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 「赤ちゃん!赤ちゃん!」。退院の日、母親(25)に抱かれた弟との初対面にはしゃぐ2歳の女の子。しかし、これが3人一緒に過ごす最後のひとときだ。

 シングルマザーの彼女は未婚のまま女の子を出産。そして、生まれたばかりの赤ちゃんは、別の男性との間に授かった子だ。「一緒に病院に行って"やっぱりできてたよ"って言ったら、"堕ろして欲しい"って言われた。その時点で男性には興味がなくなった」。中絶という選択肢はなかったが、家族がおらず、月10万円ほどのパート収入だけが頼りの彼女にとって、子ども2人の養育は経済的に困難が伴う。

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 そこで彼女が出した結論が「特別養子縁組」だった。育児ができない生みの親が育ての親に子を託し、親子関係を結んでもらう制度だ。特別養子縁組を斡旋するNPO法人「Babyぽけっと」(茨城県土浦市)の岡田卓子代表が手渡す書類に、母親は淡々とサインしていく。この後、赤ちゃんは岡田さんが一旦預かり、育ての親へ届けられる。

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 「バイバイだよ」「優しく」。母親に促され長女は赤ちゃんの頭をそっと撫でた。赤ちゃんを抱いた岡田さんに見送られ、二人はタクシーで病院を後にした。後日、母親は取材に対し「育てられないことに関しては今も悔しい気持ちの方が大きい。私にできることは目の前にいる娘を2人分愛して、育ての親の元での赤ちゃんの幸せを願い続けること」と心境を明かした。

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 岡田さんは6年前の「Babyぽけっと」立ち上げ以来、週に1人のペース、約400人の特別養子縁組を手伝ってきた。「口には出せない苦労がたくさんある、やってもやっても、次から次に出てくる」。背景にあるのは、児童福祉法に規定される「特定妊婦」の問題だ。経済的困窮や望まない妊娠などにより、出産前から社会的支援が必要な妊婦のことで、現在110人に1人の割合で存在(平成28年度)するといわれている。AbemaTV『AbemaPrime』による特定妊婦の女性たちへの取材で、その支援の必要性が浮き彫りになった。

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■「お腹をメッタ刺しにして自殺していたかもしれない」

 行政による「特定妊婦」対策としては、妊娠から出産に至るまで医療機関や自治体が連携、切れ目のない相談や支援体制を整え、母子生活支援施設への受け入れ、入院助産制度(出産費用の全額・一部助成)、養子縁組や里親制度に関する適切な情報提供といった支援が行われることになっている。しかし岡田さんのような活動が必要なのは、そこから漏れてしまった妊婦たちが大勢いるためだ。「行政に行っても門前払いを食らうし、母子手帳一冊出してもらうのも簡単じゃない」。

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 たとえば今年4月、群馬県の老人保健施設で紙袋に入った赤ちゃんの遺体が見つかり、公園のトイレで出産したという40代の母親が逮捕された。また、6月には20代の母親が東京・歌舞伎町の漫画喫茶で出産・殺害、コインロッカーに遺体を遺棄したとして逮捕されている。

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 岡田さんの元にも、孤独な境遇からの悲痛な訴えは後を絶たない。この日、「Babyぽけっと」へ届いた20代の妊婦からのメールには「夫から出産費用を渋られ、精神的に追い詰められている」とあった。岡田さんはこうした女性たちを母子寮で預かり、医療機関に繋げたり、福祉サービスを一緒に探ったりと、出産までの間、様々な支援を行っている。

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 神奈川県から入所した妊婦(19)は妊娠8か月。岡田さんが赤ちゃんにミルクを飲ませている様子を見て「怖いから無理。子ども嫌い。今は私の中にいるけど、何だろう、"異物"」と話した。岡田さんによると、こうした感覚を持った妊婦は珍しくなく、「あんな風に言っているところに"可愛いんだよ"って言っても、今は受け入れられないと思う」。

 妊婦健診も一度しか受けておらず、費用が払えず中絶も断念。しかし出産という選択肢もなかったため、流産を試みたという。「毎日うつぶせで寝たり、度数が高いお酒をわざと飲んだり」。岡田さんたちは直ちに病院で検査を受けさせることにした。早産の危険性もあり、緊急入院することになった。

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 退院後に話を聞いてみると、「父親は知らない人。仕事でできてしまった。援交」と明かした。高校2年から、主にツイッターで出会った男性と援助交際をしていたという。お腹の子については「絶対に愛せない。1ミリも好きじゃない。入院して"あぁ赤ちゃんなんだ、人の子なんだなぁ"みたいな感じだけど、"動く異物"。エイリアンみたい」と表現した。

 仮に岡田さんたちの存在を知らなかったとしたら?と尋ねると「お腹をメッタ刺しにして自殺していたかなって。まぁ3回くらいしか無理だと思うけど」と話す女性。そこまで子どもを嫌悪する理由は、幼少期に受けてきた暴力を自身が繰り返したくないという気持が強いからだと答えた。

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 特定妊婦の出産後の状況を初めて追跡した全国調査によれば、子どもが虐待を受けるなどして行政から要支援とされた割合は一般の家庭の約2%に対し47.2%に上るなど、社会的リスクと児童虐待発生の関連性を実証的に示す結果も出ている。特定妊婦の支援は出産後も必要なのだ。

■「サポートが無ければコインロッカーに捨てていたかもしれない」

 実は岡田さん自身、養子縁組で子どもを引き取り育てた一人だ。"幼い命を守りたい"というその願いに共感した人たちにより、少しずつ支援の輪も広がっている。自宅を母子寮として提供するなど「Babyぽけっと」の活動を支えるのが、静岡県に住む滝口さん夫妻だ。15年にわたる不妊治療に苦しんだ夫妻と暮らす5歳の女の子と3歳の男の子もまた、「Babyぽけっと」を通じて養子として迎えた子どもたちだ。

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 「コンドームが外れてしまって、その1回でできてしまった」。経済的な事情から特別養子縁組を利用することを決意し、滝口さんのところに先月やってきたのが松下さん(仮名、42)だ。大学卒業後、大手外食チェーンに就職したが、5年前に人間関係に悩み退職。無職となった。やがて貯金も底をつき、風俗店で働くようになった。会社勤めではないことを理由に賃貸契約が更新できず、家も失った。身寄りもなかったため、この数年間、カプセルホテルやネットカフェで過ごし、たどり着いたのが東京・山谷にある日雇い労働者らが泊まる簡易宿泊所。妊娠がわかった後も滞在を続けた。

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 持ち物はスーツケースひとつ。大切に持っていたのが、3年以上前に失効した保険証だ。「身分がわかるものがこれしかない」。住民票もなく相談する自治体もわからない。それでも産む決心をしたのは、社会人2年目の時に付き合っていた男性との間にできた子どもを中絶した過去があるからだという。男性に結婚の意思はなく、両親からも未婚での出産を反対されたからだった。

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 「病院に行かずに産む方法はないのかと考えた時に、ちょうどコインロッカーで赤ちゃんが見つかったニュースで見た。もしかしたら私も同じことをしちゃうんじゃないかと思った」。そう涙ながらに明かした。

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 滝口さんに連れられ、助産院に向かった松下さん。妊娠してから5か月間、やはり一度も通院してこなかった。診察した太郎助産院の小柳布佐院長は、敬遠されがちな特定妊婦も受け入れてきた。「とにかく助けを求めたことが素晴らしいこと。自分と赤ちゃんのことも大事にしてくれたんだなと思う」(小柳院長)

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 松下さんは滝口さんの勧めもあり、滝口さんの父親が営む作業所に住み込みで働くことにした。「今まではその日暮らしで、稼げない日もあった。これからは1週間先、1か月先と、少しずつ目標が立てられるようになれたらなって思う。助けを求めてよかった」。

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 「Babyぽけっと」を通して育ての親になった小玉さんは「本当に貴重な体験をさせてもらっている。不妊治療をしている時よりはすごく幸せになったというのがある。笑いの絶えない明るい家族になればいいなぁと」と話していた。

■足りない特別養子縁組支援、民間は資金難…

 岡田さんの元には、育ての親たちからたくさんの感謝の手紙が寄せられる。そこに綴られているのは、産みの親に対する感謝だ。その一方、自分で子どもを育てられなかった母親たちに対する批判の声も多いという。「"何で自分が産んだ子どもを人に渡すんだ?""それを何であなたたちは助けているの?"って。正論だけど、それができない現実もあるということを知って欲しい」。

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 岡田さんによれば、相談件数は年々増加の一途をたどっており、先月は2週間で7人の相談があったという。「中には精神を病んでいる人もいる。私たちの活動はとても時間がかかるし人手もいる。行政にも何度も足を運んでいるが…」「民間団体には助成金が出ていない。非営利活動法人ということで、本当に少ない事務手数料の中でやっていかないといけない。資金集めはすごく難しい」。

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 社会問題の現場へのツアーなどを提供する一般社団法人リディラバ代表の安部敏樹氏は「社会問題というのは見つけるのが大変で、特定妊婦の場合も逃げてしまったり隠れてしまったりするので、小さな声を拾って救いの手を差し伸べる活動が必要だ。養子縁組斡旋は民間で年間160件しかなく、児童相談所のものと合わせても年間500件でしかない。それに対して、毎年数千人が児童養護施設に入っている。特別養子縁組をサポートしていく仕組みは十分ではない」と指摘する。

「援助交際で妊娠した。1ミリも愛せない”異物”」赤ちゃんを育てられない特定妊婦たちをギリギリで支える支援者たち
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 相次ぐ虐待事件を受けた「#こどものいのちはこどものもの」や、社会的な保護を必要とする子供たちをクラウドファンディングで支援する「こどもギフト」を展開するエッセイストの犬山紙子氏は「とにかくお金がない、という話が色々なところから聞こえてくる。一方で何かしたい、でも何もできないという声もたくさん届いている。それらをマッチングさせて、支援がしっかりと届く仕組みを作れたら意義があるんじゃないかと思っている。養子縁組斡旋のような活動をされている方々の中には、無理して自腹切っている方もたくさんいらっしゃるが、そういう状況はよくないと思う。きちんとお金が回って人を雇えたり、場所を借りられたりすれば、もっと良い環境が作れると思う」と話していた。

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 岡田さんは最後に、妊娠して悩んでいる女性に向けて「とにかく誰かに言って欲しい。抱え込まないで誰かに発信してほしい。大事な命なので、育ててくれる人は他にいるよということを伝えたい」と語りかけていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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