「どうかお願いです。補聴器をイヤホンと思わないで。自転車に補聴器を付けて乗っていたのですが、警察官に注意されたので、誤解を招かないよう説明したのですが『イヤホンと誤解するから外せ』と。補聴器を外せば何も聞こえず。事故の可能性が高くなります。どうか拡散お願いします」。
先月、18万回もリツイートされ、話題になった補聴器ユーザーの叫びだ。交通問題に詳しい加茂隆康弁護士は「難聴者が補聴器を着けているのは正当な行為。『イヤホンと誤解するから外せ』は言い過ぎだ。道路交通法の施行細則について十分に認識していないからだと思う」と指摘。この問題は国会でも取り上げられ、政府は「法においては聴覚障害者が補聴器を使用して自転車を運転することは禁止されておらず、引き続き適正な指導取締りがなされるよう都道府県警察を指導してまいりたい」と答弁している。
しかし、ネット上には「補聴器つけなくても耳が遠いだけでしょう?」「聞こえにくくてもなんとかなるんじゃない?」といった意見が投稿されており、色やデザインの洗練された最新の補聴器を見た人たちが「Bluetoothのイヤホンか何かですか?」と反応するなど、私たちが十分に正しい知識を持っているとは言えない現実もある。 補聴器専門店ブルームヒアリングの礒部徳人店長によると、「せっかく着けるのであればオシャレに使いたい、カラフルに気持ちを明るくして使いたいと、アクセサリー感覚で選ぶ方も増えてきており、 一方、ワイヤレスのイヤフォンを使う方も多くなっているので、非常に見分けるのが難しいというのは確かだと思う」と指摘する。
知られていないがゆえに理解してもらえない難聴者の苦悩を描いた漫画『淋しいのはアンタだけじゃない』では、「歯を磨いても、音がないから突つかれてる感じしかしないし、(コップを)置いた時の音が聞こえないから、力の加減が分からない」と悩む突発性難聴の女性や、「盛り上がって酔っぱらってきちゃうと筆談なんかしない。そりゃそんな面倒くさいこと……。こんなに大勢、知人がいて…みんな何を話しているのか、まったく分からない…。みんな笑っているけど、なんで笑ってるんだろう…?」と悲しい思いをする男性の姿が描かれている。
そこで1日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、国内に約200万人いる補聴器ユーザーの生きづらい"音の世界"と、最新の補聴器事情について話を聞いた。
■専門家「ハンカチを口に押し当てて喋っているような音」
まず、難聴について、視聴覚障害に詳しい元筑波技術短期大学学長の大沼直紀氏は「皆さんが"耳"と呼んでいる耳介から耳掃除をする外耳とその奥に中耳炎で知られる中耳、ここまでの、音が入ってきて伝わる経路に障害がある場合を伝音性難聴と呼び、耳垢や水が溜まっていることによるものであれば治すこともできる。一方、これよりも先は内耳といって、手のつけられない場所だ。ここに障害がある場合、音が小さく聞こえなくなる上に、聞こえるけれども何を言っているのかが分からなくなるといった特徴が出てくる。これが感音性難聴だ。また、生まれてから言葉を習得し終える前に言葉を耳から習得する能力を失っているケースを先天性と言っている」と説明する。
「例えば健常者の皆さんは"竹下さん"という言葉についてTもSもKも聞き分けられるから"たけしたさん"だと分かる。しかし感音性難聴の場合、口元にハンカチを押し当てた状態で話しているような、ひずんでくぐもった声に聞こえると想像すればいい。"パパ"と"ママ"の場合も我々は聞き間違うはずがないと考えるが、特に赤ちゃんや幼児の場合、二泊の音としては聞き取れていても、PかMなのか聞き分けられない。最新の補聴器は感音性の方が聴力を落としている高い周波数を補うことで、このT、S、Kなど高い音韻を含んだ言葉を聞き取れるようにしている。このフィッティングが補聴器では重要で、そのための専門家も養成されてきている」。
その上で大沼氏は「補聴器もイヤホンも多様化し、外見上も近づいているので、誰もが間違ってしまうと思う。ただ、補聴器は補聴器らしく、イヤホンはイヤホンらしくということではないのは、社会としてはいいことだ。昔から考えれば、"補聴器を付けているのかどうか分からない"というのは技術が進歩しているからだし、そうした誤解をきっかけに皆さんの知識が増えていく、過渡期なんだと思う。当事者が自身のことを説明する力を付けていくと同時に、人々が難聴、補聴器ついての知識を豊かにしていく。時間はかかるが、そういう過程を辿らざるを得ない」と訴えた。
■先天性感音難聴の男性「皆さんの理解が深まっていけば」
先天性感音難聴があり、2歳半から補聴器を使用している原弘幸さんは「話し声はラジオの周波数が合っていないときのようなイメージで聞こえる。補聴器を付けていなければ怖くて出歩けない。目に入るものしか情報がなく、本当に無音の状態。後ろから車や自転車の音、人が歩いてくる音も聞こえない」と話す。嫌だった体験としては、コンビニで店員さんの声が聞き取れなかったので"なになに?"と耳を向けたら、"そのイヤホン外して"と言われた。補聴器だということを知らないという感じだった。健常者に近付こうと、言葉も喋り方も一生懸命に勉強するが、かえってそれがバリアになっている面もある」と話す。
前出の通り、最近では補聴器の多機能化が進んでおり、原さんが使用しているモデルもiPhoneとBluetoothで連動、電話や音楽の音声を聴くこともできるという。「防水性がそんなに高くないのでお風呂やプールでも外すが、災害時に気づけるよう寝る時は外さない方がいい。ただ、付けっぱなしでは脳が疲れて耳も痛くなるので、私は外している。また、電池は3日ごと交換、半年から年に一回くらい、聞こえ方に合わせるフィッティングに行く。耐用年数はだいたい5年と言われているので、そのくらいで交換している私の補聴器は両耳で60万円くらい。障害者手帳の等級によって補助を頂ける。昔の補聴器はタバコの箱のようなボックス型で、小学生の頃はそれを服の中に入れていたので、音が綺麗に入ってこなかった。その状況で言語獲得をしなければならなかったので、今のようには喋れなかった。最近では小さく、高性能になってきていて、特にこの5年ほどで想像できないくらい機能が進化していて、ノイズカットや声だけを拾うようになっている」。
最後に原さんは「補聴器に対して皆さんの理解が深まっていけば嬉しいなと思う。さらにろう者の側も、補聴器を使うことで社会とのコミュニケーションが深くなっていけば嬉しいなと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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