世界で900店舗以上を展開するコスメブランド「LUSH」が明日をもって5つのSNS(Facebook、Instagram、TikTok、Snapchat、WhatsApp)から撤退することが話題を呼んでいる。
理由について同社は「私たちの決断は元Facebook社の勇敢な告発者によってもたらされた、昨今報道されているFacebookやInstagramが心身への悪影響をもたらす内部情報調査によって裏打ちされている」と説明。CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)も「一部のSNSプラットフォームは人々にスクロールさせ続け、スイッチオフやリラックスができなくなるよう設計されたアルゴリズムを使っていて、これはLUSHの考え方と正反対の考え方だ」と指摘している。
そこで同社が選択したのが、アカウントを削除するのではなく、あくまで「サインアウト」。また、TwitterやYouTubeに関しては利用を継続するという。一体どういうことなのだろうか。24日の『ABEMA Prime』では、LUSH JAPAN広報の小山大作さんに話を聞いた。
■「改善の姿勢について透明性をもってお知らせ頂ける場合は、利用の継続も考えたい」
小山さんは今回の決断について、「あくまでも“反SNSではない”」として、次のように説明する。
「私たちはこれまでも、ソーシャルメディアは使い方次第で心身に悪影響を与える可能性があることや、利用を自らコントロールすることの大切さを伝えてきた。そういう中、プラットフォーム側が様々な問題点を認識しながら、それらを無視してビジネスを継続させていたこと、つまりユーザーのメンタルヘルスやウェルビーイングよりも自社の収益を優先してしまったことを問題視したということだ。
こうしたSNSは、独自のアルゴリズムによって一度見たものに関連したものが表示される設計になっているため、どんどんスクロールをし続けてしまう、中毒性につながってしまうとも言われている。例えばFacebookの元従業員による内部告発文書には、10代女性の13.5%がInstagramを使っていて自殺願望が悪化したというような調査結果も出てくる。
私たちは化粧品を作っているメーカーとして、例えば原材料が危険なものだと分かれば、それを使うことは絶対にないし、危険だと分かった場所にお客様をお招きすることは絶対にしたくない。LUSHのお客様には10〜20代の若い世代の方も多く、お客様と交流する場所に関しては私たちにも責任がある。そこで今回、プラットフォームに改善が見られるまで、全世界で利用をやめようという決断に至った。もし改善の姿勢について透明性をもってお知らせ頂ける場合は、利用の継続も考えたい。
一方、Twitter社の場合、アメリカのトランプ前大統領のアカウントを凍結するなど、利用の仕方についての考えを持っていて、不適切だと考えるアカウントについて改善する姿勢を見せている。そのため私たちとしては現段階では今すぐ利用をやめるのではなくて、今後の対応の見ていこうという判断になった。Twitterには誹謗中傷の問題もあるので、プラットフォーム側だけでなく、利用者側の私たちもマナーやモラル、使い方をもっと考える必要もあると考えている。逆に言えば、今後の行動次第では、サインアウトの対象になるかもしれないということだ。
そこはグローバルなブランドとして成長させていただいている私たちが発信することの社会的なインパクトも理解しているつもりなので、今回の決定を機に、皆さんが考えるきっかけになってくれたらいいなと考えているし、私たち自身も、いわばSNSに依存しすぎることなく、いかに管理できるのかということを意識していきたい」。
■「ファンの皆さんは“LUSHのやり方”として期待してくださっていると思っている」
とはいえ、LUSHのSNSアカウントには数十万人ものフォロワーが存在する。元大手広告代理店社員でライターの中川淳一郎氏は「SNSというのはテレビや新聞のように出稿をしなくていいものなので、企業にとっては労力をかけず、タダで宣伝できるツール。それをしないというのは、無茶苦茶すごい決断だと思った。これがどういう影響を及ぼすのか見ていたい。ただ、外資系企業と仕事をすると、“USが、UKが…”と、“本国”の意向に従っているなと感じることが多い。今回の決断に、日本の皆さんは反対をしなかったのか」と質問。
すると小山さんは「世界中の多くの方々にフォローいただき、私たちの投稿を楽しみにしてくださっているというのは事実だ。だから残念な気持ちにさせてしまうのは本当に申し訳ない。ただ、私たちはこれまでも企業の信念として社会問題などについて発信し続けているブランドでもある。お客様にちょっと考えていただけるきっかけを発信することを、ファンの皆さんも“LUSHのやり方”として期待してくださっていると思っている。
そしてLUSHは社会課題について声をあげる会社であると同時に、決して強制するということはしない文化の会社だ。今回の判断についても、納得いかないので従わない、という自由も各国にはあった。きっかけは英国の本社の考えではあったが、何が問題なのかということを全世界で共有した結果、スタッフたちが賛同し、最終的に全世界48の国と地域のビジネスで同じ対応をするということになったということだ。
だから改めて申し上げたいのは、あくまでもプラットフォームに対して問題提起をしているわけであって、その利用者の方々を否定するものではない。したがってこれまで通りお使いいただくのも、ちょっとやめてみようと考えていただくのも、お客様のご判断だ。今回の対象も、ブランド全体で管理しているアカウントに加え、店舗ごとにも管理しているアカウントのみだ。
加えて、そもそもLUSHは“広告を一切やらない”というグローバルのポリシーがある。特に化粧品業界では一番と言ってもいいぐらい、広告に大きな予算をかける。しかし私たちはお金を払って言いたいことを一方的に出すという手法は使うこと無く、その分の予算はお客様の直接的なベネフィットになるよう原材料に使ったり、寄付をしたりしようという考え方を持っている。広告をやらない分、“お店が最大のメディア”ということで、店頭で泡を立てるといったアクションや、スタッフが広告塔としてお話をしたりする。それが口コミで広がり、私たちのことを信頼し、ファンになって下さった方たちが増えていったということだ」と説明した。
■「緊張感が生まれるのは世の中にとっていいことだと思う」
慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「これは象徴的な動きだと感じる。小山さんがおっしゃっていたように、見ている人がクリックするかどうかというレートだけで判断し、関連のものを次から次へと見せるというプラットフォームのアルゴリズムの中では、特定の考えが普通だと思い込んだり、誤解してしまったりした結果、社会的分断も生まれていく。
そしてテレビであれば、“こういう番組内容であれば、うちの会社は広告を出したくない”ということもできたが、今のインターネット広告はアドネットワークの世界になってしまっているので、どこに出したいか、ということは関係なく、何歳ぐらいの人が見ているところに、といった属性を決めたら、後はどこに出ているかが分からない状態だ。だからスマホで見ていると分かるとおり、同じ広告が繰り返し、繰り返し出てきたりする。そして情報に関しても、出処が不明なもの取材もしないでまとめたようなキュレーションメディアがたくさんある。情報が簡単に手に入って、誰でもアクセス可能でというインターネットの良さが、今度は弊害になってしまっているということだ。
しかしFacebookの収益源はほとんどが広告だ。GAFAMを中心としたプラットフォームがものすごく強くなっている中、ブランドの価値を重視するLUSHさんのような企業が“これはまずい”と声を上げ始めたということは、今後、大きな影響が出てくると思う。そうやって緊張感が生まれるのは世の中にとっていいことだと思う。とても勇気ある決断だ」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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