日本時間の20日夜、韓国の人気グループ「BTS」のメンバーが国連総会のSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた会合でスピーチ、世界の若者たちにメッセージを送った。また、国連本部で撮影されたミュージックビデオも披露された。
一橋大学大学院のクォン・ヨンソク准教授は「世界中から予想以上の愛を受けていることに対する恩返しというか、自分たちに何ができるのかということを彼らなりに考えて、国連という舞台を通し、若い世代の行動や決断のひとつひとつが国際社会を変えていくんだ、という普遍的なメッセージを発信したということだ。もともとBTSはヒップホップアイドルで、メッセージ性、社会性を強く出していて、アーティストに近い。SDGsというのは国家や政治家だけではなく、ひとりひとりの実践が伴うべき課題なので、国連としても若い世代に強い影響力を持つBTSからのメッセージは世界に響くだろうということで要請したようだ」と説明する。
「BTSの一番の特徴で良さでもあるのが、本当に素のままだということだ。20代後半の若者7人が、何かを狙うというよりは、個性や思いをそのままぶつけていく。等身大で、カッコつけないのが彼らの魅力だろう。それはワールドスターになっても変わらない。ARMY(BTSのファンを指す用語)の方々が熱狂するのも、トップスターになっても変わらないからだ。今回のメッセージも非常につたない感じもあったが、むしろそこに好感を持てた。国連がどういうことをする場所なのか、SDGsとはどういうことなのかということに興味がなかった世代にもメッセージが届いたと思う」。
10代、20代への社会的偏見や抑圧を防ぎ、守り抜くというメッセージが込められたというグループ名「防弾少年団」でデビューしたBTS。メンバーが首都ソウルではなく、地方の出身だということも、成功のストーリーの要素なのだという。
『CLASSY.』のライターで“ARMY”歴6年の伊藤綾香氏は「初めてソウルに来た時にドキドキしたみたいな話など、地方から出てきて都会で頑張る中で、いろんな壁を乗り越える中でどういう努力をしてきたか、どういう考え方をしてきたか、それは一般の人が悩みを解消する上でも役立つ部分があると思う。メンバーの誕生日にARMYが募金を募って団体に寄付したりとかはよく行われているARMYたちはBTSたちが発したメッセージを受け取って解釈するので、世界や社会に役立てようと考えると思う」と話す。
クォン氏も「BTSはソウル出身でもないし、Kポップの中でも非主流だったので、普通の青年のような子たちがファンとコミュニケーションをしてワールドスターになったというストーリーがある。それは世界の主流でない人たちにとって共感を得られるし、一部の大国だけで動いてきた国連の中にあって、他の国の存在感もあるんだ、みんな平等で、公正な社会を目指していこうという象徴にもなったと思う」とした。
一方、BTSが国連に出席するのは3回目。文在寅大統領から特別使節に任命され、本来であれば外交官用パスポートが用意されるなどの特別待遇について、“国策”、あるいは“政治利用”といった見方も少なくない。
伊藤氏は「韓国では数日前に秋夕(チュソク)の祝日があったが、公式にメッセージを流してくれた。“僕たちは韓国人アーティストです”と発言していることもあるし、そういう発信を通して、韓国にはこういう記念日や文化があるよということを伝えてくれている。ただ、自分たちは韓国人だからこうということは考えずに、単に世界中のARMYに届けたいメッセージがあるから届けているという考えでいてくれているんだと思っている。賛否両論あることは色々なメディアで見ているが、国連でのメッセージも自分自身の言葉で喋ってくれている感じがしてほっとしたし、いつも通りの、ARMYに対するメッセージだったと思う」と振り返る。
クォン氏も「BTSは英語がそれほど達者だったわけではないし、ビルボードで1位になるぞというようなことを目指して活動してきたグループではない。その意味では国策でもない。むしろ、そういうところを目指さないからこそ成功したんだろうということだ。もちろん韓国政府がそうした若者の成功に便乗している感じもあるが、超大国に囲まれた状況下で、国際社会で自国をアピールできるのはソフトの面しかない。軍事力などではなく。理念とか価値を広めていくということだ。
文在寅大統領が最近述べているキーワードが、キャッチアップする途上国から、世界に対して良い価値を広めていくモデルになろうという“先導国家”だ。文在寅大統領が国連に来たのも、新型コロナウイルスワクチンが貧しい国にも渡るようにして、コロナ禍を公正に、一緒に克服していきましょうというメッセージが理由でもあるし、それがBTSのワクチンを打ちましょうというメッセージにも繋がっている。BTSに関しても、まさに良い影響力を国のソフトパワーにして世界に広めていくということだと考えると、理解しやすいと思う」とした。
日本に目を向けると、政治的、社会的なメッセージを発信する著名人はそれほど多くはない。
クォン氏は「欧米のアーティストは積極的に出している部分があるし、韓国も同じく、思ったことや社会的なことについてアーティストや俳優たちがメッセージを発信する。そもそも我々の日常は全部政治だから、その政治と何か文化とかスポーツを切り離すことは、僕は不可能だと思う。逆に海外のセレブは、そういうことが一つの責務として考えているし、思いや普遍的なメッセージを共に発信することができるならば、政府であろうが国連であろうがパートナーとしてやるというだけの話だ。BTSも、その境地に立っているんじゃないかと思う。その意味では、政治利用されているとは思わない。日本でも是枝裕和監督や坂本龍一氏などがいるが、最近は萎縮しているのか、なかなか出しづらい雰囲気もあるかもしれない。そこにBTSのような若者がブレイクスルーをすることで、日本も続こうという動きも出てくるのではと期待している」と話した。
小籔千豊は「みんな、日本人は政治的な発信をしないと言うが、みんな結構している。ただBTSほど売れていないだけということ。僕がBTSぐらいバチッと売れたら何億人かのファンがワーッと言ってくれるから、文句言う方はシーンとなるだろう」と苦笑する。
「“好感度ランキング”みたいなものを作った時点で、政治的な発言はするなと言っているようなものだ。僕らは二択のうち、どちらかを応援した時点で、もう一方にメチャクチャ怒られる。だから政治のことについて発言するのは、日本でははっきり言ってマイナスでしかない。僕も10年ぐらい前、“近々選挙ありますよ、行きましょう”とTwitterに書いた。好意的な反応もあれば、“お前みたいなしょうもない芸人が投票に行けと言ったら、お前のファンのアホも投票に行くやろ。政治がメチャクチャになったらどうするんじゃ”というお叱りの声もあった。
僕は別に誰かに入れろと言ったわけではないし、投票は行ったら良いじゃないですかと言っただけだったが、そのことで政治的な発信を抑えるようになった。“意見は言うな”とか、“自分と意見が一緒だったら言え、違ったら言うな”。普通の人だったら、言わなくなってしまうだろう。特に芸人はどっちにしてもマイナスだ。“この人すごい。政治のこと分かってる。すごく勉強されている”という目で見られ、芸人として賢いなと思われたりしたら思いっきりマイナスだ。一方で自分と意見が違っている場合は、“こいつ何を言うとんねん。アホやな。勉強もせんと適当なことを発言しやがって。あいつ嫌い”となってしまう」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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