帰国すれば命の危機も…W杯で“3本指”掲げたミャンマー人選手の苦悩「家族より大事なものはない」
帰国すれば拷問や命の危機も...
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 横浜に拠点に活動するフットサルチーム、Y.S.C.C.横浜。同チームはフットサルの日本トップリーグであるFリーグのディビジョン1に所属し、日本一を目指している。

【映像】帰国すれば拷問や命の危機も...ミャンマー人選手、母国の実態を告白

 今年9月には、元サッカー日本代表の松井大輔選手が入団したことでも話題を集めたY.S.C.C.横浜だが、松井選手と同時に“ある選手”が入団したことでも注目された。

 その選手が、ミャンマー出身のゴールキーパー、ピエ・リアン・アウン選手、26歳。アウン選手は、今年9月にチームへ加入。練習の傍ら、日本語の勉強と仕事に励む毎日を送っている。

 一見、よく見られる外国人選手の加入のようにも見えるが、アウン選手がチームに加入するまでには壮絶な経緯があった。彼はかつて、サッカーのミャンマー代表としてプレーしていた。

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 今年2月、ミャンマー国軍がクーデターを起こし、政権を掌握。反対する市民たちが抗議デモを起こし、国軍と衝突するなど、これまでに1000人以上の市民が、弾圧により命を落とし、5000人以上の人が拘束されていると言われている。

 そんな母国の混乱に、アウン選手は遠く離れた日本で行動にでる。今年5月のワールドカップアジア2次予選の日本VSミャンマー戦。ミャンマー代表として来日したアウン選手は、国歌斉唱の時に国軍への抵抗の意思を示す“3本指”を掲げたのだ。

 当時の心境について、アウン選手は「正直に言って、最初に3本指を掲げたときは、日本に残ることは考えていませんでした。試合が終わったらミャンマーに帰ると思ってました。周りからは『家族より大事なものはない』と言われました」と明かした。

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 また、“3本指”を掲げた理由については「ミャンマーでは1000人以上の死者がでています。彼らは目的も無しに死んだわけではありません。家族が大事だから、家族と一緒に暮らすため、クーデターを許していましたが、私は政権を戻して欲しいと伝えたかったのです」と語った。

 アウン選手が起こしたアクションは、ミャンマー国内に大きな希望を与えた。しかし、それは国軍に対し、反旗を翻すという意味も……。帰国すれば、軍に捕まり、拷問されるなど命の危険もあったアウン選手は、周囲の説得もあり、日本にとどまることを決意する。

「母国にいる親戚や日本の支援者に『帰国しないように』と言われました。ミャンマーでは、ボイコットを行う人の家族を拘束したり、夜に逮捕して朝に遺体を返すということが多くなっていました。もう1つは試合が終わったとき、チームの管理者に呼ばれて、『帰国後は取り調べられる』と言われたので、それらを恐れて帰国しないことを決心しました」

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 今年6月、アウン選手は大阪出入国在留管理局に、難民申請の書類を提出。しかし、去年の難民認定率は、わずか1.2%と日本での難民認定は難しいとされている。行政の判断を待つ間、アウン選手は複数のオファーの中からY.S.C.C.横浜のサッカーチームとフットサルチームの練習に参加した。そんな中、支援者の熱心な協力もあり、アウン選手は難民認定され日本への在留資格を得る。

 アウン選手は「本格的にプレーヤーとしての可能性を広げたい」と考え、サッカーからフットサルへの転向を決断。Y.S.C.C.横浜のフットサルチームとプロ契約を結び、日本フットボール界初の”難民選手”となったのだ。

「クラブにとって、チームにとって、プラスになると思って契約を決めました。難民の選手として日本で初めての登録になるということです。今の国で起きていることを、生で見て話せる、感じたことを話せる、唯一の人間だと僕は思っておりますので、サポートしていきたいと思っております」(Y.S.C.C.横浜フットサル 渡邉瞬ゼネラルマネージャー 新入団記者会見時のコメント)

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 複雑な事情を抱えながらボールを追い続けるアウン選手ですが、ピッチに立てば、家族同然のチームメイトとも真剣勝負。代表クラスのキーパーを擁するY.S.C.C.横浜でアウン選手はまだ公式戦のゴールを守ったことがないという。逆境にも負けず、プレーし続けるアウン選手。受け入れるチームメイトも彼を支える覚悟を持っている。

「国に帰ったら殺されてしまうかもしれない中で、仲間のことを思って、抗議の意を示したというのは、すごい正義感あるし、すごい人だなっていう。身近であそこまで人生をかけたチャレンジというか、何か思いを持って生きている人って中々、普通に生きてたら出会わない選手。彼のプレークオリティーとか、人間性とか、競技面としてもプラスに寄与すると思うので、僕らの成績向上、上位に向かって行くための必要なピースだなと思います」(Y.S.C.C.横浜フットサル キャプテン 宿本 諒太選手)

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 今月5日の公式戦で初のベンチ入りを果たしたアウン選手。加入から数カ月、徐々にチームからの信頼を得つつある。新たな競技人生をまだキックオフしたばかりのアウン選手に、日本で成し遂げたいことを聞いた。

「正直(最初の)私の夢は、日本でサッカーをすることでも、プロ選手として日本に残ってプレーすることでもありませんでした。帰国ができず、私にとって日本は一時的な避難場所でした。しかし、(日本で)自分が好きなことが続けられています。試合に出場できるように頑張っていきたいです」

(『ABEMAヒルズ』より)

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