「スポーツが全てではないが…」重度難聴を抱えた陸上選手が生徒たちに伝えたい“選択肢” デフリンピックへの思い
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 日本中を熱狂の渦に巻き込んだ東京オリンピック・パラリンピックから数カ月。2022年に“あるスポーツ”の国際大会が行われることを知っているだろうか。

【映像】トルコで行われた前回の「デフリンピック」 開会式では盛大な花火も(冒頭〜)

 デフリンピックとは、聴覚に障害をかかえるアスリートたちによるスポーツの祭典だ。知名度は高くないが、実はパラリンピックよりも早い1924年に初めて開催され、オリンピック・パラリンピックと同じく、夏と冬の大会が4年ごとに開催されている。

 2017年にトルコで行われた前回の夏季大会では、日本は金メダル6個を含む27個のメダルを獲得。新型コロナの影響で延期となった来年のブラジル大会でも日本勢の活躍が期待されている。

 そんな”デフスポーツ”の魅力について全日本ろうあ連盟の事務所長を務める倉野直紀さんはこう話す。

「聴こえない人が同等に戦うためには、補聴器を外すというルールがあります。補聴器をしたまま出るのは違反になり、その時点で失格になります。それはみんなが平等に聴こえない立場で公平に戦うという精神から、そういったルールになっています」(※インタビューには手話で回答)

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 デフスポーツは、聴力の異なる選手が公平に競うことができるよう、競技中は選手の補聴器装着が禁止されている。代わりに、彼らはさまざまな方法を駆使し、プレーに必要な情報を受けとっているという。

 陸上競技の場合、スタートの瞬間、スターターが鳴らすピストルの代わりにフラッシュをたくことで選手に合図が送られる。その他にも水泳では選手に水しぶきを浴びせてゴールを知らせたり、空手で審判の指示をライトで知らせたりなど、選手の視覚的な情報を保障するためにあらゆる工夫が凝らされている。こうした面に加え、倉野さんは「デフスポーツならではの一面も見てほしい」と話す。

「例えば、デフサッカーの見どころで言いますと、チームメイト同士の声掛けがなかなかできませんので、声掛けの代わりに、それぞれいろいろなサインをお互いに出し合いながらやっています。聴こえる選手とは違った心理戦があると聞いています」

 そして、来年に迫ったデフリンピックを前にメダル獲得を目指し、日々鍛錬を重ねる選手がいる。陸上選手の高田裕士さん(37歳)だ。

 高田選手は感音性難聴という重度の障害を抱えながらも、聴覚障害者の陸上・400メートルハードルの日本記録を持ち、世界の舞台でも数多くのメダルを獲得しているトップランナーだ。

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 「僕たちにとって、これまで積み重ねてきたことを最大限に発揮できる場所が、デフリンピックなんです。だから、すごく自分の中では特別というか、大きなものがあります。今年も自己ベストとほぼ変わらない記録で動けていて、自分の中では年齢の壁というのをまだ感じていなくて。まだまだいけると思って競技をしています」(※手話と声の両方で回答)

 重度の聴覚障害と向き合いながら、大舞台で結果を残し続けてきた高田選手。高田選手が本格的に陸上に取り始めたのは大学進学後。きっかけは、高校時代に経験したケガによる挫折だった。

「高校卒業するまでは野球をずっとやっていて、プロを目指していました。でも、高校2年生のときに肩をケガしてしまって。スポーツをしている時間が、自分にとって一番輝ける場だったので『野球以外のスポーツで自分に何かできることはないか』と考えたときに陸上が浮かび、大学に入った後に陸上を始めました」

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 大学進学後、陸上選手として才能が一気に開花、飛躍的な成長を遂げた高田選手。

「肩を壊してなかったら、ひとつでも(挫折が)なかったら、今の自分はないですね。自分の力というよりも、出会いというか、巡り合わせが大きいのかなと感じています」

 高田選手にはもう一つ、別の顔がある。週に数回、ろう学校の生徒たちに陸上を教える“指導者”としての顔だ。真剣に練習する生徒たちと、それを見守る高田選手。生徒たちの存在が、自身の心を奮い立たせることもあると高田選手は話す。

「生徒の存在や生徒が頑張っている姿は、自分にとってもすごくプラスになっています。それまでは身近に応援してくれている人たちがモチベーションだったのですが、今はそれにプラスして、ろう学校の子どもたち、陸上部の生徒たちも頑張るためのパワーになっています」

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 そして現在、日本のデフスポーツ界にはある大きな目標がある。日本におけるデフリンピックの開催だ。これまで日本でデフリンピックが開催されたことはなく、今年1月には2025年のデフリンピックの東京誘致を目指して会議が開催されるなど、招致に向けた取り組みが進んでいる。

 前述の倉野さんは、日本でのデフリンピック開催を通じて、スポーツを通じた共生社会の実現を目指したいと語る。

「日本でのデフリンピック開催となりますと、デフスポーツの発展、障害のあるなしに関わらず、共に暮らすための“共生社会”の実現が必要になります。パラリンピックで心のバリアフリーの推進が進みましたが、これで終わってはもったいない。2025年のデフリンピックで、障害がある人ない人も共に暮らせる社会の実現を推進していきたいと思っています」

 2025年の東京誘致に向けて、取り組みが進むデフリンピック。高田選手も「デフリンピックの代表選手にとって、自国の開催には大きなものがある。ぜひ開催してほしい」と意気込む。

「ろう学校に通っていても、デフリンピックのことを知らない子もいます。スポーツが全てではありませんが、ろう学校の子どもたちの人生の選択肢の中に、デフリンピックが加わってくれたらうれしいですね」(『ABEMAヒルズ』より)

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