香港のメディアと政治を制圧しつつある中国、いよいよターゲットは台湾へ?
野嶋氏による解説
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 香港の裁判所は13日、天安門事件の犠牲者を追悼する集会を無許可で開いたとして、民主化運動の新聞「リンゴ日報」の創業者ら8人に禁錮4カ月半から1年2カ月の実刑判決を言い渡した。

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 一昨年から激化していた香港の民主化運動に対し、反政府的活動を取り締まる「国家安全維持法」を成立させるなど弾圧を強めてきた中国政府。ついには活動家への実刑判決まで出る事態に至っている。

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 朝日新聞の記者時代には台北支局長を務めたこともある野嶋剛・大東文化大学特任教授は「一言で言って、めちゃくちゃな判決だ。無許可だったとはいえ、追悼デモに平和的に参加しただけ。それで1年を超える懲役刑が科されるというのは、普通の法治国家なら、せいぜい罰金くらいのものだろう」と話す。

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 「背景には、中国政府、そして香港政府が香港の民主派に対して国家安全維持法等の法律を駆使した“殲滅作戦”を進行させているということがある。具体的には、議会である立法会で4割くらいの勢力を持っていた民主派議員がいなくなるよう制度そのものを変え、今度の日曜日の選挙に立候補させなくする。また、大規模なデモを頑張っていた学生たちのいる大学等の教育機関に対し、組織の解散を命じ、一緒に議論していた教員たちを追い出す。そしてリンゴ日報の黎智英さんのように民主派を支持してきたメディア関係者を徹底的に締め上げ、新聞そのものも潰してしまう。そのようにして、一つ一つ、力を削いでいっている。今回の判決も、そういう中で出たものだ。

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 もちろんリンゴ日報なきあとも頑張っているネットメディアもあるし、アメリカ、ヨーロッパ、あるいは日本に来て問題提起をしている方々もいるが、すでにテレビ、新聞、ラジオは親中派一色になってしまった感があるし、香港においてはFacebookで“いいね”を押すだけで国家安全維持法違反になるのではないかという恐怖感が広がっている。かつて香港はアジアで最も議論が自由、報道の自由、言論の自由がある場所だと言われていたが、今は大変懸念すべき“中国化”の状況が続いている。“無言の香港”という感じになりかけている」。 

 中国が圧力を強めているのは香港だけではない。

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 今月、中米のニカラグアが台湾と断交、30年ぶりに中国との国交を回復することを明らかにした。中国政府は中米カリブ海域で積極的な投資を進めており、ニカラグアに対しても100万回分の新型コロナウイルスワクチンを提供している。一方、外交関係のなかった台湾の出先機関、事実上の大使館を首都に開設したヨーロッパのリトアニアに対しては、外交関係を格下げする措置に出た。

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 独立の動きを見せる台湾を牽制するため、周辺で軍事演習の実施を繰り返してきた中国。こうしたい動きに、台湾の蔡英文総統は「断交の決定には、複雑な国際政治と両岸(中国と台湾)の状況が絡んでいる。それでも私たちは、どんな外交的圧力や軍事的な威嚇があろうとも、民主主義と自由へのこだわりを変えることはない」との姿勢を示している。

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 野嶋氏は「ニカラグアだけでなくホンジュラスも危ないと言われているが、中国は昔から“人治の国”と言われているように、指導者の方針が外交にも現れる。今の状況も、“敵・味方”をはっきり分けるタイプの指導者である習近平さんのキャラクターによるところが大きいと思う」と指摘する。

 「全体的に見れば、やはりアメリカに対する対抗意識、嫌がらせ的な面もあると思う。例えばニカラグアと台湾の断交が発表された日というのは、アメリカのバイデン大統領が開催した民主主義サミットの日だ。中国はそこに台湾が招待されていることに反発していたし、この日に断行を発表するようアレンジした可能性は非常に高い。やはり米中の“新冷戦”と言われるところが色濃く反映されていると思う。

 そして今回、中国と国交を結んだニカラグアにはワクチンをあげたが、台湾との外交関係がある南米のパラグアイに対してはあげられないと言っている。中国製ワクチンの有効性はさておき、普通であれば人道を優先させるはずだが、中国の場合、特に習近平さんになってからは“とにかく我々と付き合っておけばメリットがあるよと。付き合わなければ逆にしっぺ返しがあるよ”というアメとムチの使い分けだ。結果として、やはり利益や実利を求める部分から中国との国交を結ぶ国が相次ぎ、かつては台湾の方が優勢だった時期もあったが、今や14カ国まで減ってしまい、苦しい状況に追い込まれている。

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 それは日本にとっても同じで、二者択一、つまり両方を取るということはありえない。日本は中国と国交を正常化した1972年に台湾と断交している。言ってみれば、台湾と中国の関係は常に表と裏の関係だ。日本人からすると、なぜ中国がここまで台湾にこだわるのか、不思議に思うだろう。しかし中国共産党というのは、欧米列強から奪われてしまった領土を取り返すために立ち上がった政治権力だ。彼らの世界観からすれば、香港をイギリスから取り戻した今、残る最後のピースが台湾で、これを取り戻さなければ国家の統一は終わらないということ。そういう、なかなか理解し難いような情念、執念があるので、絶対に諦めないだろう。

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 一方、かつては経済力で競い合い、最後は中国に勝って外交関係を勝ち取るということがあった台湾だが、今や中国との差が大きく開いてしまったので、もはや昔ほど強くは引き止めない、お金で中国になびくのであればしょうがないという感覚が強まってきているようだ。以前の台湾であれば、外交関係を失った指導者は批判を浴びて、支持率がガクンと落ちていた。しかしニカラグアの問題も含め、世論があまり政府を批判しなくなっている。もはや中国の設定した土俵で戦ってもしょうがない、それよりも、民主主義や多様性、マスク支援などのソフトパワーで世界の人たちと仲良くしよう、自分たちの世界の存在意義を見出していこうという戦略に切り替わっている。その意味では、この状況に台湾がダメージを受けているかといえば、そうとも言えない部分があると思う」。(『ABEMA Prime』より)

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