申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
【映像】ABEMAでみる
この記事の写真をみる(10枚)

 「学生の給付金について調べてほしいです。公明党で奨学金を利用していなくても給付金がもらえると言っていましたが、奨学金を利用していないともらえないのが現状です。奨学金を利用していない人も生活が苦しいのでそれを伝えて欲しいです」

 ABEMAABEMAヒルズ』にTwitter上で寄せられた、新型コロナウイルスの影響で経済的に困窮する学生を支援する「学生支援緊急給付金」に関する声。その実情はどうなっているのか、番組は調査した。

【映像】大学1年生のAさんを取材

■申請書類すら受け取ってもらえず…1日1食に減らし食費を抑えて勉強

 今年の春に高校を卒業し、夢である消防士を目指して大学に通い始めたAさん。しかしその矢先、新型コロナウイルスがAさんの大学生活に暗い影を落とした。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 「4月にバイトの採用が決まっていたんですけど、コロナの影響でそのお店が2カ月くらい休業になってしまって。バイトはやりたいなと思っているんですけど、やっぱりつらい状況ですね」(Aさん)

 親元を離れ一人暮らしを始めたAさんは、生活費のほとんどをアルバイト代で工面する予定だった。しかし、想定していたバイト代は得られず、新しいバイト先も見つからず、今は高校時代に貯めたお金を切り崩して生活しているという。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 貯金が底をついてしまったら、どうやって大学生活を続ければいいのか。Aさんが望みを託したのが、国の給付金だった。政府が5月に閣議決定した、経済的に困窮する学生を対象に最大20万円を支給する、「“学びの継続”のための『学生支援緊急給付金』」。約40万人の学生への給付が見込まれている。

 給付の主な要件は、生活費や学費をアルバイト収入に頼っていることや、アルバイト収入が前の月に比べ5割以上減ったこと、奨学金など既存の支援制度を利用していることなどの合わせて6つ。学生側が自己申告で申請し、要件を考慮したうえで最終的に大学側が判断する。

 しかし、Aさんは「普通に書類を出しに行ったら『奨学金もらってないの?使ってないの?』と言われて、『使ってません』って言ったら『あーそれやったらダメだね』って。普通に『何で?』っていう疑問しかなかったです」と、奨学金を利用していないという理由で申請書類すら受け取ってもらえなかったという。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 Aさんは今、1日1食にして食費を抑えながら生活し、消防士になるための勉強を続けている。

 「消防士っていう夢以外考えたことがないので、そこは頑張るしかないなって。みんな同じ境遇なので、仕方ないと思って割り切って、勉強は続けていこうかなって考えています。学生にも、と給付金が出たことはすごくありがたいんですけど、審査が非常に厳しくて。その項目に外れた人もいるということを気付いてほしいというか、なかなかメディアに取り上げられず『学生給付金が出た』というだけのニュースで終わっているので、その間に挟まれた人を助けてほしいということは思います」(同)

■文科省担当者「二次推薦の方でなんとか調整を」

 「学生支援緊急給付金」をめぐっては、一次申請の締め切りとなった19日以降、ネット上で様々な声があがっている。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 「よっしゃあ!ダメ元で申請した給付金の審査通ってた!条件満たしてない項目多くて無理かと思った!」

 「学生緊急支援給付金、落ちた。親の年収が何百万もなくなったっていうのに、自宅生だとダメなの?」

 電話取材に応じてくれたBさんも6つの要件すべてに該当していたが、大学側から返答はなく、不安な日々を過ごしているという。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 「6月中旬までに配るような話がHPに書いてあったんですが、結局中旬を過ぎて下旬にかかりますし、Twitterではもうすでに配られているという声もあれば、申請してから2~3週間後に振り込まれるという声もあって、何が本当なのかもよくわからない状態なので、そこをはっきりとして欲しいなと思いました」(Bさん)

 なぜ、大学によって支給の判断が分かれるのか。奨学金制度などに詳しい桜美林大学の小林雅之教授は、大学ごとに給付金を支給することができる人数、いわゆる推薦枠に差があることを指摘する。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 「いくつかの大学の方に聞いているが、学生に比べて推薦枠が大きい大学もあれば、意外と小さい大学もある。何を基準にしているか文部科学省は公表していないので、基準がわからない。(学生側からの怒りの声について)大学の関係者の方から『つらい』という声を非常によく聞く。この要件は優先順位というものではないが、何らかの基準で推薦する人・しない人に分けなければいけないのは、大学にとって非常に厳しくつらいことだ」(小林教授)

 では、大学ごとの推薦枠は一体どんな基準で割り当てられているのか。文部科学省の担当者は「大学や短期大学、高等専門学校については、無利子奨学金の貸与実績に基づいて割合配分、推薦額を割り振っている」と話す。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 また、一部の専門学校や日本語教育機関については無利子奨学金の対象とはなっていないため、学校の在籍人数1人につき8000円を割り振っているという。

 「配分額が足らないところについては、要件をある程度満たしていると認識された方で、今回推薦を受けられないということも承知はしている。配分額に収まらなかった学生の方については、すぐに不採用やバツにせずにあくまで保留ということにしていただいて、二次推薦の中で可能な限りこちらも検討させていただきたいということで(大学に)お願いしているので、二次の方でなんとか調整させていただこうとやっている」(文科省担当者)

■西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」

 大学によって支給の判断が分かれ、苦境に立たされる学生が出ていることについて、東京工業大学准教授の西田亮介氏は「総額531億円という規模の小ささが諸悪の根源だ」と指摘する。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 「政府が最終的にこの事業に必要だと認めたのは531億円。他方、思い出してほしいが例えば事業者向け給付金は数兆円という予算が組まれている。二桁違う。国は大学や大学生はこの程度で支援するべき対象だとみなしているということだ。学生支援緊急給付金は予算額が少ない中でそれなりに工夫して理屈付けされている。例えば奨学金の利用実績を求めるのは、もともと奨学金を利用しているということは、コロナ以前から困っていたことが明らかで、支援の優先度が高いという見立てだろう。各大学の枠も奨学金の実績を念頭に置いたという話があったが、これも困窮している学生が多いとみなせる大学に枠を割り振ったためではないか。それゆえ、学生からすると、同じような事情でも大学の枠次第で受けられる人・受けられない人が出てきている」(西田氏)

 東京工業大学では、学生支援緊急給付金に加えて授業料納付期限の延長や減免、大学独自の貸与型奨学金などの措置を取っている。しかし、大学の規模や、もとより経営が苦しい大学などによって置かれている状況は異なると西田氏は懸念する。

申請書すら門前払い…「学生支援緊急給付金」めぐる学生の苦悩と大学側の葛藤 西田亮介氏「予算規模の小ささが諸悪の根源」
拡大する

 「もともと大学は非営利組織で、どこの大学もそれほど経営に余裕があるわけではない。国立大学の場合は授業料が低めに抑えられていて、国からの運営費交付金が主たる財源になっている。一方、私立大学の場合は授業料収入が大きく、それを延納で先送りにしてしまうと手元のお金がなくなり、独自の措置もままならなくなってくる。学生数が多い、言い方を変えると授業料収入をあてにしていた私立大学ほど大変な状況ではないか」

 景気激変期や災害復興における従来の企業支援から、今回の中小企業向け支援について給付ではなく基本的には「無利子無担保、連帯保証なし融資」の重要性を提唱した西田氏。では、学生への支援も給付ではなく「無利子奨学金」が適切なのか。

 「なぜ給付の措置は学生だけなのか。学生以外にも同世代の人は多く、困窮している人もいるはずだ。公平性の観点を考慮すると、基本的には従来手法の延長線でいえば、無利子無担保、連帯保証人を求めず、さらに返済期限の繰延を認めるなど限りなく優遇した貸与措置で支援するのが原則ではないか。現状の給付措置は全体的に「本当に困っている人」を強力に支援する仕組みにすらなっておらず、何となく幅広い層のウケがよい仕様になっている印象だ。しかし、もし学生や大学が大事で支援する必要があると政府が決めるのなら、531億円では少なすぎる。もう一桁、なんなら二桁積んで対象も広げるべきだ。現状は、学生に向けて良い顔をしながら、予算措置は小さく、本腰を入れて対策を講じたとは到底言えずちぐはぐだ」

(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

※「#アベヒル」で番組に取材してほしいこと、話を聞いてみたい人などを随時募集中

映像:「マジかよ!」コロナ生還の米男性に1.2億円の巨額請求

「マジかよ!」コロナ医療費に1.2億円
「マジかよ!」コロナ医療費に1.2億円
志村けんさん死去で「怖い」急増 1.8億件“コロナ感情”ツイート分析
志村けんさん死去で「怖い」急増 1.8億件“コロナ感情”ツイート分析
この記事の写真をみる(10枚)