「一審の裁判員が下した死刑判決を控訴審の裁判官がひっくり返すことが目立っている。このままだと裁判員を拒否する者が増えて裁判員制度が崩壊する危険も出てくる。これを正すのも政治だ。」

 裁判員裁判の一審判決が二審で破棄されたことを受け、そうツイートした橋下徹氏。裁判員制度導入の導入から10年、国民感情・国民目線と司法の運用のズレを指摘する声もある中、ジャーナリストの堀潤氏は裁判員制度をどのように捉えているのか。

 実は裁判員裁判の初日を東京地裁で取材したんです。あの時から何かが変わったかと言われると、変わってないのではないかという気持ちが強いですね。 確かに「裁判員」での休暇が取りやすくなったとか、そういう意味での定着はあるのかもしれません。ただ、大目的である「司法への国民の参加」という点で言えばどうでしょうか。理解が進んだ

とは言い難いように思います。

 その理由の一つには、裁判員裁判の対象が地方裁判所で行われる刑事事件だけ、ということがあると思います。刑事裁判は扱う情報が非常にセンシティブなものなので、その詳細を開示することは厳しく制限されています。裁判官自身も情報発信ができないので、裁判員たちの視点に触れたことでどのような気付きがあり、どう判決に影響を与えたのか、といったところが見えてきません。結果的に、より多くの国民が納得できる裁判になっているのかがわからないのです。

 裁判員の側も、やはり人の生き死に、人生に関わる判断を下すというのはもの凄い苦悩を伴うと思いますし、精神的・肉体的負担が大きい。そういうことすらも、まだまだ表は出てきてないように思います。

 僕としては、誰かが人を殺した理由とか、どっちが悪いとか、死刑、無期懲役といった問題は、それこそプロの裁判官に担っていただいて、行政訴訟こそ裁判員裁判にすればいいのではないかと思っています。ハンセン病や公害訴訟、NHK受信料の訴訟など、公益性の高いものであれば情報公開も可能なはずです。行政はどのような基準を元に判断をし、なぜ事故に至ったのかといったことが共有されれば、国民に考えるきっかけを提供することにもなります。

 それから、法廷そのものがメディアなどを通じて今よりももっと開かれていかないとといけないと思うんです。傍聴席の数も限られていますし、電子機器の持ち込みも限られている上、テレビカメラの撮影が許されるのも、“頭撮り”だけ。

 そこで僕が取材を続けている「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の弁護士さんたちは、とにかく市民の参加・理解が必要だということで、公判がある度にホールを借りて、今日のテーマはこれで、提出されている資料はこれで、説明しながら法廷で起きたことを再現する模擬裁判をやっています。本気で国民の司法の参加を考えているのであれば、やはりそういう工夫をしていかないといけないと思います。

 また、裁判員裁判だけが「国民の司法への参加」ではないと思っています。法律そのものに関して考える時間を、義務教育の中でもう少し設けるべきだと思いますね。最高裁判所裁判官の国民審査も形骸化しています。裁判所が判断する元になる法律だって、本当は僕たちが作っているわけで、そういう感覚を持てなければ、いつまで経っても“お上が”という文化のままです。

 12月には「人権週間」もありましたが、基本的人権って何?自由権、平等権、社会権って何?と尋ねられて、きちんと説明できる人はそう多くはないでしょう。皆さんは杉本祐一さんのことを覚えていますか?シリアに取材で渡航しようとしたところ、外務省から旅券返納命令を受けた新潟県のジャーナリストの方です。その後、命令の取り消しを求めた訴訟を起こし、最高裁まで争われましたが、昨年、敗訴しました。そして今年10月、ひっそりと亡くなられています。公共の福祉とは何なのか、知る権利とは。皆で考えたかったテーマですが、ほとんど知られないまま、このような結末を迎えていたのです。

 インターネット時代、誰もが簡単に被害者、加害者になってしまう可能性があります。そして、AI時代はまさに情報技術と個人の尊厳、権利の問題が鍵になってきます。次の10年、20年をしっかりと見据えた土台の上に、初めて憲法改正の議論というのが成り立つように思います。安倍総理が本当に憲法改正の国民的議論を始めたいのなら、以上のような改革もセットで考えなければならないと思います。(2019年12月、談)

■プロフィール

1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』(水曜レギュラー)などに出演中。

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