「聖母マリアはインフルエンサー」親しみやすく、SNSも積極利用するフランシスコ教皇の“現代性”
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 来日中のローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇。82歳ながら過密なスケジュールをこなし、24日に長崎と広島を訪問、翌25日午前は、東京での「東日本大震災被災者との集い」で講話、皇居で天皇陛下と歓談、夕方には安倍総理とも会談した。

 さらに日中には東京ドームで5万人が参加する巨大ミサに参加、専用車「パパモービレ」に乗った教皇が登場すると、会場からは割れんばかりの歓声が。手を振りながら、時折子どもたちの前で車を止めて、キスをするなど参加者と触れ合いながら15分かけて会場を回り、「日本には社会的に孤立している人が少なくない。社会が支え合う場としての機能を果たせていない」と呼びかけた。一方、会場の外にはまるでコンサート会場のような来日記念グッズのショップが並び、Tシャツやトートバッグなどを求めて長蛇の列ができ、早々に売り切れになる商品もあったようだ。

 キリスト教の三大宗派の1つで、信徒数は世界人口の17%にあたる13億人(日本には約44万人)を擁するローマ・カトリック教会。そのトップであるローマ教皇は最小国家・バチカン市国の国家元首も兼ねており、現在では183の国と地域と外交関係にある。そうした独自の立場から、第2次世界大戦の終戦工作、キューバ危機での米ソ首脳仲介、冷戦下でのポーランド民主化運動支援、近年では米・キューバ国交正常化仲介などの役割も果たしてきた。フランシスコ教皇も、“自国ファースト”が進む中にあって、核兵器の問題や難民・環境問題といった、個々の国では解決の難しい問題についてメッセージを発信している。

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 国際基督教大学の森本あんり教授は「一つの宗教のトップであると同時に、一つの国家の元首でもある。日本でも天皇陛下や首相がお会いになるので、機動性が高い。そして、言いにくいことにも踏み込む。キューバ危機の際、カトリックだったケネディ大統領が当時の教皇であるヨハネ23世に相談をした。するとヨハネ23世はバチカンからラジオ放送で“人類の叫びをすべての政府が聞いてくれるように請い願う”と呼びかけた。アメリカもソ連も後に引けなくなる中、これでフルシチョフの面子も立ち、“それでは引き上げましょう”となって話が進んだ。また、ポーランド民主化運動の際には、市民はちょうど今の香港と同じような状況にあった。バックにいるソ連の戦車が侵入してくるのではないかという危険を感じる中、ヨハネ・パウロ2世がソ連の侵入を抑えてくれた。それで民主化運動組織『連帯』は勝つことができた。結局はこれがベルリンの壁の崩壊、冷戦の終結に至ったわけで、非常に大きなことだと思う。今回フランシスコ教皇も日本に対して、原発に依存していいのか、アメリカの核の傘の下で生きていていいのか、という問いかけを示唆した」。

 そんなフランシスコ教皇はイエズス会出身、南半球出身、さらに「フランシスコ」を名乗るなど、初めてづくしの教皇でもあるという。“非エリート”の“庶民派教皇”でTwitterを活用、ホームレスを食事に招待したり、教皇として初めて女性イスラム教徒の足を洗ったりと、大胆な行動にも打って出る人柄のようだ。

 「もちろん先代のベネディクト16世も人気者ではあったが、神学者で頭の切れるような人だった。一方、フランシスコ教皇は下町で人々の間に入って仕事をしていた人なので、雰囲気がずいぶん違うと思う。民衆のところにいる姿もかわいいし、東京ドームのミサをYouTuberで中継するなど、やはりメディア時代の教皇としてのやり方も上手い。“足を洗う”というのは新約聖書に出てくる、イエスが貧しい人たちや虐げられた人たちに仕えたというはたらきを示す行為で、とてもいいことだと思う。イスラムの方々との対話や融和を進めたいというお気持ちだと思う。カトリックが新しい方向へと動いている、という印象を皆が持っていると思う。一方で、13億人のてっぺんに立っている人でもあるので、それなりに保守的な部分もある。それでも“清貧”や“改革”のイメージのあるフランシスコという名の通り、教会改革を進め、腐敗を正していきたいという気持ちは強い」(森本教授)。

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 そうした点について、中学・高校がカトリック系だったというマルチタレントのはましゃかが、カトリックのトップであるにもかかわらず同性愛について柔軟な考えを持っていることに驚いたとコメント、ノンフィクションライターの石戸諭氏も「彼自身はすごく大胆で、現代的な役割を期待されて教皇になったとみられているし、本人も自覚的だと思う。例えば聖母マリアについて“神様のことを伝えるインフルエンサー”と表現するなど、現代的な用語も使う。それと同時に、社会の分断をものすごく気にかけている人で、積極的に他の宗派やホームレスなど、本来は交わることがないような人のところにも赴いて話をする。信徒のたった0.3%しかいない日本に来た理由も、異なる問題や異なる自分ら赴くという姿勢の表れだと考えられている」と話す。

 森本教授は「欧米の司教団は避妊や同性愛についての態度を考え直してくれと言い続けてきたが、バチカンはこれを無視してきた。しかしカトリックの聖職者は独身制であることもあり、全世界で志願者が激減している。教皇自身の本当の考えは分からないが、色々と揺れているのだろうし、もう少し寄り添う姿勢が必要だとも考えているだろう。そうでなければもうやっていけない。一方でバチカンは官僚組織でもあるので、教皇が先頭に立って過激な改革をすることへの反発が出てきてしまう。そこを上手に引っ張っていく必要はある。また、アフリカやアジアの一部では聖職者の志望者が少し増えている。今回、ミャンマー、バングラデシュ、タイ、そして日本と、必ずしもカトリックの人口は多くはないが、宗教間の対話や平和、難民問題があるところで人々に訴え、カトリックの使命を果たしたいと思っているのだろう」との見方を示した。

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 一方、カトリック系の幼稚園に通っていたというお笑い芸人のカンニング竹山は「シスターに育てられたという感覚がある。教会で怒られ、お尻も叩かれ、“イエス様に謝りなさい”と言われていた(笑)。だから大人になっても神様のことを想像しようとすると、あの教会で見たキリストが出てくる感じがあるし、教徒ではないが教皇に会いたくなる気持ちも分かる。東京ドームにも行ってみたかった」とした一方、「一つ疑問に思ったことがある」として、次のように問題提起した。

 「教皇が出席した東日本大震災被災者との集いでの、いわきから避難してきた少年の話だけが全世界にニュースとして流れてしまうと、いわきは住むことができない危険な場所だから避難しているという印象を与えてしまうのではないかと思った。いわきは強制避難の場所ではなく、生活している人もいっぱいいる。避難することは自由だし、原発の問題は考えなければいけない問題だが、誤解を招きかねない」。

 これに対し、石戸氏は「教皇自身はあの場で原発依存の是非について言及しているが、“それでいいんですか?本当に。もう少し考えてみましょう”というメッセージに留まっている。そちらを考えていくという点が重要ではないか」。慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「新興宗教のトップの活動は布教が第一義になってしまうが、長い歴史を持つ宗教であればあるほど、“もっと良い社会をつくりたい”ということが目的になるように思う。本当は色々なことを言っているが、みんなが自分に都合のいいところだけ切り取ってしまうし、教皇としては世界が少しでも良くなるためにということと、自分が率いている信徒にどのような影響を与えるかということの“両睨み”で発言しないといけないので、着地点を見つけるということはもの凄く大変だろうと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:「マリア様は神様のことを伝えるインフルエンサー」世界に13億人もの信徒を持つローマ教皇の魅力とは?

世界に13億人もの信徒を持つローマ教皇の魅力とは?
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