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 ついに香港市民に向け、実弾を発砲した警察。香港の盧偉聡警務処長は「警察官の命が非常に危険にさらされ、襲撃を止めるために発砲せざるを得なかった。射撃は適法で適切だった」と発砲は正当なものだったと主張した。

 しかし、警官に撃たれてケガをした学生が通っていた学校の前では在校生や卒業生などが黒い服を着て抗議の声を上げており、「デモは続くし激しくなる。今後誰かが死んでも驚きはしない」と警鐘を鳴らしている。

 一方、中国本土の北京ではこの日、建国記念日にあたる「国慶節」の式典が挙行された。70年の節目とあって天安門広場では過去最大規模の軍事パレードが披露され、習近平国家主席は「我々は平和統一と一国二制度の方針を堅持しなければならない。香港とマカオの長期的な繁栄と安定を維持する」と語りかけた。

 実弾が発砲されたことで、香港デモはどのような変化を見せるのだろうか。30年前、民主化運動が軍の発砲などによって鎮圧された天安門事件の悲劇が繰り返されるのだろうか。

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 先月末に香港を取材してきたばかりのジャーナリストの堀潤氏は「日本のメディアでは"若者の過激化と"言っているが、実際は人権を蹂躙するような当局側の行いに対して抗議をしている。ただ資材が限られているので、公共物やフェンスを使ったり、道路の舗装を剥がして投石の代わりにしたりする。その中では関係ない店舗を鉄パイプで壊そうとする若者もいるが、仲間たちが"そこは違う!だめだ!"と身を挺して止めるような現場もある。一方、当局の対応もなかなかだなと思ったのは、翌朝になると道路の舗装を直して秩序回復してもいる。しかし、本来は広東語を使うはずの香港警察の中から北京語が聞こえてくることがあり、彼らは圧倒的な暴力で若者たちを捕えていく。警察の編成がどういうことになっているのか」と話す。

■"発砲許可"の狙いは報道のジャックだった?

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 堀氏の疑問に対し、東アジア情勢に詳しい講談社の近藤大介特別編集委員は「特に10月1日の国慶節だけは抑えこめというところもあったと思うが、銃を威嚇で使うことはあっても、発砲はなかった。こうなってしまうとデモ隊を止められなくなると思う。そこで堀さんの話は意味深だ。確かに中国大陸から来た武装警察が入り込んでいるという噂はあり、もしかしたら高校生に発砲した警官もそうだったのかもしれない」とコメント。

 学生時代から中国の民主化運動に関わり、天安門事件を知る評論家の石平氏は「今まで発砲しなかったのは、おそらく香港政府からの指示があったからだと思う。その方針が変わり、危険を感じたら発砲していいよと"お墨付き"が出たのではないか。北京政府としては、このまま騒乱が長引けば台湾の総統選挙や米中の貿易戦争などにもマイナスの影響が出てくる。しかし武装警察や軍隊による鎮圧はリスクが大きすぎるのでできない。そこで香港当局と香港警察に圧力をかけ、"香港警察もやっていいぞ"という発砲を許可し、香港警察に手を汚させることで事態を収拾させようというのが中国共産党の計算だ。しかし、それぞれの警察官がとっさの判断で正しい判断ができるわけがない。だからこそ正当防衛だったとして正当化されるようになるだろうし、むやみにやってしまうケースもこれから増えるだろう。香港警察が凶暴になれば、対するデモ隊側もさらに過激化する。そうなれば鎮圧の口実を与えてしまうことになる」と懸念。

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 『月刊中国ニュース』編集長の中川コージ氏は「国慶節だけは抑える、という方針だった可能性もあるが、"発砲許可"という点ではルールメーカーは北京の中央政府。発砲すればセンセーショナルに報じられ、市民側が怒るということも含めて計算していないはずがない国慶節にあたり、内政的には強い中国を見せないといけないということと、対外的には控えめにしなければならないというアンバランスさの中でのジャミングではないか。北朝鮮の弾道ミサイル発射問題と香港の問題がエスカレーションすれば、これらの報道によってメディアがジャックされる、北京のパレードの報道を抑え込むことができる」と指摘。

 その上で、「結局、ゴールがなんなのか、そこがデモ隊に見えないという時点で、負けと言えば負けで、北京中央の手の上で踊らされている。香港市民たちも答えを持っていないし、香港政府もあくまで"中間管理職"なので答えを持っていないし、両方に目的がない中で向かい合っているという部分がある」とした。

 しかし堀氏はデモに参加する若者たちを取材する中で、「毎日のように大陸から入植者がきて、アイデンティティが中国化されていくことに不安を感じている。台湾には軍隊があるが、香港にはないので、国際社会に訴えるしか無い。報道も含め、圧力をしっかりかけてほしい」という主旨の話を聞いたと話す。そんなデモ隊の"5大要求"の一つ、「逃亡犯条例の改正案完全撤回」を香港政府が受け入れたことには、どのような背景があるのだろうか。

 近藤氏は「国慶節をつつがなく終えるため、林鄭月娥長官に与えられていたカードの一つだったと思う。元々、なかったものをなかったことにするだけなので仕方がないということ。次のカードは林鄭月娥さん自身の辞任だ。そのようにして、一つずつカードを切っていく」、中川氏は「ドライな見方をすれば、市民からしたら大事なことだが、北京の中央政府からすれば、"ここでこのカードを切ったら盛り上がるだろう。ここでこのカードを切ったら沈静化するだろう"というコントロールの一つに過ぎない」と分析した。

■今後の展開を、3氏はどう見る?

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 近藤氏は「中国国務院で香港を担当する香港マカオ弁公室は法学者が集っているが、デモに全然対処できていないということで、国慶節の休み明けにメンバーが一新され、もっと強硬な人たちを入れていくのではないかと思う。また、香港政府がネットや交通、集会などを強力に制限できる緊急状況規則条例を発動させる可能性も十分にあると思う。ちょうど習近平主席と林鄭月娥さんが会談をしているので、戦略を練っているだろう」との見方を示す。

 その上で「今、中国政府が"3つの導火線"と呼ぶ問題がある。一つはデモが広東省、特に深センに移ってくること。二つ目は香港問題が台湾問題に移ること。三つ目はアメリカだ。最も恐れているのが、香港の生命線であるドルペッグ制の廃止で、これをアメリカに切られたら、もう香港は存在する意味がなくなってしまう。中国国内では社会主義市場経済というシステムの矛盾がどうしようもないとこまできているし、中国と香港は一国二制度の矛盾でどうしようもないところまできているのが今の状況だ」とした。

 一方、中川氏は「民主化運動が大陸に飛び火する可能性は9割9分ないと思う。確かに香港市民からすれば、経済も権利も奪われている。しかし大陸の人々からすれば、"イデオロギーでは食えない"というのが本音だ。香港は経済的に発展してきたではないか、しかし自分たちは貧しかったんだと。だからこそ中国政府は真綿で締めるように香港の地盤沈下を図り、深センなどを持ち上げることをしてきた。北京政府の初動は失敗したが、形式的には一国二制度を認めているよと対外的にアピールするなど、手練手管で対応を変えてきているイメージがある。そして、その一国二制度も結局は時効がくる。キーワードは"長期化"だ。米中対立という、大局的構造の中のサブセットが香港問題であって、アメリカとは直接対立せず、力がついた時に交渉するというのが彼らの基本戦略だ」と分析。「今後は国務院というよりも中国共産党の中央統一戦線工作部が香港関係の人に対し介入し、工作をするだろう。また、ネット規制の前に、カウンター意見を広め、沈静化させようとすると思う」との見方を示した。

 石氏は「中国共産党政府の長期的なビジョンでは、実は香港問題よりも台湾問題だ。至上命題は台湾の統一。しかし香港の問題がうまくいかなくなれば、台湾統一の目標がさらに遠くなる。そんな中で、中国共産党は論理の入れ替えをしてまった。香港の若者たちが求めるのは民主主義的権利や人権だが、中国共産党の中では若者たちが外国勢力に操られて、反中国の勢力になってしまったと位置づけた。その議論を信じている人も多く、中国の若者たちの愛国主義的な視点からすれば、香港の若者たち香港の若者たちはけしからんという話になってしまう」とコメント。

 「これから注目すべき動きは、アメリカの上下院で香港に対する貿易面での優遇に制限がかけられる法案が成立すれば、中国政府にブレーキをかけられる。さらに、香港当局の人が学生の鎮圧に手を出したと認定されれば、アメリカに行けなくなってしまうことになるので、香港政府にとってもブレーキになる。私の望みとしてはトランプ大統領に署名してほしい」と語った。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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