「思春期の難しさ、あっせん事業は資金難も…」今月から改正された「特別養子縁組」制度、当事者に聞く期待と課題
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 「一生懸命飲んでる…お腹すいた?いっぱい飲んでな」。どこにでもある家族の姿だが、実はこの親子に血縁関係はない。そして、この2人をつないだのが、“特別養子縁組”だ。

 年間の養子縁組成立数が海外に比べ、圧倒的に少ない日本。しかし赤ちゃんの遺棄事件や相次ぐ児童虐待事件を受けて、今月1日、改正児童福祉法が施行され、養子縁組の制度も改められた。これまで原則6歳未満(例外8歳未満)だったのが、原則15歳未満(例外17歳未満)となり、実の親が家庭裁判所の審判確定までに同意を撤回することができたが、2週間の経過後は不可能となった。さらに育ての親となる夫婦が自ら家庭裁判所に申し立てをする流れだったのが、育ての親のほか児童相談所の所長も申し立てることができるようになった。政府は今回の改正により、特別養子縁組の年間成立目標を1000人にするとしている。

 13日の『ABEMA Prime』では、そんな養子縁組制度の今を取材した。

■特別養子縁組とは?里親との違いは?

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 まず、養子縁組と里親の違いを整理しておく。養育里親では研修を受ける必要があり、特別養子縁組では家庭裁判所に申立てをし、審判が必要となっている。普通養子縁組については、未成年の場合は家庭裁判所の許可が必要だ。また、養育里親では法律上の親子関係はないが、特別養子縁組と普通養子縁組ではある。ただし、普通養子縁組では、実親との関係が残ることになる。2018年度の成立件数は「養育里親は1755件。特別養子縁組は624件。普通養子縁組は619件(未成年のみ)」となっている。一方、養育里親には「里親手当」という、国からの補助(月9万円)がある。

 2012年に設立された養子縁組あっせん団体のNPO法人「Babyぽけっと」(茨城県土浦市)では、特別養子縁組の制度を使い、年に約50人の赤ちゃんを新しい家族とつないでいる。親たちが子どもを養子に出す理由は、「性被害による望まない妊娠」「10代の出産」など様々だ。

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 岡田卓子代表は「普通養子縁組の場合、子どもには養子に行った先の親だけでなく、産みの親の扶養義務も生じる。財産と負債の分与についても同様だ。だから特別養子縁組を望む方がほとんどだ。戸籍上も養子・養女ではなく、私たちの子どもという位置づけになる。海外は特別養子縁組しかなく、戸籍上も一緒になった方が子どもにとってはいいと思う」と話す。

 また、海外との養子縁組成立数の差について、「やはり日本人は敬遠する。それは、特別養子縁組の内容が知られていないからだ。昔の養子をイメージして“かわいそうだ”と考える方もいるし、どんなことがあっても子どもは産みの親が育てるのが幸せだと考えている方も多い。“特別”がつかず、普通の親子だと見られるようになって欲しい」と話す。実際、特別養子縁組には「他人の子どもを戸籍に入れる理由が分からない」「不妊治療の代案で特別養子縁組を容易に提案しないで欲しい」「聞こえはいいけど、

これって人身売買では?」といった反対の声もある。

■子どもを送り出す親、受け入れる親の心境は

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 そんな中にあって岡田氏に我が子を託したのが、井原未来さん(仮名、33)だ。「風俗で働いていて、体調が悪かったから全然気付かなくて、気付かないまま7カ月半くらい経過してしまった。100%、お客様だ。でも特定はできない」。原因は避妊の失敗。しかも仕事柄、父親を特定することができず、出産前から養子に出すことを決めていた。「育てたかったけど、でもやっぱりこの子にはお父さんとお母さんと両方揃っている方がいい。養子に行けばお花も見られるし、公園にも行けるかもしれないし。幸せになって欲しいなと思った」。それでも、育ての親から送られてきたアルバムを見ない日はない。

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「はい、来ました。小さいのよ」。この日、岡田氏が赤ちゃんを届けた夫婦は、「かわいい!」と感極まった表情を見せる。流産などにより、子どもを授かれないことに悩む夫婦は3組に1組とも言われ、不妊治療を受けている人は約50万人に上るという(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」、2015年)。この夫婦も長年、不妊に苦しんできた。「産まれて来てくれてありがとう。大切に育てていきたい」「ずっと夢のようで、今日この日を迎えるまで地に足がついていないようなフワフワした状態だったので、赤ちゃんを見て本当に嬉しい」。

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 カンニング竹山は「うちも子どもを作ろうと思ったこともあったし、養子について話し合ったこともある。でも、僕が表に出る人間なので、子どもが本当に幸せになれるのだろうかと考えて、二人だけで生きていこうと決めた。でも何というか、これで本当に良かったんだろうかという、言葉にできない気持ちは今も残っている」と複雑な胸の内を明かした。

■思春期を迎えた子どもたち特有の難しさも

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 そして岡田氏が重要だと考えているのが、育ての親が“少しでも早く生活を共にすること”だ。「産まれてすぐに乳児園や養護施設に入って暮らしていると、そこでの生活での“癖”がつく。大きくなればなるほど自分の意志が強くなるし、親としては子どもに試されることになる。子どもにとっても、親の声を聞き、匂いを嗅いで、“お仕事から帰ってきたんだな”などと感じる。妊娠していない分、そういうふうにして親子関係、家族の絆ができていく」。

 今回の法改正のメリットについて「日本では施設にいる子どもたちが多く、温かい家庭を与えたいということも狙いだと聞いている」と話す岡田氏だが、こうした理由から、思春期を迎えた子どもたちが親子関係を構築するのは容易ではないと指摘する。「私たち民間団体の場合は産まれたばかりの赤ちゃんの相談が大半で、大きいお子さんの相談はあまり入ってこない。今後、そうしたお子さんの養子縁組までできるかは不安だ」。

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 「BlackDiamond」のあおちゃんぺは「私は養子ではないが、親が再婚していて、小学校2年生ぐらいのときに新しいお母さんが現れた。連れ子がいたし、私は父親が大好きだったので、取られる感覚があって仲良くできなかった。いろいろしてもらうにつれて恩を感じたり、育ててもらったという気持ちになって、ようやく仲良くなったという感じだが、10年くらいかかったと思う」と振り返った。

 また、今後「Babyぽけっと」のような取り組みのニーズが高まることが予想されると話す岡田氏だが、事業継続のための資金面も課題の一つだという。「民間団体の場合はあっせん事業の手数料が認められていて、むしろそれがないと団体としてはやっていけない。ももちろん法律で認められている範囲で頂いているわけだが、やはり子どもが養子になるのに高額なお金が動くというのは倫理的にどうかという思いもある。無料ではやっていけないということが育ての親にも分かっていただけるよう説明はしている」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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