“道がわからなくなる”89歳の配達員 「生活」と「見守り」の両立はかる取り組み
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 住宅を回って書類などを届けている、福岡県・大牟田市に住む内田アケ子さん、89歳。宅配大手のヤマト運輸から委託を受けて配達業務を行っているが、実は言われたことを忘れやすかったり道がわからなくなったりするなど認知機能に障害がある。

 「姿見たら“あのおばあちゃん”じゃなかろうかと思って」「ばあちゃん、よか指輪はめとるわ。素敵」とみんなに親しまれる内田さん。地元ではちょっとした有名人だ。内田さんは週に1回、市内の小規模多機能型居宅介護施設「てつお」に通うかたわら、今年2月からヤマト運輸の「配達員」としてダイレクトメールなどを市内に届けている。

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 同行するスタッフから「初めて(配達)した時、7冊くらいで3~4時間くらいかかりましたね。全然わからなくて。そう考えると、今は21冊を1時間くらいで配りよる。早くなったね」と褒められると、「そうね。楽しいですよ。やっぱり家にいるよりも」と答える内田さん。

 内田さんは3年前に脳梗塞を発症し、その後記憶力や注意力が低下する「高次脳機能障害」と診断された。このため、内田さんには「少し前に伝えたことを忘れる」「道がわからなくなる」など、認知機能に障害がある。配達員を始める前、内田さんは何度か行方がわからなくなったことがあった。

 こうした中でも、内田さんが「できるだけ日常に近い生活」を望んだことから、事業所が「生活」と「見守り」を両立できる方法として配達員の作業を提案し、内田さんもこれを承諾した。

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 「やはり(内田さん)本人が住み慣れた地域で顔を覚えてもらうことで、もし行方不明になりそうな時があれば声をかけてもらえる。“顔の見える関係づくり”に重きを置きました。この取り組みをやったことで、地域と我々の距離感がすごく縮んできた」(介護施設「てつお」管理者の浦幸寛さん)

 ヤマト運輸が介護事業所に配達業務を委託する取り組みは、鹿児島県でも今年1月に始まった。宅配業界の「人手不足」が叫ばれる中、解決策の1つになり得る取り組みとも言えそうだ。

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 「高齢者・認知症の方々が活躍する場が社会にあり、それを地域で受け入れてくれる人がいる。(その枠組みを)私たちの本業を通して一緒につくり出せたのが意義なのかなと思います。一度にお渡しできる量とか時間には制約があって、ものすごく効率が上がる…とはならないが、もっと携わる方が増えてくれば、(宅配業界の)人手不足の解消にもつながっていくのかなと感じています」(ヤマト運輸久留米主管支店・田邉慎也主管支店長)

 配達には事業所のスタッフが同行するほか、猛暑などの際は配達を延期するなど安全を最優先したうえで作業は行われる。また、業務委託料は全て「手当」として配達員が受け取る。最低賃金は適用されないため手当の額は多くないものの、内田さんは仕事への責任感を感じ始めている。

 「途中で辞めたくないの。向こうから『もういいですよ』と言われるのは仕方ないけど、こっちから辞めたくない」(内田さん)

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 多少のハンディキャップがありながらも、高齢者が社会に貢献でき、地域とのつながりも深められる。こうした取り組みが、さまざまな業種に広がりをみせることが期待される。

(AbemaTV/『AbemaMorning』より)

映像:89歳の配達員・内田アケ子さん

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