「取りやめになってしまったのは驚きだ」家族を看取った経験者と語る厚労省の「人生会議」ポスター問題
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 人間誰しもが迎える最期の時。そのことについて、家族と語り合ったことはあるだろうか。厚生労働省の調査によると、「詳しく話し合っている」が2.7%、「一応話し合っている」が36.8%だったのに対し、「話し合ったことがない」は55.1%だった。このテーマについて、AbemaTV『AbemaPrime』が家族を亡くした方に取材を進める中で飛び込んできたのが、厚生労働省のポスター問題だった。

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 “もしも”の時のため、本人が望む医療やケアを前もって考え、家族や医療・ケアチームなどと話し合い共有する取り組み「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」の愛称「人生会議」。これを啓発することを目的としたポスターだったはずが、家族を看取った経験を持つ人たちから「不謹慎だ。遺族の気持ちを考えていない」「死に向き合うときにそんなにふざけてない!」「直接、死を連想させすぎ」といった批判が相次ぎ、わずか1日で配布が中止される事態になった。

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 日本尊厳死協会元副理事長の鈴木裕也医師は「終末期医療の現場から出てきた言葉だが、日本語がなかったためにACPと呼んでいた。それに人生会議という名前をつけて、考える日まで作った。私自身も自分のことについてはピンとこないので、一般の方はなおさらだろうし、若い方はもっとなおさらだと思う」と話す。

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 実際、街で聞いてみると、「今から4年くらい前に母が脳梗塞で亡くなった。病院に運ばれた時には意識もなく、延命せずに看取った」「ついこの間、隣の家の方が亡くなってしまった。その時に、母親と父親が突然死んじゃったらどうするんだろう、みたいな話はした。あまり考えたくはないので、そういう話はしないようにはしているが…」「治療するかどうかは親の気持ちに任せたいというか。確かに話したことはない…今日帰って話す」といった戸惑いの声も少なくない。

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 フリーライターのトイアンナさんは、祖父が亡くなった際の自分たち家族の選択を6年経った今も後悔している。間質性肺炎に罹っていた祖父について、医師からは高齢や体力の問題から治療は難しく、もって3日だと告げられた。「延命治療はしたくないということで全員(本人も家族も)が合意していたが、祖父の妻である祖母と別れの挨拶もしないまま死なせてしまっていいのかという葛藤があった」。結局、当初の取り決めを変更、延命治療を行った。「目がぐるぐる回っていて、息もゼエゼエと上がっていて。死にたいと言っていた人を生かすことによって、拷問のようなことをしてしまったのではないか、私たち家族はその“加害者”なのではないかという後悔を今も抱えている」。

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 轟浩美さんは3年前に夫・哲也さん(享年54歳)をスキルス性胃がんで亡くした。病気が発覚したとき、すでに手術をしても完治の見込みは厳しい状態で、医師から受けた宣告は「余命数カ月」。家族は抗がん剤治療を選択したが、哲也さんは食欲不振や吐き気などに悩まされる。さらに夫を助けたい一心で家族が探してきた様々なサプリメントや食事療法などの民間治療がすれ違いを生んでしまったと振り返る。

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 「夫が後から言ったのは、“治療することの意味が分からない。告知の時に死を選べるなら死を選びたかった”ということだった。しかし彼が抗がん剤治療を選んだのは、家族が悲しむ日を1日でも先延ばしにできるようにと思ったからだった。抗がん剤治療に関しても正しく理解していたと思う。しかし民間治療は彼にとって本望ではなかった。それでも私が後悔しないよう受け入れてあげることが、自分が家族にできることだと感じ、心身の限界に達するまで私には何も言わなかった。それでも最後は“誰のためにやってるんだ”と叫んだ。自分にとっては苦痛でしかなく、私の気持ちのためにやってるんじゃないのかということだ。自宅で話したいというのが彼の意見で、私もそれを叶えてあげたかった。ところが自宅にいる時には呼吸をコントロールできなかった。そして夫が“自分が毎日を生きることで家族を苦しめている”ということを言い出した。そこで医療者が一緒に考えてくれて、“とりあえず病院に行きましょう”と言ってくれた。それが納得いく最期の日々につながった」。

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 轟さんは、哲也さんの前にも家族の死を経験してきた。「父は突然死だったが、病院で“家族が集まるまでは機械を”と言われた。主人の父は自宅で看取り、終末期鎮静というものも経験した。そして、母が火事で亡くなった時には生命維持装置をつけるかどうかを託された。そうした経験から、現在は患者家族会「希望の会」の理事長を務めている。

 今回、ポスター問題に関する意見書を厚労省に送付した。「“あなたの被害者意識でポスターを止させるのは撤回しろ”みたいな電話やメールを頂いたが、誤解をして頂きたくないのは、ポスターの掲示を止めてくれと言ったわけではない。ただ、私が医療者が入ってくれたことで救われたので、家族だけで抱え込まないで、医療者と共に話し合えるという点をフォローして頂きたいという内容だったのが真相だ。“話していなかったら大変なことになってしまう”、というような表現ではなく、“話していたから良かったね”という表現の方がいいのではないか、と。それなのに“厚生労働省に圧力をかけた”“抹殺しろと言った”などと誤解を受けるのは辛い。人生会議は必要だし、ポスターを見て話し合おうと思った人がいることも事実だ。だから取りやめになってしまったことは驚きだった」。

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 トイアンナさんや轟さんの話を受け、臓器提供意思表示カードにもサインしているという日本舞踊家の五月千和加は「働き盛りの子どもには迷惑をかけたくないということで、私の両親は介護施設などや延命治療について詳しく決めている。それでも、子どもにとって親の面倒を見るのは本望。だから親が延命治療を拒んでも、私はお願いしてしまうかもしれない」とコメント。タレントの池澤あやかは「話し合いをしておいた方が良いということはわかるが、こういう重い話はなにかのきっかけがないとできないと思う。どのタイミングで話をすればいいかがわからない。そういう点についても啓発活動で盛り込んでほしい」と指摘した。

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 22歳の時、当時52歳の父親を脳出血で亡くしたカンニング竹山は「父は普段から“もしそういうことになったら、(呼吸器を)外してくれ”と言っていた。僕も兄貴も母親もそのことを知ってはいたが、医師に“どうしますか?”と聞かれた時、できなかった。“もうちょっとつけておいてください”と言った。父は1週間後に亡くなったが、あの時の判断が間違いだったかどうかは今も分からない。その後、義理の父も5年前に脳梗塞で亡くなった。その時は胃ろうを提案されたが、お義母さんは“したくない。お父さんがそう言ってたから””と言った。僕は“お義母さんが決めるのが正解だと思う”と言った。そしてお義父さんは亡くなったが、それも間違いではなかったと思う。色々なパターンがあるから、答えはこれだと決められない。いざ余命がわかった時、家族とすれば奇跡を信じたいし、自分も頑張ろうと思うから、なかなか親に聞くことはできないと思う。それでもこういうことを皆が考えるきっかけになったという意味では、僕は厚生労働省のポスターはすごく良かったと思っている」と語った。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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