アメリカではFacebook社が社名を「Meta」へ変更、中国では今年の「10大ネット流行語」にランクインするなど、とにかく日々の話題に事欠かない「メタバース」。オンライン上のバーチャル空間やそのサービスを指すもので、日本でも企業の参入が相次いでいる。
「大きいゴーグルつけたくないし、一過性で終わりそう」「人間の身体がある限り、現実に引き戻されるから意味ない」といった冷ややかな反応もあるが、すでにメタバースの中で活動している人たちは、どのように感じているのだろうか。
■「自分自身より、というか、これも自分自身」
「やっていることは、一言で言えば生活」。『VRChat』というプラットフォーム内に作った“自宅のような場所”、「ホームワールド」で取材に応じたのは、メタバースライターのアシュトンさん。メタバースで友人とゲームをして遊んだり、雑談をしたりするだけでなく、仕事をこなすこともある。VRゴーグルの装着は週に100時間を超え、今やリアルな現実生活とオンラインの仮想世界の“2つの世界”があるという感覚だという。
「そもそもVRというのは、VRゴーグルなどの技術を指す言葉で、メタバースというのはそれらの技術を使うなどしてコミュニケーションをとる3D空間を指している。つまり技術がVRだとすると、用途がメタバースというような使い分けだと考えている。だからVRChat=メタバースであると言われることもあるが、これもコミュニケーションをとるためのサービスの一つ、という感じだ。
そしてVRChatはアメリカのサービスなので、日本人のユーザーは全体の10%程度くらい。オフ会みたいな感じで、リアルで会うことも多いし、逆に海外のユーザーとコミュニケーションをとる機会も多い。仕事としても、メインで執筆しているのがVR空間の分野なので、取材も“こっち側で”ということが多く、VRChat内にデスクトップ画面やキーボードを映し出して、VRゴーグルを被ったまま記事を書くこともできる」。
そんなアシュトンさんにとってのVRゴーグルは、私たちにとってのスマホのようなもの。就寝の直前まで装着、起床すると再び装着。それだけでなく、「VR睡眠」を取る日もあるという。
「いわば“寝落ち”に近い人もいると思うが、メタバースとして大事なのは、“寝よう”と思っている人も多いということだ。寝るまで友達と一緒に喋って過ごすのは、“修学旅行の夜”みたいな感覚に近い。そういうこともあって、割と“こっち側”が生活の基盤になっているイメージだ。私はもともと知り合いと飲んだりするのが好きなタイプで、リアルが鬱陶しいなんてことは全くない。ただ、コロナの影響で外にご飯を食べに行ったり、大人数で遊んだりすることができない期間が長引いたので、3密になっても問題ないバーチャル空間だったら…と思うようになった。もちろん全員が僕みたいな生活を送るようになるとは思わないが、将来は1日の大半をメタバースで過ごすのが当たり前になっていくのではないか」。
背景にスライドショーのように現れる女性のようなアバターは、“メタバースでの恋人”ということなのだろうか。「現実世界でお会いしたことはないが、一応、そんな感じだ。アバターは女性だが中の方は男性だ。メタバースでは、ジェンダーなどを気にしなくてもいい」。さらにメタバースの自分とリアルの自分、どちらが好きかとの質問には、次のように答えた。
「自分自身より、というか、これも自分自身。リアルなアバターもあれば、こっちのアバターもあるみたいな感じのイメージだ。 私は複数のアバターを使っているし、それらが違うだけで、お互い会った時の動きも自然と変わってくる。つまり意識しなくてもアバターに引っ張られるみたいな部分もあると思う。そもそもSNSだって本名ではない名前、自分の顔ではないアイコンを使うと思う。私も小さい頃からTwitterを使っていたし、別の人格のようなものを持つというのは、若い世代であればそれほど違和感はないはずだ」。
そんなアシュトンさんだが、メタバースでの生活が一般に普及するには、まだ少し時間がかかるのではないかとの見方も示した。「まだVR機器に手が届きにくいということ、メタバースが流行っているのは若い世代だけど、“パソコン離れ”とも言われる世代でもあるので」。
■「アイデア、想像力次第で、様々な面白いものが作れる」
VR法人HIKKY・CVOの動く城のフィオさんもまた、アシュトンさんのような生活を送っている。
「私の会社には従業員が50人くらいいて、立ち上げ時は恵比寿の事務所に行って社員さんと一緒に仕事をしていたが、今はもう完全にこの名前と、この姿。愛犬もスタッフもアバターで、お互いにどこに住んでいるのかも、名前も知らない。そういう状態でも、一緒に仕事ができている。そもそもアバターはコスプレみたいなものなので、私も仕事で出るときはこのアバターで出るが、プライベートで遊んでいるときは別のアバターで出歩いている。声も変えられるし、また別のことをやりたいなと思った時には全く別の名前・全く別のアバターを使って新しい人生を歩みだすということもできると思う。むしろやってみたい。
もちろんメタバースの中でご飯を食べることはできないし、海外に遊びに行って、観光地の良さや異文化を五感で感じられるという点では、まだ現実に理があると思う。ただ、バーチャル空間は今後も発展していくし、コンタクトレンズ型になったり、頭に何かを刺したり、というようにデバイスも進化し、視覚だけでなく、聴覚や触覚についてもメタバースに持ってくることができるようになるのではないか。そうなればバーチャル空間の中にもう一つの現実があり、いいところを使い分けていくみたいな感じになっていくのではないかなと思う」。
海外ではゲーム内の土地が5億円近い金額で取引され、「ハローキティ」で知られるサンリオはバーチャルアーティストとリアルなアーティストが融合する“バーチャル音楽フェス”を開催するなど、国内外のビジネスでも異様な盛り上がりを見せているメタバース。
フィオさんがプロデュースして現在開催中の「バーチャルマーケット」にも約80の企業が出展し、実験的なコンテンツを提供中で、アパレルブランド・BEAMSのショップでは店員がアバターで接客、百貨店の大丸松坂屋も年末年始に向けた食品を中心に約2700点を販売している。「リアルとECに次ぐ、“第3の商空間”としての位置づけだ。リアルではなかなかタッチポイントがないお客様にタッチできる」(大丸松坂屋百貨店本社ギフト担当の田中直毅氏)。
また、SMBC日興証券は、株価に連動したジェットコースターという、ユニークなアトラクション型のコンテンツを提供している。「リーマンショックとかアベノミクス相場の上がり下がりをご体験いただいて、投資をすることについて少しでも身近に楽しんでいただきたい」(SMBC日興証券株式会社Nikko Open Innovation Lab長の東靖二氏)。
フィオさんは「メタバースについて、よくSecond Lifeのことを引き合いにだして、“あれは失敗したんじゃないの?”と言われるが、日本ではあまり流行らなかっただけで、実は今も多くのユーザーがいて、経済圏もある。当時は30万円、40万円という値段だったVRヘッドセットも、今は3万円くらいで手に入るようになってきている」と指摘。「技術が追いついてきたことで、仮想世界のビジネス活用が様々な面で実現しつつある。バーチャル空間では現実世界にある空間の広さや重力にとらわれず、アイデア、想像力次第で、様々な面白いものが作れる」と期待感を示した。
他方で、今月7日に暗号資産を手掛ける業者4社が設立メンバーとなり設立した「一般社団法人日本メタバース協会」には、有識者やヘビーユーザーからの批判的な声も少なくない。
前出のアシュトンさんは「私も、自分たちの知っているメタバースではないぞ、という印象が大きかった。確かにブロックチェーン技術をベースにしているメタバースのプラットフォームもあるが、VRChatや国産のclusterといったプラットフォームは、特にブロックチェーンやNFTとは関係ないところでやっているし、それらが現時点でどこまで必要なのか、ちょっとまだ分からない」とコメント。
フィオさんも「センシティブな話題なのでコメントしたくないというのが正直なところだ」と苦笑しつつも、「あえてコメントすると、ブロックチェーン、暗号資産、NFTという文脈からメタバースを目指している人たちがいるということ。現状ではバーチャルマーケットに並んだ商品・作品を買う際には外部のECサイトに飛んで、そっちで購入する。つまり、お金のやり取りはメタバースでは行われていない。そういうこともあって入って来ているということだと思うが、バーチャル空間という文脈とはあまり関係がないということで、割と冷ややかな反応なのだと思う。結局のところ、こういうものは乱立していくと思うし、それらが業界の発展に寄与するかどうかは、今後の動き次第だし、今の時点では良いも悪いもない。だから日本メタバース協会がこれから何をしてくれるんだろうというところにすごく注目している」とコメントした。(『ABEMA Prime』より)
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