NHK連続テレビ小説「スカーレット」で戸田恵梨香演じる主人公・喜美子の夫・八郎役を演じ話題に。その後もドラマ「知ってるワイフ」「最愛」など話題作に立て続けに出演し、注目を集める俳優・松下洸平が、映画『燃えよ剣』(2021年10月15日公開)で演じるのは新選組・斎藤一だ。斎藤は、土方歳三と共に戊辰戦争・五稜郭の戦いまで戦い生き延び、明治維新後は警視庁の警察官となり、西南戦争では西郷隆盛軍と戦ったという異例の経歴を持つ、歴史ファンからも人気の高い人物だ。
原作は司馬遼太郎(遼のしんにょうは点2つ)、メガホンをとったのは『関ヶ原』『日本の一番長い日』の原田眞人監督。さらに共演者には土方歳三役に岡田准一、近藤勇役に鈴木亮平と大河で主演を務めてきた実力派俳優が名を連ねるなど、歴史物の巧者たちが集まる中で、松下はどのように斎藤を演じたのか。インタビュー後編では、松下から見た“鬼の副長”岡田准一の姿や、いかに殺陣を習得したかについて語ってもらった。
【インタビュー前編】『燃えよ剣』松下洸平「いかに任侠に近い組織だったのか」新選組の影をも生々しく描く原田眞人監督の現場
左利きを見抜かれ斎藤一役に
平成30年度(第73回)文化庁芸術祭 演劇部門 新人賞(関東参加公演の部)、第26回読売演劇大賞 優秀男優賞・杉村春子賞を受賞など、多くの賞を受賞。舞台を中心に活躍してきた松下は、実は殺陣はこれまで未経験。「映画に対しても深い知識があったわけではない」と語り、そんな中でのオーディション合格、斎藤一役へのキャスティングには自身も驚いたという。
「オーディションでは、素直に自分が殺陣の経験もないこと、映画も多くは出ていないことを素直にお話ししました。ただ原田監督と一緒にお仕事がしたいという思いだけをぶつけて、その気持ちだけで採用していただいたようなところがあります」
オーディションで竹光を振る動きをリクエストされ、見様見真似で実演。基本的に刀は右手で鞘を持って左手を添えるが、殺陣未経験の松下はそんなことを知る由もなく、左利きゆえに無意識に逆手で持ってしまった。それが原田監督の目には止まった。斎藤一は左利きの隊士だったのだ。
「なんとなくなイメージで振ったんですけど、それを見て『君は左利きでしょう』と見抜いてくださって、『斎藤一でいこうか』と言われました。その後、たくさんの方を見られたでしょうし、その場で即決というわけではなかったのですが、原田監督の中ではその時点で斎藤一は松下でと想像してくださったみたいです」
殺陣で表現した土方と斎藤の関係
役が決まってすぐに殺陣の稽古は始まった。稽古期間はおよそ半年だったというが、同時期に舞台があったためなかなか参加できず、「基礎だけ教わって、あとはずっと自宅近くの公園で夜な夜な竹刀を振っていました」とのこと。「完全に不審者(笑)。よく捕まらなかったなと思います。なるべく人目のつかない公園で振っていたんですけど、たまにランニングしてる人がいて、そのときだけやめて涼んでるふりをしていました」と冗談まじりに自主練を振り返った。
現場では岡田に助けられた。
「僕の殺陣のシーンはほぼ岡田さんありきでした。岡田さんと殺陣の先生がいなければ全カットになっているところでした。僕にとって岡田さんは映画俳優であり武士。たくさんのことを教えてもらいました。登場人物たちがそれぞれどういう関係性で、どう思い合っているかということ。具体的なアドバイスをしていただくことが多かったです。斎藤一であれば常に土方さんの参謀として護衛に周り、土方さんが前だけを見つめて突き進めるように、常に横にいる。そういう間柄を殺陣を使って表現する。意外と、斎藤が側にいるときは土方さんは刀を振ってない。斎藤に任せているんです」
鬼の副長・岡田准一に食らいついた撮影期間
キャスト全員が俳優として、そして新選組局長・副長として尊敬していたという鈴木と岡田。松下も「全員がついていきます!という姿勢で京都にいました。特に僕は斎藤一だったので、岡田さんに食らいついていこう、嫌がるまでついていこうと思いました。常に後ろにいて常に話しかけて。岡田さんは、どう思っていたかはわからないですけど(笑)」と、役同様、岡田の背中を追っていたと語る。
岡田の“鬼の副長”らしいエピソードがある。それは、土方、斎藤ら新選組が先に池田屋で戦う近藤らのもとへ向かうシーンのこと。祇園大橋を一部通行止めにして撮影したというが、先頭には土方。ついで隊士が続き、新選組が祇園大橋を駆け抜けるというシーンとなっている。
「僕らは雪駄なので、どこまでスピードが出るかわからなかったし、隊士も20人くらい後ろにいて、中には井上源三郎役のたかお鷹さんがいるので、きっと岡田さんは手加減するだろうと思っていたんです。カメラマンさんも追って撮影しなければいけないし。でも、よーいスタート!で走りだしたら、岡田さんに全員取り残されました。嘘でしょ!って(笑)。
僕もなんとか副長に食らいつこうと走ったら、次の日、足がパンパンになりました。岡田さんはどこまでも本気。無茶苦茶かっこよかったです」
局長・鈴木亮平、新選組シールで隊士の士気を高める
シリアスなシーンが多い本作だが、現場の雰囲気は和気藹々としたもの。原田監督や共演者たちから「はじめちゃん」「斎藤くん」と役名で呼ばれ可愛がられていたという。松下は鈴木の声色を真似、「鈴木さんがとてもおもしろい人で、温かい飲み物を飲んでいるだけなのに『斎藤くん…。何飲んでるの?』って渋い声でかっこよく声かけてきたり。『ココアです』って返したら『僕も飲んでいいかな?』って。遊んでるやんって(笑)」と楽しそうに語ってくれた。
さらに、鈴木には全体の士気を上げる局長らしいエピソードも。
「鈴木さんが壬生寺に行って全員の名前が入ったシールを買ってきてくださったんです。僕も『斎藤一』と書いてあるシールをもらいました。さすが局長〜!ありがとうございます〜!みたいな(笑)。現場でも360度、どこから見ても局長でした。皆さんなり切っていました。僕は岡田さんも鈴木さんも山田(涼介)さんも初めましてでしたけど、あの場所に行って、実在の人たちがいたであろう場所で撮影して、それだけでなんていい経験をさせてもらったんだろうと思って、忘れられないです。貴重な経験でした」
『燃えよ剣』には胸キュンポイントも?土方とお雪のシーンにも注目
男のロマンが描かれた本作だが、松下が殺陣のシーンと共におすすめするのは、土方とその恋人・お雪(柴咲コウ)のシーン。
「半歩引いて家を開けておくという、この時代の女性特有の凛とした姿は男性にとっては理想の妻像なんだと思います。さらに、お雪さんには土方をしっかり最後まで見届けるという強さもある。土方さんがお雪さんの家に行ったときに、壬生菜のご飯が用意されていて、『誰のご飯ですか?』(土方)『土方さんですよ。そろそろお見えになることかと思いまして』(雪)というやりとりがあるのですが、ものすごく好きです」
最後に、お雪絶賛の松下に「お雪さんのような女性がタイプですか?」とミーハー全開の質問をすると、「時代が違うのでなんとも言えないところですが…(笑)、男がそういうことされたら好きになるやんか!というシーンも詰まっているので、そこも見どころです」と笑顔でまとめてくれた。
(※インタビューは2020年3月に実施)
ヘアメイク:五十嵐将寿
スタイリスト:渡邉佳祐
写真:You Ishii
取材・文:堤茜子
(c)2020「燃えよ剣」製作委員会