知人に貸した10万円が、いくら催促しても返ってこない。しかし裁判を起こすのは大変そう。弁護士費用もかかるらしいし、判決が出るまでに何年もかかったら…。そんな時のために用意されているのが、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り、簡易裁判所での手続ができる「少額訴訟」だ。
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山岸久朗法律事務所の山岸久朗弁護士は「 60万円以下の請求で弁護士を雇っていては、やはり弁護士費用で赤字になってしまう。それで裁判を諦め、泣き寝入りしている人もいた。これを助けてあげようということで始まった制度で、弁護士を雇う必要もなく、素人さんでも裁判ができるシステムだ。費用は金額の10万円ごとに1000円を裁判所に納める仕組みなので、60万円の請求であれば6000円で済む。また、普通の裁判とは異なり、その日のうちに判決まで行くのも大きな違いだ」と説明する。
「裁判所の統計では、最も多いのが交通事故。物損で物が壊れただけだと損害賠償額が低くなるので、自分でやってしまおうという人が多い。次いで、敷金の返還請求。そして売買代金の請求、貸したお金返してくれという請求、そして未払い給与の請求だ」。
フリーランスのイラストレーター、ケビンばやしさんは去年の夏、納品したイラストの対価が期日になっても振り込まれず、連絡をしたところ、支払いを拒否されてしまった。このトラブルを解決するため、少額訴訟を利用した。
「裁判所のホームページとかに書面の雛形が載っているので、それを参考にしつつ、自分で書いた。簡単にできた。必要な証拠についても、やりとりのメールを全て印刷することで済んだので、10分ぐらいだ。裁判所から通達があり、翌日くらいにお支払いもなされた。こういう対処法があると知っておくだけで心が楽になったりするかなと思うし、臆せず雇い主さんと戦える。権利なので、知っておくべきかな、と思う」。
山岸弁護士によると、SNSでの誹謗中傷など、ネットのトラブルについても利用しやすい環境が整いつつあるという。
「誹謗中傷の場合、まず仮処分といって、誰がそれを発信したかプロバイダーに対して情報開示請求をしなくてはいけないので、事実上、裁判をすることになる。ただし、開示後の慰謝料請求を60万円以下にするのなら少額訴訟でいける。情報開示請求については国会で議論されているところで、誰でも簡単に開示請求できる方向に変わっていくと思う」。
■逆に支払いを命じられてしまうケースや、詐欺に使われるケースも
しかし、少額訴訟で全て丸く収まった人ばかりではない。
山岸氏弁護士は「少額訴訟の場合、裁判官が主導し、“払ってあげて”と和解に落としていくケースが多い。ただ、相手が拒否した場合、財産を調査して強制執行の申立をしなければならなくなるし、通常訴訟に移されると拒否できず、普通の裁判と同じようなことを素人がさせられてしまう場合もある。また、少額訴訟は早く終わらせるための制度なので、控訴することができない。裁判官にも“当たり外れ”があるので、高等裁判所で違う裁判官で見てもらおう、ということもできない」と話す。
「例えば敷金のトラブルについては国土交通省のガイドラインで決まっているとはいえ、ちょっと解釈を残すところがあるので、通常訴訟に行く可能性が高い。こういう事態になったときに素人さんが対応するというのは、大きな負担だ。訴訟のルールをメチャクチャ細かく決めている訴訟法を知らなければ、書類の出し方ひとつ分からない。例えるなら、プロボクサーと戦うことはできても、勝つのは難しい。もっとシンプルな、友達に金を貸したけど返ってこないとか、バイクを売ったけどお金を払ってくれないとかそういった簡単なことの方が向いている」。
去年、賃貸マンションの敷金をめぐって少額訴訟を起こした田中さんの場合も、最終的に9万円以上の支払いを命じられることになってしまった。
「お預けしていた敷金は5万円だったが、退去の際、それを差し引いた原状回復費用が11万円だと言われた。見積もりもない、一方的な形でだったので少額訴訟という手段をとらせていただいた。しかし家主の方に弁護士を立てられて、今度は18万円を請求する訴訟を起こされたので、そちらに移行した。6カ月間、月に1回のペースで出廷したり、書類を作ったり。やはり相手方はプロの弁護士さんなのに、私は普通に会社員なので仕事が終わってから訴状や答弁書を書かなければならず、専門用語の多い書類を読むだけでもめちゃくちゃ体力が要った。しかも最終的には9万円以上をお支払いする形になってしまった。自分一人で辛いな、味方がいないなと、精神的に大変だなと思った」。
また、山岸弁護士によると、少額訴訟を使った詐欺も増加しているのだという。
「よくあるのが“少額訴訟のハガキが送られてきて…”という架空請求だ。最近経験したのは、本物の裁判所を使ってウソの請求の裁判を起こし、送られた方は架空請求だろうと思って放っておいたら本物の裁判で財産を強制執行されるという詐欺だった。身に覚えのない裁判であれば、ちゃんと裁判所に出て行ってそう主張べきだ。少額訴訟の場合、その場で証拠調べをやるので、裁判官が諦めるよう、原告に言ってくれる」。
■普段から気軽に相談ができる環境づくりを
他国に比べ、裁判所や弁護士が身近ではない日本。民事訴訟の件数は年々減少、さらにコロナ禍も追い打ちをかける。こうした状況に対し、司法の側も様々な取組みを進めているようだ。
「昨年からは。MicrosoftのTeamsを使って、リモートで裁判ができるようになった。それがコロナで促進され、今はほとんどの裁判がオンラインで行われている。裁判所に行かなくて済むし、書面もネットで提出できるので、家からできてものすごく便利だ」。
さらに山岸弁護士は、“弁護士の敷居を下げること”も必要だと訴える。
「敷居が高いイメージがあり、相談に行きにくいと思う。もっと身近な存在になって、簡単に法律相談ができるような関係になれたらいいと思っている。各都道府県の弁護士会が積極的に紹介もしてくれるので、困りごとがあったらお近くの弁護士会に行けば紹介してくれるはずだ。一方、多くの弁護士は収入がメチャクチャ低くなっていて、中には商売が下手で、電車賃がないからと言って事務所で寝泊まりしている弁護士の友達もいるくらいだ。。僕の場合、いつでもウェルカムだ。お値段もお安い(笑)。Instagramのダイレクトメッセージで、いっぱい法律相談がくる。言い方は不謹慎だが、裁判は楽しい。嘘をついている人間に本当のことを認めさせるってこれ以上の快感はない(笑)」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「訴訟の数が増えることを前提に、法科大学院に行って弁護士になりましょうというルートも作られたが、結局そうはならなかったことで、弁護士が供給過多になっている側面がある。それ故に、思ったほど生活が楽ではないという弁護士も出てきているようだ。やはり弁護士に“全部お願いしますよ”と言ってしまうと高くつくが、相談だけなら5000円、1万円でできる。自分で分かっていることが増えれば増えるほど安くなるわけなので、普段から弁護士とコミュニケーションを取っておけば、本当に大事な時にかかってくるコストが大きくならなくて済むということだ」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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