「男性69%:女性31%」「男性68%:女性32%」。2011年〜2020年の10年の間に、4つの美術賞で大賞を受賞した男女の比率と、その審査員を務めた男女の比率だ。
これは美術・文芸・演劇・映画などのジェンダーバランスを調査している「表現の現場調査団」による調査(第2回)で明らかになったもので、今月9日の中間報告では、美術系大学の学生の7割以上が女性であるのに対し、教員の8割は男性という実情があることなども指摘された。結果を受け、調査協力した社会調査支援機構チキラボ・代表の荻上チキ氏も「ジェンダーギャップというのは単に男性のほうが評価されやすくて、女性のほうが評価されにくいということだけではなくて、様々な差別・不平等につながっていると示唆される」とコメントしている。
13日の『ABEMA Prime』では、今回の調査結果から見えてきた日本のアート界や表現者の置かれた現状、さらに今後の処方箋について荻上氏に話を聞いた。
■「男女比の偏りやハラスメントが、表現の分野にすらあるということ」
荻上氏は「3月に行った第1弾の調査では、表現の現場でどういったハラスメント被害にあったのか、1000人以上の方々からアンケートを集めた。結果、どの分野でも、様々なハラスメントがあるということが分かった。そこで今回は、そうしたハラスメントを生む背景にはどういった理由や構造があるのかを分析するために、例えば大学の指導者と学生、アワードを授賞する人と受賞する人などの男女比を集計してみようと調査した。すると男性の方に非常に偏りが強かったということが明らかになった」と説明する。
「例えば文芸評論の世界には、掲載されれば芥川賞の登竜門として注目を集めることになる雑誌を含む“5大文芸誌”というものがあるが、新潮新人賞、文學界新人賞、すばる文学賞、文藝賞、群像新人文学賞などの過去10年分の審査員に着目すると、基本的に男性の方が多いという構造があることが分かった。それだけでなく、受賞者も男性の方に偏っていることが分かった。あるいは作品を批評・評論する側に着目してみると、著名なところでは小林秀雄賞、すばるクリティーク賞、群像新人評論賞などでも、審査する側と受賞する側が男性に偏っていることが分かる。これは他の分野よりもそうした傾向が濃厚に出ている分野だ。
また、実際、被害に遭ったという当事者に聞いたところ、“あっちのほうが男性なんだから勝たせてあげて”と言われてコンペを落とされた、クライアントである大手組織の役員から“受賞を辞退しろ”“あなたはふさわしくない”と辞退を勧められた、あるいはキュレーターに“あなた女性なんだから、女性らしさを全面に出した、例えば裸でのパフォーマンスとか、そうしたものをしたらどうか”と言われた、など、作品の制作段階、受賞段階でのハラスメントが起きているということも分かっている。
ただし、表現の現場が特別ではない、ということは言いたい。政治や企業など、あらゆるところでハラスメントや男女の偏りは存在していて、それが表現の分野にすらあるということだ。世俗の社会には様々な差別や抑圧があるかもしれないが、表現の現場は自由で、存分にクリエイティビティを発揮する場所であることが期待されているはずだ。しかし蓋を開けてみると、そこにも様々なハラスメントや男女の偏りが存在していて、むしろ表現の現場だからこそのハラスメントも存在している。それでは想像力を発揮する機会が奪われ、表現する人が退場させられてしまう人が出てくるという、よろしくないことも起きてくる。
もちろん、そもそもどれくらいの男女比でエントリーがあるのか、そのデータが入手できるものがないことが多く、“母数”はカウントし難いところがある。ただ、文芸評論や書評家には女性がたくさんいるにも関わらず、特定の賞や、注目される場では男性に偏っているということがデータからは言えるということだし、表現の現場にも立てないという方が多くいる。例えばクラシックの世界で、演奏者の顔を見ずに音だけを聞いて採点をしてみると、男女ほぼ同数の採用になったが、そういう状況ではないと男性に偏っていたというテストの結果がある。
あるいは映画の世界が分かりやすいが、評価をされるプレーヤーになれるまでの時間が長くかかるので、女性は映画監督の前の助監督、あるいはディレクター、カメラといった仕事をしているうちに振り落とされやすいということがある。そういう中では、作品そのものを見ているんだと思っていても、実際にはいろんなバイアスが存在しているし、男女を対等に評価できていない現状があると思う。そうだとするならば、まずはそれを取っ払うところからが出発点だよねということだ」。
■「劇的には変わらないけれど、ひとつひとつやっていけば確実に変わる」
ジェンダーバランスの意識の高まりから、近年では改善の兆しも見られるというが、教育現場などでは一朝一夕には状況を変えづらい面もあるという。
「映画賞の中には、制作者の男女比を50%ずつにした1次審査を行い、そこを通ったものを著名な方々に審査してもらう建てつけにするという工夫を始めたところもある。やはり、このジェンダーバランスをなんとかしなきゃという議題がようやく共有されてきたことによって、“うちの業界やばいじゃん。この賞やばいじゃん”と、内外から声が上がり、変えようという動きが出てきているということだと思う。今後も調査などを重ねることによって一歩ずつ進んでいくんだろうと思う。
ところが、特にアートの分野では、指導者になるまでのハードル、天井があるので、潜在的なプレーヤーである学生は女性が多いにも関わらず、実際に表現の現場に立ったり、教員になる側では女性が少なくなったりしてしまう。そこには一定の評価体系とか指導体系の偏りがあるのではないかということが見えてくるが、大学教授などを男女半々にするというのは、相当難しいことだ。
やはり大学の雇用システムが終身雇用になっていることが多いので、教授になった段階で“半々にしたいから、あなたクビね”ということは言いづらく、新規採用でどう整えるかということを考える必要がある。それでもブラインドテストなどによって参加者のジェンダーを排除して受賞対象を探す、あるいは賞の審査員の数を整えるといったことはしやすいが、教育現場、特に大学の現場の教授の数を揃えるということは数十年単位の仕事だと思う。
それでも、できることは山ほどある。指導層というのを一気に変えることはできなくても、プレーヤーの数が実際に整っているかをチェックすることはできる。この番組でも出演者の男女比を意識していると思うが、10年前、20年前では考えられないことだったと思う。また、ハラスメントを減らすという観点で言えば、しっかり相談機関を設けるということ。表現の現場にはフリーランスの方が多いが、今のハラスメント防止の法律では対象外になっている。また、ハラスメント防止のための啓発を教育現場で義務付けるということもできるだろう。
女性が上司になったからといって女性が働きやすくなるとは限らないという指摘もあるが、女性が現場にいるときの方が、生理休暇や育休、長時間労働の問題などを改善しようという議題が生まれ、多くの方々が働きやすい環境になるということもまた事実だと思う。劇的には変わらないけれど、そのようにして、ひとつひとつやっていけば、確実に変わる。今はそういうフェーズに入っていると思う」。(『ABEMA Prime』より)
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