女性のファンも多い萌えキャラだが、観光地としてこれでよかったのだろうか?…「温泉むすめ」論争から考える、日本の“萌え”文化
スタジオでの議論の様子
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 温泉地をモチーフにしたキャラクターによって、その魅力を国内外に発信しようという地域活性化プロジェクト「温泉むすめ」。2019年には実績が評価され、観光庁が後援するまでに成長。飯坂温泉(福島県)の観光協会が公式Twitterで「若い方が温泉街や地域の人を気に入って何度も福島に来てくれるなんて素晴らしいじゃありませんかw」とツイートするなど、地元では好意的に受け止める声もあった。

【映像】温泉むすめに物議"萌えキャラ"起用で温泉街の苦境打開?

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 ところが今月に入ってTwitter上を中心に“女性蔑視”などの批判の声が相次ぐと、「スカートめくり」「夜這いがあるかも」といった箇所に修正が施され、運営会社が「一部説明不足なところがありましたので加筆・修正しました」と発表するに至っている。

 23日『ABEMA Prime』では、批判を浴びる“萌え絵”とは何なのか、また、観光地が積極的に起用するのはなぜなのか、全国の自治体が制作するようになった“ゆるキャラ”ではダメなのだろうか。

■「そういう目で見ていた自分を殴ってやりたいと思った」

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  アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』のファンだというロンドンブーツ1号2号の田村淳は「恋愛が苦手な人が、その対象をアニメのキャラに持っていっているのだと思いながら見始めた。そうしたら、全く違った。作品を見終わった後、そういう目で見ていた自分を殴ってやりたいなと思うくらいだった。そして作品の舞台として“聖地”になっている沼津に4回も足を運んでいる。『ラブライブ!サンシャイン!!』を見なければ、そこまでに行くことはなかったと思うし、沼津の良いところをたくさん知ることができ、友達の輪も広がった」と振り返る。

 「ところが『ラブライブ!サンシャイン!!』のキャラクターが、寿太郎みかんという地元の特産品のPRに使われたとき、温泉むすめと同じような現象が起きてしまった。作品を見ている人たちの中に、そういう人が一人もいないとは言い切れないが、女性を性的な目で見ているような作品ではない。違法なものでもなく、地域も盛り上がっているという事実が抜けたまま議論が加速すると不毛な状況になってしまう。僕もTwitterで攻撃していても仕方ないと思い、ファンとしてできるのは寿太郎みかんを買うこと、作品を見ることだと呼びかけた。それに対しては、批判の声は全く来なかった。どっちが正しいのかという議論をやりはじめると、バチバチになってゴールがないと感じている」。

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 近畿大学総合社会学部の岡本健准教授は「かつてはアニメ好きの人たちを“萌えている人”たちなどと呼んでいたが、今は“推し”という言葉に吸収されている感じがあるし、そもそも萌え絵というものがどういうものかということについても、それぞれが違うものを想像しながら話をしだすので、どうしてもムチャクチャになってしまう部分がある。千葉県松戸市のVTuberの件を見ていても、発端となった出来事からネット上の議論が遊離してしまい、相手をやっつけることが中心になって皆が気分が悪くなっていくのは不毛だ」と指摘した。

■普通の若者も楽しむものになった「萌え」

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 そもそも、萌えとはどういう意味をもの言葉なのだろうか。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は今回の論争について「ネット上のフェミニストの主張の一つに、“性被害を助長する”というものがあるが、それを言い出したらミステリー小説には殺人事件の“ご当地もの“もある。また、これらのキャラクターは誰かをモデルにしたわけでもなく、“非実在”のもの。実在する少女に向かうわけではないという意見も正しいと思う。このようなTwitter上でのフェミニストとオタクによる論争を見ていると、“気持ち悪い。不快だ”という理由で批判している人も多いが、それだけでは表現を規制するための論拠にはならない。なぜなら世の中には自分にとっては気持ち悪くても、誰かにとっては好まれるというものが山ほどあるからし、世の中のあらゆる表現がダメになってしまう可能性が出てくるからだ」と批判。

 その上で「例えばシンデレラや白雪姫などの子ども向けの絵本を見ると、ほとんどがアニメ、しかも萌えキャラに近い感じの絵になっていることが多い。つまり、昔と違って、こうした絵柄が社会に普通に存在するようになっているのであって、宅八郎のようなオタクのイメージの人たちというよりは女性も含めた普通の若者が楽しむのが当たり前になってきているということだ。その意味では、時代の流れに付いていけていない人が文句を言っているという構図になっている感じもしなくはない」との見方を示した。

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 こうした意見に対し、「えろ漫画家」のピクピクン氏は「海外ではゲーム業界に圧力がかかり、キャラクターがどんどん“ゴリラ化”しているという現象が起きている。例えば『トゥームレイダー』というゲームに出てくる、剣で戦う美少女に対し、“もっと胸は小さくして、体つきはゴツくして”という流れになっている。佐々木さんは“表現の規制はすべきではない”とおっしゃっていたが、日本にこういう動きが来るかもしれない。とはいえ日本では、鉄道などでも萌えキャラが使われているし、『刀剣乱舞』や『ウマ娘』によって、それまで興味のなかった人が寺社仏閣や競馬場に行くようになっている。それは地域への貢献にも有効だ。批判する意見と、どう折り合いをつけることを考えなければならないと思う」とコメント。

 佐々木氏も「確かに欧米のポリティカル・コレクトネス、いわゆる“ポリコレ”の流れは、間違いなくそういう方向に行ってしまっているので、Twitter上のラディカルなフェミニストたちもそのことを盾にして押し切れると思っている節がある。しかし萌え的な文化というのは、日本に古来からある、幼いものを好むとか、ピュアなものが好むといった伝統にも根ざしているわけで、それらを潰してまで欧米のポリコレを導入すべきなのかという議論まで広げ、これは日本文化の一つだと、歯止めをかけた方がいいのではないか」と賛意を示した。

■「女性のファンも多い」「女の子の憧れの姿でもある」

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 一方、実業家のハヤカワ五味氏は女性の立場から「佐々木さんのお話を少し補足すると、“萌え”という言葉自体、あまり使われなくなって来ていて、今は“推せる”とか、“尊い”という言葉に変わって来ていると思う。実際には女性のファンも多いし、女性も消費者側ではあるのが実態なのに、“萌える絵”という言葉が、“男性のオタクが興奮する絵”みたいな意味合いで使われてしまっているのではないか。私自身もフェミニストだが、Twitterで議論しているフェミニストの人たちが、萌えキャラ=男性が消費しているものという構図で話している気がする」。

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 『デ・ジ・キャラット』などでも知られるイラストレーターのこげどんぼ*氏は、女性作家として「萌えというのは、登場してから30年近くが経つ、随分古い言葉だと思う。当時はアニメオタクが、今でいう“推し“という感じで使っていたが、多くが男性であったために、二次元のものに性的なものを感じて騒いでいるんじゃないかという偏見、蔑視も出てきた。しかし実際には好き、かわいい、この子を愛でたいという直感的なインスピレーションを表現していた言葉であって、イメージが先走って悪く取られてしまうのは寂しいことだと思う」と明かす。

 「私の場合、女性の目線でかわいい女の子を描きたいと思っている。よく、萌え絵というのはどこから来たのかという論争がなるが、私は少女漫画が最初かなと思っている。子どもの頃に見た少女漫画の、かわいくて優しくて、フワフワした絵柄に対する、“こういうお洋服を着た女の子はかわいい”とか、“お姫様になってみたいと”といった“憧れ”を表現したものが共感を集め、発展してきたものだと思う。それらを男の子も見てかわいい、今までになかったと好きになってもらった、というものであって、突き詰めると、こうあってほしいという女の子の素敵な姿だと私は思っている。だから女性から見ても、胸の大きな子はすごく魅力的だし、こんなミニスカートを着こなせたらとても素敵だなという思いがあるので、それらが強調して描かれていることもすごく理解できる。

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 しかしそれらが大衆の中に出ていったときには、やはり色々な受け取り方をしてしまう人が出てくる。昔の絵画に比べれば最近出てきたばかりの文化だし、日本独自で発展してきた絵柄でもあるので、新し過ぎて、関係のない業界の人からすれば“なんだこの絵は?キラキラしているし、女の子の目は大きいし、胸は大きいし、強調されているし”みたいに思われてしまう。それは仕方のないとは思う。ただ、叩かれてしまうだけではもったいない。皆さんの意見を少しずつ取り入れて、魅力的なものなんだよということを広めていければいいなと思っている」。

■「観光地として、これで良かったのかのだろうか」

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 それでも田村が冒頭に指摘したとおり、同様の論争・騒動は過去に何度も起きており、女性のキャラクターを起用したPR施策は、まさに“炎上リスク”を孕んだものだと言える。実際、「温泉むすめ」についても、これまでも一部の表現・設定が加筆・修正されていることが指摘されており、あえて“萌え絵”“萌えキャラ”を採用するのはなぜなのか、との意見も少なくない。

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 こげどんぼ*氏は「地域おこしの企画としては10年くらい前から見かけるようになり、全国で取り入れられるようになった感じがする。ゆるキャラの場合は分かりやすくかわいいので、子どもからお年寄りまで愛されるが、萌えキャラはやはり最先端のオタク文化なので、オタクたちが今まで見ていなかった業界にとっては特に効果があるのではないか。また、最初のうちは見た目だけでも、そのうちにキャラクターの背景にある物語に共感するようになる。これがすごく大事で、コラボした観光地に行きたくなる、そして愛着を持つという上手いやり方にも繋がっていく」とコメント。

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 岡本准教授は「温泉地に限らず、観光地には色々な入り口が必要だ。特に若い方に来ていただきたいということでこういう戦略を取るというのは自然なことだと思う。特にコロナ禍で観光地が大変な状況になる中、アニメや萌えキャラはファンが強い愛情を持ってくれるものなので、“聖地巡礼”のきっかけとして頼りにするのだと思う。ただし、他との差別化を図る上で目立たせようとした結果、プラスの意味で“おっ”と受け止める人もいれば、違和感を持つ人も出てくる。そういうPRの構造的があると思う」と話す。

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 一方、ピクピクン氏は「入り口を作れるという面ではすごく有効だが、格式の高い温泉宿に行って等身大の萌えキャラのパネルがあったりすると、描く側の僕でも少しギョッとすることがある」、ハヤカワ五味氏も「“夜這い”という表現は問題だったし、少し悪ノリ感があると思った。観光地として、それで良かったのかなと思う」と指摘。

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 佐々木氏は「ゆるキャラは基本的に自治体が使っているもので、萌えキャラは観光協会などが使っていることが多いと思う。つまりマスである必要があるのかどうかという問題がある。例えばコンビニの棚から成人雑誌を撤去するという議論については、公的な要素でもあるので頷ける部分もある。しかし温泉地には昭和の時代の社員旅行のように、みんなでこぞって行くわけではなく、行きたい人が個人で行くという場所だ。

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 その温泉地として、女性向けに訴求したいのか、シニアに訴求したいのか。あるいは可処分所得が大きく、趣味にお金をたくさんかけているということが言われている、40代男性で独身というコアなオタク層に訴求したいのか。それによって施策が変わってくるということであって、なぜ全ての温泉が全ての人たちを受け入れないといけないのかという議論から始めないといけないと思う。昔から性的な施設がある温泉地もあるし、しどけなく和服を着た女性の写真のポスターが貼られている場合もある。それらは許容されていて、なぜ萌えはダメなのだろうか。つまり、これはば“ゾーニング”の問題にも繋がってくる。全国のどこにでもこうした萌えキャラが置かれているわけではなく、ある特定の温泉地が萌えキャラで売っているだけなのだから、それでいいじゃんと許容する度量もあってもいいと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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