DDTのビッグマッチ、11月3日の両国国技館大会『Ultimate Party』で数々のタイトル戦に負けない注目を浴びているのが、ケニー・オメガの出場だ。ケニーにとってDDTは日本での出世のきっかけとなった“古巣”。今回は久々の参戦となる。新日本プロレスでIWGPヘビー級王者になるなどブレイクを果たし、現在はアメリカの新団体AEWの選手兼副社長だ。

 両国国技館での対戦カードは、ケニー&里歩vsアントーニオ本多&山下実優。フリーの里歩はAEW女子王者になったばかり。山下は東京女子プロレスのエースだ。男女ミックスマッチ、またアントンことアントーニオ本多がコミカルな試合を得意としているため「せっかくケニーが出るのにこのカード?」と感じたファンもいるようだ。ただ新日本以前のケニーは路上プロレスや笑いの多い試合、女子選手との試合も得意としていた。その幅の広さがあるからこそ一流なのだとも言える。DDTらしい試合、他ではできない試合という意味では“さすが”のマッチメイクではないか。実はこのカード、ケニーの希望で決まったものだという。

 アントンと山下は10月19日の両国KFCホール大会で「Road to Ultimate Party」として3組掛けマッチを行なうこととなった。3チームと連続で対戦するという形式で、勝っても負けても3試合するまで終了にならない。過酷な闘いの中でチーム力を高めようというわけだ。対戦するのは男色ディーノ&渡瀬瑞基、大鷲透&平田一喜、高梨将弘&大石真翔の3組。

 2人はDDT定例会見で意気込みを語ったが、アントンは乱入してきたディーノ&渡瀬をなだめようと独自すぎるモノマネを(山下も巻き込んで)披露。取材を脱力させたのだった。あらためてのコメントでも「このカード(ケニー&里歩戦)については“コメディっぽい試合か。ケニーが来てそれか”みたいに捉えられることが多いと思います。主に私の存在のせいで。私が入るとそういうニュアンスが強まると言いますか」。しかし同時に「当日リングに立って、ケニーを前にして、私自身どんなものが出てくるか分からない」とも語っている。

 アントンといえば「徹夜で考えた創作昔話・ごんぎつね」からの目潰しで知られるが、コアなファンには“エモい”試合をする選手としても絶大な信頼を得ている。普段コミカルだからこそ、プロレスが持つ熱さを体現した時の感動も大きい。今年2月の『マッスル』両国大会では、コミカルかつエモーショナルな最高のメインイベントを見せてくれた。両国国技館でのタッグマッチについて「どんなものが出てくるか分からない」と語ったのも、コミカルな試合専門ではないからだろう。

「山下さんのたたずまいから、自分の態度が決まってくるかもしれない。その場、その瞬間の感情に根ざした闘いになると思います」

 この“分からなさ”が、この試合の最大の魅力ではないか。また山下にとって、AEWコンビとの対戦は飛躍のチャンス。これがきっかけで世界中のプロレスファンに知られることになるかもしれない。そんな一戦に向け、山下はあくまでエースらしくこんなコメントを残した。

「DDTのリングで試合をする時は、東京女子プロレスを背負うという信念があります。特に今回は世界的に注目されている選手と闘えるので大きなアピールになる」

 自分を通して団体そのものの魅力を世界に伝える。それが山下の狙いのようだ。その一方で「相手だけでなくパートナーのアントーニオ本多さんも体感したい。私にごんぎつねが憑依するかもしれない」。山下は山下で、どんな試合になっても動じない気構えができている。

 DDTのリングでケニーが見せたいものは何か。それに呼応してアントンはどう出るか。山下と里歩の2度目の激突も、女子プロレスファン以外にも届くものになるはず。そしてごんぎつねは披露されるのか……。この試合自体が「Ultimate Party」と呼ぶにふさわしい。

文・橋本宗洋