無料だが広告アリか、広告ナシだが有料かの選択を迫られる時が来る? “Cookie利用の同意”問題から考えるインターネット広告
菅野弁護士「同じ広告が…」
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 ウェブサイト訪問時に目にするようになった、Cookie(クッキー)の仕様に同意するか否かを問うてくるメッセージ入りのポップアップ。「同意しません」を選択した結果、閲覧が継続できず困惑した経験を持つ人もいるのではないだろうか。

【映像】ネット履歴に拒否権 個人情報か利便性か

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 そもそもCookieとは、サイトを閲覧した際にパソコンやスマートフォンなどの端末に保存される、日時や履歴などの情報のこと。これらはサイト(ファーストパーティ)だけでなく、第三者(サードパーティ)も利用することができるため、サイトに表示されるターゲティング広告が掲出される際の土台ともなっている。

 ただし、過去にアクセスしたサイトに関連した分野の広告ばかりが表示されることに煩わしさを感じる人も多く、総務省ではこのCookieの第三者の利用について拒否できるような仕組みを事業者に義務付ける方針だ。

 1日の『ABEMA Prime』では、背景にある、インターネット広告をめぐる業界事情について議論した。

■夏野剛氏「そもそも広告が“出過ぎ”だと感じている」

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 popIn株式会社で取締役を務めた経験などを持つ西舘亜希子氏は「Cookieというのは、住所、氏名、年齢など、個人を特定できるような情報ではない。ただ、“こういうサイトを閲覧する傾向があるので、こういったものが好きそうだ”という類推ができるデータなので、広告主が持っている購買データなどと紐付けて商品を提示するといったことが技術的に可能になっている。そうした点について、どういうふうに使うのかをサイトの方で明記をしていくのが主流になっている。

 総務省の方針については様々な背景があると思が、やはり個人情報保護に対するコンプライアンス意識の高まりという部分が大きいと思う。すでに欧州ではGDPRという個人情報保護の仕組みが導入されているし、個人のデータは誰のものなのか、個人のデータをしっかりと守っていこうというルール作りが日本でも求められているのではないかと思う」と話す。

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 前衆議院議員の菅野志桜里弁護士は「再びサイト(ファーストパーティ)にアクセスした際、カートに入れておいた商品が維持されていたりするのは便利だと思う。ただ、知らないうちにターゲティングされていて、例えば筋肉関連のサイトを見ていたらトレーニング関連の広告がドッと出てくるのは割と煩わしい(笑)。そういう情報は自分でも探しに行けるものなので、そんなに利便性があるものなのかと感じている」とコメント。

 「就活サイトが閲覧履歴をもとに算出した“内定辞退率”を企業に売っていたということがあった。つまり就活生がサイトにアクセスするのをリスクだと感じる事態が実際に起きている。結局はCookieの利用に同意せざるを得ない状況になってしまうサイトもあると思うし、ルールに基づいてやっていかざるを得ないヨーロッパやアメリカ、日本は、人々の情報をどんどん吸収していく中国のような国と競争しなければならないという状況もある」と指摘する。

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 一方、慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「もちろん技術的にはいろんなことが可能だが、主流なのはブラウザベースのCookieなので、個人で防ぐこともできる。設定でこまめにリセットしておけば、同じような広告が繰り返し表示されることもない。いわゆる“個人情報”の話になると日本人はすごく厳密になるが、正直言って、ものすごく有名な人か、ものすごく悪いことをしているような人でもない限り、別に漏れても何も影響がない。よく“リベラル”な人がメチャクチャ文句を言うが、あなたたちの情報なんて誰も欲しがってない、ということだ」と釘を差した上で、次のように説明した。

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 「アドテクでは、どれくらいの費用投下に対してどれくらいの売上が上がったかというのを、ものすごくシビアに見ている。例えば単価が大きい商材の場合、クリックされるパーセンテージが低かったとしても、売れた場合のリターンが大きいといった根拠に基づいて広告が出されているので、見るのが本当に嫌だというなら、絶対にクリックしないこと。しかし、実際にクリックしている人がいるから出ているということだ。

 そもそもインターネット広告については“出し過ぎるのはよくない”と言われる時期と、“出てしまっている方がいいと”言われる時期が交互に来ているが、業界が長い僕自身としては、やはり今は“出過ぎ”だと感じている。かつては、これほどまでに広告が出ていなくても、インターネットメディアは成り立っていた。やはり儲かってしまうという現実があると思う。実際、サードパーティ広告、ターゲティング広告が最も激しいメディアが、日本最大のメディアだし、その利益率を見てみると、ここまで利益率がなくても運営はできるはず、という水準だったりする」。

■佐々木俊尚氏「無料だが広告アリか、広告ナシだが有料かの選択を迫られる」

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「“同意しますか?”と聞かれて、“同意しません”を選んでいる人が果たしてどれくらいいるのか疑問だ」とした上で、次のような見方を示した。

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 「同じ広告が出続けることについて、みんなが“気持ち悪い”と言うが、なぜ表示されているかと言えば、クリックする人も多いからだ。Googleが急成長したのも、日本の広告会社が業績を伸ばしているのも、そうした“アドテク”と呼ばれる広告のテクノロジーがあるからだ。

 そこに対してプライバシーの問題に関して非常に保守的なヨーロッパでは、EU一般データ保護規則(GDPR)という厳格なルールが設けられたし、比較的自由にやってきたアメリカでも、2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ営がFacebookのデータを用いていた“ケンブリッジ・アナリティカ事件”が起きて以降、風向きが変わった。Facebookのマーク・ザッカーバーグが議会に呼ばれたり、アドテク業界に大きな影響が出るため来年に延期になったものの、GoogleがサードパーティCookieの廃止を宣言したりしている。日本の企業も、こうした欧米の流れに追随せざるを得ない状況になってきていると思う。

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 ただし、本当に全てを無くしてしまうのがいいのか、という問題もある。なぜかと言えば、それによって無料でコンテンツを楽しむことができているという側面もあるからだ。例えばYouTubeが基本的に無料で見られるのは、広告が入っているからだ。一方、Netflixの場合には広告が入らないものの、月額で課金されるサービスだ。こうしたファーストパーティのサービスにとってみれば、もし広告を無くすというのであれば、最終的にはユーザーからお金を取らなければならないということになる。

 例えば日本のnoteというブログサービスはサイトに広告が無く、“真っ白”なデザインだ。しかし儲けようと考えれば、コンテンツを有料にするなど、どこかでお金を取らざるを得ない。無料だが広告でゴチャゴチャとしたサービスで我慢するのか、それともお金を払ってスッキリとしたデザインのサービスにしてもらうのか、どうしても二者択一になる部分が出てくる。経済格差の視点を踏まえれば、個人がデータを差し出すことでコンテンツを無料で見ることができる権利が確保できるという見方もできるということだ。

 そして、菅野さんの指摘はメチャクチャ重要だ。これからはデータが産業の中核になっていくと言われている。例えばAIの深層学習は大量のデータを食わせることによって成り立つので、日米欧がすごくうるさいルールの下でやっていく一方、中国などがプライバシーのことなど考えずに国を挙げてデータを集めていくことになれば、どんどん進化してくるのは後者だ」。

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 西舘氏は「欧米の場合、個人情報の保護を大事にしながら、どのようにして資本主義や民主化を発展させていくのかという思想や戦略があると思う。日本の場合も、情報をどのように使うことで、どのように国を発展させていきたいのかというものがあれば、議論も前に進みやすいのではないか。インターネット業界の末席にいる者として、私も考えていきたいと思っている」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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