北朝鮮の労働新聞は先月30日、金正恩総書記が29日に北朝鮮の国会にあたる最高人民会議で施政演説を行い、「アメリカの対話呼びかけはこれまでの敵視政策の延長にすぎない」と述べたと報じた。
9月に3回(※その後4回)のミサイル発射を行った北朝鮮。その狙いはどこにあるのか、ANNソウル支局の井上敦支局長が解説する。
先月13日付の労働新聞は、国防科学院が11日と12日の2日間、新開発した長距離巡航ミサイルの発射実験に成功したと写真入りで報じた。約半年ぶりのミサイル発射について、井上支局長は「半年ぶりの発射ではあったが、巡航ミサイルは国連決議違反ではないので、“弾道ミサイルではなかった”というのが最初の感想。ただ、北朝鮮メディアの報道では飛距離は1500kmとされていて、これが本当なら沖縄から北海道まで日本列島がほぼすっぽり入ってしまう。この点は驚きだった。弾道ミサイルはイージス艦を使って迎撃することができるが、巡航ミサイルは飛んでくる高度が低いので、陸上配備のPAC3で迎撃することになる。ただ、PAC3は配備した場所の周囲数十kmしか有効ではないので、もしこれを日本列島全体に同時に撃たれたら今のところは防ぎようがない」と指摘する。
その後の15日、北朝鮮は短距離弾道ミサイル2発を発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。朝鮮中央テレビは16日、山中に展開した列車の荷台の上部が開き、そこから発射されるミサイルの映像を4年ぶりに公開している。さらに、28日にもミサイルを発射し、北朝鮮メディアは新たに開発した「極超音速ミサイル」の発射実験だったと報じている。
なぜ、9月に3回(※その後4回)ものミサイル発射を行ったのか。井上支局長は「一つひとつのミサイルにはいろいろな意味が言われている。例えば1回目は、夏の米韓合同軍事演習への反発。2回目は、同じ日に韓国軍がSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験を行っていたからなど。北朝鮮もSLBMを開発しているが、まだ潜水艦が完成しているかどうかが怪しい段階で、韓国に一歩先に(潜水艦から)撃たれたかたちになる。なので2回目は、北朝鮮はこれを意識して弾道ミサイルを発射したのではないかと言われている。そして28日にも発射しているが、いずれのミサイル発射も個別の小さな理由はいろいろあるにしても、より大きな流れで見れば、全てはアメリカとの交渉を有利に進めるための『地ならし』の一貫と言えるのではないか。
北朝鮮の目線の先にあるのが、アメリカの存在。井上支局長が先日取材した朝鮮労働党の元幹部は、「北朝鮮は今、短距離のミサイルを使ってアメリカに悪戯(いたずら)をしているんだ」と語っていたという。これはつまり、米朝対話の空気を壊さない程度の、適度な長さ・適度な強さのミサイルを使って、アメリカを本気で怒らせないギリギリの範囲で、男性の言葉を借りればまさに「いたずら」をして、結果として有利な条件を引き出し、交渉に入ろうとしているという意味だと解説する。
金正恩総書記は最高人民会議の施政演説で、アメリカに対しては敵視政策を厳しく批判する一方、韓国に対しては「和解と協力か、対決の悪循環の中で分断の苦痛を味わうかの曲がり角だ」「妄想や被害意識から早く抜け出すべきだ」と訴えている。南北関係は今後改善に向かうのか。
「金正恩総書記は、南北の通信連絡ラインを復旧させると言った。この言葉から想像するに、10月に入ってしばらくの間は南北の関係が融和的な方向に進むと思う。ただ、これは北朝鮮が本当に韓国と融和して一緒になりたいというよりは、米韓同盟の間に割って入って、北朝鮮に融和的な姿勢を示している韓国の文在寅大統領をアメリカ側から引き離したいという狙いがあるのだと思う」