10日に発足した第2次岸田政権。辞任した自民党の甘利幹事長の後任に茂木前外務大臣が回った関係で、新しい外務大臣に林芳正氏が就任し、それ以外は留任となった。
しかし早速、この内閣の政策には疑問の声があがっているという。テレビ朝日政治部の今野忍記者が伝える。
Q.18歳以下への10万円給付は現金とクーポンで5万円相当ずつ、所得制限960万円で自公がまとまったが。
公明党はもともと、コロナで困っている子どもへの「未来応援給付」だと選挙などでも言っていた。しかし、「バラマキだ」との批判が出てくると、コロナや貧困対策ではなく教育政策だという言い方になった。位置づけがよくわからなくなっている中、自民党は自民党で所得制限を訴えて議論していて、よくわからない決着になった。
自民党の人に聞いても、「これは政策論争ではない。政治だ」と。与党政策協議会というものがあって、自民党にも公明党にも政務調査会長という政策をまとめるトップがいる。自民党だと高市早苗さん、公明党だと竹内譲さん、本来ならこの2人でやるべきなのを、いきなり幹事長同士で話し合った。その時点で、「政策ではなく政治的な案件なんだよね」と自民党のある幹部は言っていた。
所得制限を960万円としたのは、すでにある児童手当の線引きと一緒で早く給付できるからだ。貧困の子どもなどに無料で塾を開いているNGOの人に聞くと、「本当に困っている人たちにとっては1回で10万円じゃとても足りない」と。また、900万円の収入があって子どもが1人だったら、そこまで困っているのかという話にもなる。
どこかで線引きしなければいけないし、広くやるなら教育や子育て政策になる。本当にコロナで困っている人たちやシングルマザー・シングルファザーといった世帯に配るのであれば、毎月5万円とか児童手当を増やすとかしなければいけなかった。選挙が終わってからお互いの公約をすり合わせて、譲り合うようなかたちにしたので、結果的に誰のために・何のためにやるのかが見えづらい政策になってしまったのでは。
Q.マイナポイントを「最大で2万円」としたことも政治的な要因?
これもよくわからない政策になってしまっている。マイナンバーカードを普及したいという政策論でやるのだろうが、これまでにも作ったら5000円分のポイントを付与していた。公明党がマイナポイント3万円付与と言っていたのも、マイナンバーカードを普及するとともに経済対策、コロナ対策としてやろうとしていたが、岸田総理に直接聞くと「これこそバラマキじゃないか」と。「まだ子育てのほうがわかるよね」というのが総理や自民党内の大勢の声だった。
満額2万円付与の内訳は、マイナンバーカードを新たに取得したら5000円分、健康保険証との紐付けで7500円分、銀行口座との紐付けでさらに7500円分。もうマイナンバーカードを持っていて、すでに5000円分をもらっている人は、残りの紐付けの1万5000円分になる。これがコロナ対策なのか、経済対策・景気対策なのかもうよくわからない。コロナで困っている人はたくさんいて、もうちょっと真剣に議論すべきだったんじゃないかというのは、自民党や公明党の人からも聞こえてくる。
Q.今回の衆院選で、自民党は過半数を超える262議席を確保しているが、32議席の公明党に配慮しすぎではない?
今回の選挙で自民党は議席を減らしたが、絶対安定多数の261以上と圧勝した。衆議院だけで見たら、本来なら公明党の言うことを聞かなくていいというか、連立政権でなくてもいいぐらいだ。
自民党と公明党の連立政権は、政策を進めるためではなく、選挙協力のためだと言われている。自民党は今回、小選挙区でかなり接戦区が多く、1万票未満の差だった選挙区が31あった。公明党、創価学会の票が小選挙区で2~3万あると言われているので、連立を組んでいなかったら全部ひっくり返っていた可能性がある。そうなれば、自民党は単独過半数割れ、立憲民主党は躍進し、枝野代表は辞任しなかったかもしれない。
結果は紙一重だったので、岸田総理も公明党をそうそう邪険にできないところがある。うまい意味で妥協というか、公明党の顔を立てながら、自民党は単独過半数をとったわけなので、公明党もそこまで強行には出られなかった。前回、国民に一律10万円を給付した時、公明党は徹底抗戦したので、それに比べればあっさりと譲っている。
Q.茂木前外務大臣を幹事長に置いたのが大きかった?
茂木幹事長は“交渉がうまい人”と言われている。TPPの交渉も担当大臣として進め、当時のトランプ大統領に「タフなネゴシエーター」と言わせたぐらい。自民党の人は、「上司には絶対にしたくないけど、部下には絶対にしたい」と口を揃えて言う。
前幹事長の甘利さんは「私が日本を率いている」などと上から目線な発言があり、甘利さんが選挙対策委員長をやっていた時は、あまり公明党との関係がよくなかったと言われている。茂木さんも選挙対策委員長をやっていたが、逆にその時は関係がよかったと言われていて、公明党との交渉もうまくやれる人という評価があった。雨降って地固まるではないが、茂木幹事長になって岸田さんとしては党を任せられるようになった。
そもそも、読売新聞が6日の一面で「18歳以下に10万円支給へ 所得制限設けず」と書いた時、これは本当かと思って総理に電話で取材したところ、「こんなの大誤報だ」と言っていた。「これから党に任せて議論するから。党で決めてもらう」と話していて、その時に思ったのは安倍さんと菅さんの時とは変わったなと。菅さんは自分で決める人で、高齢者の医療負担を引き上げる際の公明党との交渉はトップ会談で決めた。それに対して今回は、茂木幹事長という党の議論に任せたので、岸田総理になって党内で重要なことを決めるようなかたちになってきた。政府与党の意思決定も変わってきたと感じる。