「表面上は“早期・希望退職”と言っていたものの、私の中では“リストラ”だと思っている。新聞はダメだなと思った時点で、とっとと会社を見限っておくべきだったと、強く思う」。
スポーツ新聞で営業職などを務めた木田けんじさん(50代、仮名)は今年の夏、仕事を失った。決定打になったのは、やはりコロナ禍だったようだ。上司との面談では、「辞めてもらいたい」という会社側の空気をひしひしと感じ取ったという。
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「人が外に出なくなったことで、コンビニや駅の売店で新聞を買ってくれる人が減ってしまい、その影響がもろにきてしまった。業績はガタ落ちだったが、それでも、リストラに遭うという予感は全くなかった。とにかく40〜60代で管理職でない者は辞めてくださいという感じで、ソリの合わなかった上司が、ニヤニヤしながら“お前は辞めるよな”という表情で話をしてきた」。
中には「働く場所はない」「今後は退職金も減る」などと告げられ、精神的に追い込まれた人もいたという。悩みに悩んだ木田さんは、辞めることを決意した。
「もちろん、辞めないという選択肢もあった。ただ、来年には勤務している事業所が閉鎖され、本社に移ってもらう、しかも引っ越しのための手当や単身赴任手当てなどは一切ない、という話だったので、会社に残れば今まで以上に家族との生活が大変になると思った。こちらも腹を括っていたので、“もう辞める”と。大学生と高校生の2人の息子は、“奨学金でも学校には行けるから気にしなくていい”と言ってくれた。涙が出そうになった」。
交通費を浮かせるため、自転車で1時間かけてハローワークに通う日々。50社以上に申し込み、そのうち20社では面接までたどり着いたが、年齢も影響してか、半年が経っても再就職先は見つからないままだった。「興味のあった業種とか、自分の持っている資格が役立ちそうな業種に応募しまくった。ビルを見渡して、色々な会社が入っているんだろう、それなのに、1社も俺のことを見てくれないのかと思う。悔しい。世の中が俺を必要としていないんだというふうに卑屈になっていくのが分かった」。
痛感したのは、50代での転職活動の難しさだったという。
「会社に入ってしばらくしてからインターネットが普及しだして、NTTドコモのiモードが出てきた時点(1999年)で“新聞は死ぬな”と感じた。何か資格を持っておいた方がいいかなと思って、ファイナンシャルプランナーや簿記2級は取得していたが、実務経験がないためか、転職活動には全く活かすことができなった。自分より年配の人や、肩書きのすごい人たちが相手でも気後れすることなく打ち解けていく力はあると思うが、そういうことは履歴書にはうまく書けないし、無形商材を売っていた人と、車など、形のある物を売っていた人とでは全く違うので、営業だからといって潰しがきくわけではないというのが身にしみて分かった。
やはり50代になると、単に資格を持っているだけでは全く評価されず、業種によっては年齢だけで書類審査に落とされたんじゃないかということも多々あった。年を取ったらしんどいというのは分かっていたが、やはり子どもの教育費がどんどんかかってくる時期に、給料が確実に落ちる転職というのは躊躇してしまう。それでも、ちょっとでも若いうちに脱出しておいたら…」。
その後、ようやく内定をもらったという木田さん。「これまでとは全く違う業種で、来月の半ばぐらいから働き出そうかという話になっている。家族もちょっとホッとしてくれたので」と声を弾ませた。
東京商工リサーチ情報本部の二木章吉氏は「業績が悪くなると、最後は人を切るしかない、ということになる。そういう場合、いつまでに何人減らす、という目標を設定していることも多く、そこに満たない場合、会社が“候補”と決めている人に声をかけるしかない。また、製造業などの場合、業績の良い大企業であっても希望退職を募集することがある。IT化、既存業務のオートメーション化という背景もあるが、例えば90年代前半までは新卒を毎年3ケタ採っていたような企業が、2000年代にはいると2ケタに減らし、さらに“逆ピラミッド”になった年齢構成を整えようとして実施するケースもある」と話す。
「また、退職を迫るような募集はいつの時代にもある。表向きには割増退職金と再就職支援をするというような制度のもとに実施するが、実態としてどんなことが行われているかは、木田さんのように名乗りを上げていただかないとなかなか分からない。そして、日本の大企業は“ゼネラリストを育てよう”という流れが主流で、働く側が“自分はこの部署でこの仕事をしたい”と選んでいける機会が少なく、会社の中でどういったスキルを身につけ、どういうふうにキャリアアップしていこうというのが作りづらい環境だ。そこが今は端境期というところはあるし、やはり技能を持っているスペシャリストの方が転職では優位性がある」。(『ABEMA Prime』より)
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