「当社は今日から“メタ”になる」(マーク・ザッカーバーグ氏)
28日、世界中で知られるまでになったIT企業のFacebookが社名を変更。新たな社名・メタ(Meta)としてSNS事業から仮想空間事業へ一気に舵を切った。
由来になったメタバースという言葉は、現実に近いレベルでネット内を自由に活動できる仮想空間のこと。現在、メタはメタバースでのアバターを使ったコミュニケーションサービスを開発中で、CEOのザッカーバーグ氏が最も力を注いでいる事業だ。投資計画は今年だけで約1兆円。青少年の精神への影響が懸念され、世界中でFacebookに対する規制の動きが拡大する中、社名変更は窮地を脱するきっかけになるのだろうか。ニュース番組「ABEMA Prime」では、Facebookの未来について議論を行った。
まず、Facebookの社名変更と仮想空間事業について、ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「ファイナルファンタジーXIV(FF14)の後追いっすよね」とバッサリ。
「結局、人がネット上で何をするかというと、会話するぐらいしかできない。会話だけだと暇だから『じゃあゲームをやろうか』とVRチャットの中でゲームができるようになったサービスがいくつかある。『それだったら最初からゲームをやればいいじゃん』と。ファイナルファンタジーXIV(FF14)という日本発のサービスのオンラインゲームユーザーが全世界で70万人以上いて、ずっと月額課金されてコンテンツを作り続けている。ゲーム内では、ずっと会話をしていたり、中で麻雀ができたりする。ITのゲームを知らない人たちがメタバースと騒いでいるが、ゲーム業界では『やっぱりスクウェア・エニックスすごいよね』となっている。さっさとスクウェア・エニックスを買っちゃえばいいのにと思っている」
「FF14に70万人以上がお金を払って使っていて、空想の世界、現実のメタバースができることも、だいたいFF14の中でできる。家も買える。すでに実現しているのに、ゲームを知らない人は『あれはゲームだから違うんだ』と勝手に思い込んでいる。実際にメタバースはもう実現していて、それで『みんなゲーム以外は大してやらないよね』と結論が出てしまっている。残念ながら、一般のニュースを見る人やITの人はこれを知らないので、まだ FF14を後追いしているんだなと思っている」
プレゼン動画の中で「イメージしている世界はほとんどが(メタバースで)できるようになる」と話したザッカーバーグ氏。例えば会議などは、その場にいるような、かなり繊細なコミュニケーションが取れるようになり、どこにでもテレポートできるとしたが、はたしてビジネスとして成立するのだろうか。慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「SNSにもいろいろある」とした上で「Facebookの真骨頂は実名制だ」と言及。
「Facebookは、リアルな人間関係をネットに移している。リアルだと途絶えていた人間関係がネットで復活するわけだ。リアルな人間関係が多い人ほどFacebookの友達が多い。リアルの鏡みたいなところがある。欧米のこういうSNSは基本的には実名文化。これに対して匿名文化に慣れてきたのが日本なので、メタバースをやるなら日本が一番向いている。ただ、Facebookの強さは実名とのリンクだ。マーク・ザッカーバーグ氏が匿名文化に強いとは思えない」
「若者ほどFacebookを使わないのは当たり前だ。リアルな人間関係が狭いから。これが20代後半になってくると『大学時代の友達とつながっているのはFacebookだ』といって戻ってくる。Instagramも有名人のアカウントのフォロワーが増えていくのは実名だからだ。そういうふうに考えると匿名の中でレディー・ガガを名乗る人が50人ぐらい出てきた時にどれが本物だという話になって収拾がつかなくなる。ひろゆきが言っていた大事なポイントは、同じ世界観が共有されていないと、そのメタバースの世界で共通感が出ない。今のままでは、Facebook並みの大きなサービスになる感じはしない」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「すごい技術が進歩して、マトリックスの映画ぐらいになれば別だが、現状だと制限が多すぎる」とコメント。
「問題はVRだ。ヘッドマウントディスプレイをつけないといけない。これをやると問題は何かというと、当たり前だが、飯も食えないし、酒も飲めないし、水も飲めない。その中で仕事できるかというと、会話、会議はできる。スプレッドシートを広げて何か作業したり、あるいは原稿打ったりできるかというと、できなくはないが、かなり制限が多い」
「Facebookは、夏野さんが言ったようにリアルの人間関係をそのままネット上に載せ替えたサービス。積極的に投稿してなかったりしても、人間関係を持続するためのツールとして、全年齢に使われている。人間関係のコピーであることが、最大の役割だ。Facebook Messengerを連絡ツールに使っている人はすごく多い。世界中で20億人ぐらい使われている1つの理由だ。Facebookはここ(スマートフォン)に入っているじゃないか。これは電車に乗っていても、家にいても何をやっていても使える。VRは、ヘッドマウントディスプレイをつけた瞬間にそれ以外もう何もできない。スマホの代替物ができるのであれば、すごい可能性があると思うが、今のVRはスマホの代替物にはならないと思う」
また、ひろゆき氏は「コミュニケーションサービスは基本的には長い時間が経つと廃れる」と断言。「若い人たちは新しいサービスを使い始めるから、世代交代が必ずある」とした上で「ただ、GAFA系の他の会社はツールを提供しているので、ずっと使われ続ける。Googleは“検索”という機能なので。でも、Facebookはコミュニティなので廃れる。だから、ちょっと前はリブラという仮想通貨をやると言ってみたり、Instagramを買ってみたりしていた。いろいろなことをやって、生き延びる道を探さないといけない。たまたま今はメタバースがちょっと流行っているのでやってみただけ。来年ぐらいにまた違うことを言っていると思う」と推測した。
ひろゆき氏の意見を聞いた佐々木氏は「当面は中国のIT企業がやっているような、いわゆるスーパーアプリ化が強いだろう」とコメント。
「例えばメッセンジャーの周囲にEC(通販)機能がついている、タクシーを呼ぶなど、さまざまなサービスが全部ついている。中心になるメッセンジャーアプリにサブアプリがどんどん増えていって、1つの生態系を成すみたいな。しかし、中国では成功したが、他の国のサービスで成功した事例はなかなかない。そこでFacebookは乾坤一擲のメタバースにいったんだと思うが、ザッカーバーグ氏の狙いが当たるかどうか、現時点では全く誰も想像できない」
現時点ですでにメタバースの世界は多数のサービスの中で存在している。バトルロワイヤルゲーム「フォートナイト」では、そこでライブが開催され、ゲームと関係なくても人が集まる。任天堂のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」もゲーム内における交流が目的だ。夏野氏は「経営者は新機軸を打ち出したいもの」とコメント。
「ザッカーバーグ氏のプレゼンテーションを全部見ているわけではないが、技術のレベルが全然違うものが全部ごっちゃになっている。動画会議の映像とフェンシングをやっている映像の技術レベルが全然違う。どこまでやろうとしているのかわからない。(ザッカーバーグ氏がフェンシングをする動画を見て)これを実現しようと思うと、今の技術だと相当厳しいが、アニメーションチックな動画会議は今の技術でもできる。世界観がまだあまり提示されていないので、いまいち分からない」
一方で、脳科学者の茂木健一郎氏は「それは障害を負った方や、病気で介護暮らしになった人には福音だ」と評価。「パラリンピックも実はリハビリのために始まった経緯がある。もしメタバースでそういうことができると、リハビリや脳の機能の回復にもすごく貢献する可能性がある。そこにも投資すべき。助かる人はいっぱいいる」と述べた。
マーク・ザッカーバーグ氏が社名変更までして乗り出したメタバース事業。私たちの生活にどのような変化をもたらすのか、今後の展開に注目したい。(『ABEMA Prime』より)
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