「大学に籠城するにはガバナンスが必要」指導者不在がマイナスに? 長期化する香港デモの実像
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 抗議活動が続く香港では、警察とデモ隊の主戦場が大学のキャンパスへと移行、籠城する学生たちと包囲する警察との間で、激しい衝突が起きている。19日夜のAbemaTV『AbemaPrime』では、香港中文大学に在籍しており、衝突を目の当たりにしたという石井大智さん(23)に現在の様子を聞いた。

 石井さんは学生たちをめぐる状況について、「香港中文大学の学生とそれ以外が対立し、方針が合わなくなってきた。対立軸がたくさんあるので説明が難しいが、中文大学以外の学生が記者会見を開き、“道路を1本空けるから、今度行われる区議会選挙は絶対に実施しろ”という条件闘争を始めた。一方、中文大学の学生会はそういう話は聞いていないと反感を強め、溝が生まれてしまっていた」と説明する。

 「中文大学の学生たちが撤退を決めたので過激な抗議者だけが残ったが、それでは結果として立ち向かうことができず、全員が退散した、というのが先週金曜日の夜の状況だ。香港の大学の成り立ちから考えて、香港人は大学が公有地だという考え方を持っていないため、私有地に警察が入るのが許せないと感じる人が多い。法律上、私有地に入るには様々な許可や令状、そうでなければすごく差し迫った理由が必要だが、それ無しに入ってきているとの考えからの行動だが、やはり路上と大学構内では全く違う。道でデモをする場合は“Be water=水になれ”という掛け声もある通り、逃げればどうということはない。しかし大学で籠城するということはテリトリーを持ち続けるということだ。そのためにはガバナンスが必要になる。そこでリーダーがいないということがマイナスに働いたということも考えられる」。

 また、今回の衝突の舞台となった香港中文大学と香港理工大学では、やや状況に違いも見られるようだ。

 「抗議者側の暴力よりも、警察の暴力の方に目が行くので、学生としては警察に批判的だ。特に中文大学の場合、かなり学生の暴力も目立っていたが、理工大学の場合は警察の暴力がメディアでも目立っていたので、現在は警察を責める姿勢で、あまり抗議者を責める声は聞かなくなった。一方、私が政府関係者や建制派に近い人に聞き取りをしている限り、開かれる可能性が高いとみている。ただ、建制派は確実にかなり厳しい状況に置かれている。中文大学でデモが起きた時、警察の攻撃が一時弱まり、むしろ抗議者による車を燃やすなどの暴力的な行動が目立って、民主派にマイナスに働いていた。しかし理工大学についてはメディアが明らかにプラスに働く報じ方をしていた。だから今週の1週間でプラスマイナスゼロになったと思うし、どちらかといえば民主派には極めて有利な展開になったのかと思う」。

 一方、警察に対しては、現場よりも上層部への批判が多いのだという。「“上から指示されているから仕方なくやっている”という考え方をしているし、香港人が警察を責める時は、現場よりも上層部と黒社会との繋がりを指摘している」。

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 また、今回の衝突の舞台となった香港中文大学と香港理工大学では、やや状況に違いも見られるようだ。

 「抗議者側の暴力よりも、警察の暴力の方に目が行くので、学生としては警察に批判的だ。特に中文大学の場合、かなり学生の暴力も目立っていたが、理工大学の場合は警察の暴力がメディアでも目立っていたので、現在は警察を責める姿勢で、あまり抗議者を責める声は聞かなくなった。一方、私が政府関係者や憲政派に近い人に聞き取りをしている限り、選挙は実施される可能性が高いとみている。ただ、憲政派は確実にかなり厳しい状況に置かれている。中文大学でデモが起きた時、警察の攻撃が一時弱まり、むしろ抗議者による車を燃やすなどの暴力的な行動が目立って、民主派にマイナスに働いていた。しかし理工大学についてはメディアが明らかにプラスに働く報じ方をしていた。だから今週の1週間でプラスマイナスゼロになったと思うし、どちらかといえば民主派には極めて有利な展開になったのかと思う」。

 一方、警察に対しては、現場よりも上層部への批判が多いのだという。「“上から指示されているから仕方なくやっている”という考え方をしているし、香港人が警察を責める時は、現場よりも上層部と黒社会との繋がりを指摘している」。

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 そして、これほどまでに抗議者がエスカレートした理由について、石井さんは「周りの意見を“気にしない”一部のデモ隊」、「年齢が高い層の“引け目”」、そして「警察・政府批判が“目的”になっている」の三点を指摘する。

 「まず、デモ隊は親中派や政府寄りの人の意見を一切気にしない。つまり、自分たちに近い意見の人の言葉しか聞かなくなっているということ。次に、では誰の話だったら聞くのかといえば、おそらく民主派や、政府に反感を持っている大人たち。そして、昔からの民主派の大人や、それほど活動はしていなくても政府に反感を持っている大人は、自分らの世代で解決できなかった課題について、子どもたちがこのような行動に出てしまっていることに責任を感じている。そこで過激な抗議者を責めることができず、むしろ可哀想だとすら思ってしまっている。また、警察・政府と抗議者という対立軸の問題。これはメディア戦争、情報戦争でもあるので、たとえ抗議者が何をしようが、一部がやったことであって、我々はあくまで警察や政府を批判し続けなければならないと。そうなると、香港警察や政府を批判することが目的化してしまい、抗議者側からは自己批判するようなコメントが出にくくなってしまう」。

 今後の見通しについて石井さんは「仮に選挙で民主派が大きく負けた結果、暴力的なデモは間違いだったと考える人たちが現れ、デモの参加者が減り、結果的に沈静化に向かう可能性がある。ただ、今のところ民主派が大きく負けるということは少し考えにくいので、しばらく沈静化はしないと思うし、香港政府、警察、デモ隊が取れるオプションは限られている。ここはやはり香港政府にある程度影響力のある人たち、いわゆる建制派が目を覚まし、自らの役割を認識すべきだ。建制派はしばしば親中派とされるが、必ずしもそうではない。植民地時代に香港政庁に近い経済界の支配者と、中共に近い人たちが結びついている。今は経済界にも影響力を持っている人ともたくさんいるし、北京と全く同じ方向を向いているというわけではない。自分たちが支配階級であり、極力関わらないでおこうという姿勢を捨て去り、解決しようとしないとところに、不信感を覚える」と話していた。

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 石井さんの話を受け、戦略科学者の中川コージ氏は「報じられる映像からは一旦引いて、客観的に世界の構造を見た方がよい」と指摘する。

 「香港、中国・北京政府、それからアメリカという三者の構図を見ていくとすっきりすると思う。そして今回、勝利者がいないということもポイントだ。もともと逃亡犯条例に反対する香港市民が始めた活動で、撤回まで漕ぎ着けた。しかしここまでくると犯罪者というレッテルを貼られないためにも、活動を続けざるを得ない。北京中央からすれば、2000年代から深セン経済を成り立たせ、香港をある意味で地盤沈下させてきた。つまり、香港の混乱が長引けば長引くほど、北京中央に得だ。また、アメリカとしては中国が人権弾圧をしているという批判ツールとして香港の問題を使いたいという狙いがあったが、香港の状況がこれほど世界に発信されているので、これも得るものがあった。つまり、それぞれが一定の勝利条件を満たしていると思う。北京中央は水面下で統一戦線工作(中国共産党中央統一戦線工作部)の第3局という所を使い、糸を引いている。やはり長期化を狙っている可能性があるというところに注意した方が良い」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:“籠城の現場“現地大学で学ぶ日本人研究者に聞く

なぜ香港デモは路上から大学に移ったのか!? “籠城の現場“現地大学で学ぶ日本人研究者に聞く
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