相手がいることで、日本が100点でロシアが0点ということはありえず、折り合いをつけるしかないという声が圧倒的に多いと思う。ぜひ理解してもらいたいのは、元島民の平均年齢はすでに83歳になっていて、時間は限られている。元島民の思いの最大公約数は、まず"島に自由に行きたい"、次に"1つでも2つでもいいから返していただけるものは返してほしい"、そして"特に国後の海を使わせてほしい"ということ。これを冷静に考えていただきたい。まずは56年宣言を履行し、歯舞・色丹を日本に返してもらい、日本の主権とする。しかし今は国後・択捉はロシアの主権だと言わなければ、歯舞も色丹も返って来ない、これが現実だ。4島にこだわっていれば、プーチン大統領は交渉を止めてしまうし、日本は何も得られなくなる。それよりも、まずは2島返していただけるならば返してもらうということだ。米軍基地は間違っても置かないし、トランプ大統領も理解してくれると思う」。

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 拓殖大学海外事情研究所の名越健郎教授は「安倍総理の方からロシアの土俵に乗ったということ。2年前にプーチン大統領が来た時に提案しても良かったが、9月の"前提条件抜きの平和条約調印"というプーチン大統領の変化球がプレッシャーになったのではないかと思う。相手の力を利用して技をかけるという、プーチン大統領の"柔道外交"だ。民主党政権だったとしたら袋叩きに遭ったと思うし、保守の安倍総理でなければできなかったと思う。ただ、戦後の日本政府の基本方針を根本から覆すかもしれないという点で、総理はもっと説明すべきだと思う」と話す。

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 その上で、「経済問題などでプーチン政権の支持率も下がっていて、世論調査によれば、90%の国民は領土返還に反対しているので、かなりリスクがあることだとは思う。ロシアとしてのメリットは基本的にはないし、排他的経済水域の問題で軍も憂慮している。それでも今ならプーチン大統領も世論を抑えられるということで、チャンスだと思う」とコメントした。(AbemaTV/『AbemaPrimeより』)

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