映画『花束みたいな恋をした』『街の上で』、そして有村架純の妹役で印象を残した連続テレビドラマ『コントが始まる』。2021年上半期に最も存在感を示した俳優は、古川琴音を置いてほかにいまい。デビュー3年の新人とは思えぬ古川の経験の中から見えてきたのは「応援団長」「ジブリッシュ」「英語劇」という3つのキーワード。架空の人生を生きる俳優業という仕事に、古川の24年間の実生活での経験が反映され、それがブレイクを形作った礎になっているようだ。
【動画】古川琴音出演 SEKAI NO OWARI「YOKOHAMA blues」
大役にもひるまない度胸と、華奢な体からは想像のつかないしっかりとした発声。小学校時代の応援団長経験がものをいう。「小学校時代は謎の積極性を発揮して生徒会長に自ら立候補したり、運動会の応援団長も務めたりしました。団長なのに『声が小さい!』と先生から注意された記憶もありますが…」と苦笑しながらも「やりたいことを素直にやりたいと言って実際にできた成功体験と達成感を得た嬉しさは、今の仕事にも繋がっているのかもしれません」と懐かしんでいる。
昨年放送された連続テレビドラマ『この恋あたためますか』で古川が演じた中国人のリ・スーハンがあまりにもリアルで「中国人女優!?」とSNSで話題になった。セリフだけに頼らず、ボディーランゲージや表情で役柄に説得力を与える表現力。それは特技の「ジブリッシュ」のなせる技でもある。ジブリッシュとは「意味のない言葉を発する」ことを指す手法で、古川は大学時代にジブリッシュを使った演技の練習をしていたそうだ。
「何故か私は、ジブリッシュを使った演技を友達から『上手い!』と褒められることがありました。言葉だけではなく、その時の態度や雰囲気、空気感もコミュニケーションの一部だと思うので、セリフを喋るときは言葉だけに集中するのではなく、体の感覚に集中するようにしています。その感覚は大学時代に遊びの延長でやっていたジブリッシュで鍛えられたところもあると思います」と俳優としての基礎を作ったメソッドを明かす。
セリフ覚えも、大学時代の英語劇の習慣が役立っている。「散歩中に自分でボイスメモに吹き込んだセリフを聞くようにしています。大学時代に英語劇をやっていたときも、先輩が吹き込んでくれた英語セリフを聞いて覚えていました。家でジッとしながらセリフを目で見て覚えるよりも、動きながら耳で聞いた方が覚えやすいから」と独自の暗記法確立にも過去の経験が関係している。
そしてもう一つ、両親の応援もブレイクを支えるパワーの源だ。「両親は最初の頃は芸能界に対して不安な気持ちがあったようですが、私が経験を積んでいくうちに『これからが楽しみだね!』と応援してくれるようになりました。出演したドラマや映画の感想もくれるし、掲載物なども北海道の祖父母に送ったりしているようです」とサポートに感謝。ならば実家のテレビ録画機は愛娘の出演作で占められているのでは?「もちろん録画はしてくれていますが、母は韓国ドラマを優先的に観ているみたいです。面白いのはわかりますが、いつか母がそれよりも先に観てもらえるような面白い作品を作りたいです」とはにかむ。
ブレイク中の古川の原点ともいえる、2018年製作の初主演映画『春』が改めて10月1日より公開される。「3年前の作品ですし、この仕事を始めたばかりの頃。当時は慣れないことばかりでフワッとしていたので、そんな自分の芝居を改めて見ることへの恐怖がありました」と不安を口にするも「いざ見直してみたら、思っていたよりも自分が感じたものを素直に出そうという姿が見えました。荒い部分は確かにありますが、今大事にしていることと変わらない部分も見えたので、少し安心しました」と胸をなでおろす。
この3年で自身を取り巻く環境も心境もガラッと変化した。「最近は役名で認識されるようになったり、お仕事の場で『あのドラマ見たよ』と言われるようなったり。周囲の方々が出演作品を観てくださったことがあるというだけで余計な緊張が抜けて、より自由に演じられる瞬間が増えました」と実感を込める。
「改めて公開される『春』を見るまでに、私が出演する色々な作品をすでに見てくださっている方々もいらっしゃると思うので、逆に3年前の私のお芝居が新鮮に映るのではないかと思います。みなさんの感想が今から楽しみです」と念願の再公開に期待している。
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii
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