将棋界“頂上決戦”で起きた「究極の二択」解説棋士も「正確に指すのは至難の業」という局面での逆転劇
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 実力がまともにぶつかる1対1の将棋というゲームにおいて、トップレベルになるほど、一手の違いが勝敗を大きく左右することになる。それは最近、再び注目を集めたAIによる解析でも、さらに明らかになってきた。7月28、29日に行われた名人戦七番勝負の第4局。初防衛を目指す豊島将之名人(竜王、30)が、終盤に指した一手をきっかけに、逆転負けを喫するという事態が起きた。この一手が生まれた状況は、自分の玉を2カ所のどちらに逃げるかという「究極の二択」。数多くの棋士、関係者、ファンらが衝撃を受ける逆転劇はここで生まれた。

▶動画:「究極の二択」と呼ばれた局面

 局面はこうだ。豊島名人がやや有利の状況で、挑戦者の渡辺明二冠(36)から持ち駒の金を打ち込まれ、王手飛車取りをかけられた。両方の駒を逃がす策はなく、豊島名人は2カ所ある逃げ場所の、どちらかを選択することになった。王手飛車取りとはいえ、正解ルートを選べば、豊島名人のリードは保たれたまま。ところがもう一方のルートを選ぶと、たちまち大劣勢に陥るという危険が待っていた。

 この二択、トップクラスの実力を持つ棋士が集まっても悩ましいという超難度のものだった。中継していたABEMAの「SHOGI AI」では、棋士の勝率を示す数字が豊島名人75%、渡辺二冠25%だったところ、正解ルートなら現状維持、不正解ルートなら豊島名人の勝率が10%を切るという恐ろしい数字が表示されていた。これを見た解説の屋敷伸之九段(48)は「(正解を指すのは)至難の業だと思いますよ。非常に応手が難しい。普通の棋士ならすぐに間違える」と、その難度を伝えていた。

 直後、対局の副立会を務めていた中村太地七段(32)が中継に登場、そこで語ったことも、この選択の難しさを物語る。「控室でもずっと検討していたんです。際どくてわからなかったんですが」。二択のうち、先に検討されたのは不正解ルートの方。屋敷九段いわく、そちらの方が“人間らしい”一手なのだという。終局後、対局者の2人も、この局面についてはよくわからなかったという旨の感想が語られている。対局者も周囲も悩むこの選択。豊島名人が不正解ルートに玉を移動させた直後、まだ出演中だった中村七段は思わずのけぞり、視聴者のコメント欄にも悲鳴のような書き込みが殺到した。

 AI、さらに将棋ソフトの進歩とともに、それを活用する棋士も増え、棋力も向上した。そんな中、二冠同士が名人をかけて戦う“頂上決戦”で生まれた究極の二択は、AIによる数字が示されていなければ、その優劣はここまですぐに、かつはっきりとわからなかったかもしれない。ただし、この一手を契機に大チャンスを得た渡辺二冠も、その先にある勝利への細い道筋を外さずに歩み切れたからこその勝利でもある。長い歴史を誇る将棋の世界だが、その研究方法や楽しみ方はこれからもさらに広がりを見せる。

(ABEMA/将棋チャンネルより)

大逆転に驚く中村太地七段
大逆転に驚く中村太地七段

将棋界“頂上決戦”で起きた「究極の二択」解説棋士も「正確に指すのは至難の業」という局面での逆転劇