厚生労働省が作った「人生会議」という取り組みの啓発ポスターに対して、がん患者団体などから批判が相次ぎ、自治体への発送が中止された。
問題のポスターでは、お笑い芸人の小籔千豊が死を前に自分の思いが伝わらない患者を演じている。人生会議はACP（アドバンス・ケア・プランニング）の愛称で、厚生労働省は「お墓や葬儀などの事前準備をする“終活”だけでなく、約70％が医療・ケアなどを自分で決めたり望みを伝えられない現状を踏まえ、もしもの時のため望んでいる医療やケアについて前もって考え、家族等や医療ケアチームと繰り返し話し合い共有する取組」としている。
街の人々からも賛否の声が聞かれる人生会議のポスター。AbemaTV『けやきヒルズ』では、厚生労働省のACPに関する取り組みに関わり、人生会議の名称の選定委員でもある紅谷浩之医師に話を聞いた。
「正直驚いた。（ポスターの内容に関して）相談みたいな確認はなかったので驚いたし、思っていたよりもインパクトのあるポスターだったのでびっくりした」
ポスターの第一印象をこう語る紅谷氏。しかし、驚きと同時に過去に読んだ小籔の記事を思い返し、今回の表現方法に納得した部分もあったという。
「小籔さんが自分のお母さんを亡くした時に、『もう少しいろんな話ができていたら』『どうしてあげたらいいのかな』という迷いがあったということをおっしゃっていた。小籔さん自身はお母さんを亡くされる過程の中で『もう少しこういう話をできたらな』ということが恐らくあって、人生会議のプロジェクトや委員会に参加していただいたんだろうなと記事を読んで感じていた」
もっと伝えたいことがあった、もっとしてあげられることがあったんじゃないか――。小籔がポスターに表現し演じた気持ちに共感と納得があったという。ただ、人生会議というテーマは、死を目前にした時だけではないというのが紅谷氏の思いだ。自分の大事なものや大切にしていることを、普段から伝え合うことが人生会議の中心にあるのだという。
「そういうことをしっかり共有しておくことが、いざ病気が差し迫った時に『お父さんはこういうことが好きだから、こっちを選んだ方がいいね』とか『お母さんはこういうことをされるのだけは嫌だったから、こういうことはやめとこうね』と、もう一度家族が話し合うきっかけになるんじゃないかなと思う。普段から話し合いをしてもらえたらというのが人生会議への思い。死の最後の最後にスポットが当たったようなポスターになっていて、そこは非常に残念だなと思ったが、我々医療関係者や役所が考えて人生会議を広めたいと思って、今までもいろいろ講演会とかポスターもやってきて、なかなか一般の方には届かない、難しいなとずっと思っていた。そういう意味では、今回のポスターは賛否があるとはいえ、いろいろ方に知っていただくきっかけになったんだなと。そちらの側面にも気づいたので、発信することの難しさといろんなやり方で繰り返し伝えることが大事なのかなと感じた」
紅谷さんが代表を務めるクリニックは、人生会議をテーマにしたある映像を公開している。47歳で肺がんが見つかった男性と、その家族の実際のエピソードが描かれたものだ。
「どこで死にたいか、病気になった時どうしたいか。そんな話ばっかりしなくてもいい。何が好きか、何を大切にしているのか。決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう。病気は、本人からも“自分らしさ”を奪う。（中略）あなたを知るみんなと一緒に、迷いながら選んで進む。（中略）人はいつどんな時でも、誰かの力になれる。（中略）決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう。こんなとき、私は、あの人はどんな選択をするだろう。その過程の先にはきっとみんなでうなづける未来がある。『人生会議』しよう」
この映像は人生会議をして「よかった」という部分に焦点を当てているが、問題のポスターは人生会議をしなかった「後悔」に焦点を当てたために炎上してしまったのか。東京工業大学准教授の西田亮介氏は「人生会議のニュアンスが、ポスターからだけでは伝わりにくかったかもしれない。『どのような死を迎えるのが好ましいか』を考えることだとうまく伝えられていれば、炎上や批判の声はもう少し和らいだかもしれない」との見方を示した。
（AbemaTV／『けやきヒルズ』より）
▶映像：「人生会議」選定委員が本当に伝えたい思い
