TikTokと「書評」をめぐる激しい論争、背景に長引く出版業界の苦境と「批評」の届きにくさが?
本紹介動画で物議…
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 Twitter上を中心に続く「TikTok」と「書評」論争。日経トレンディが11月に発表した「2021年ヒット商品ベスト30」で“TikTok売れ”というワードが1位に選出されるなど、もはや歌って踊るだけのアプリではないTikTokだが、なぜこのような議論が盛り上がっているのだろうか。

【映像】"本紹介動画"で物議も「TikTok売れ」

■「同じ波は二度と来ない。新しい波に乗り続け、発見し続けないといけないと思う

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 キャリアSNSを運営する「YOUTRUST」の岩崎由夏氏が「活版印刷が出てきて以来、新しいメディアが出てきて物が売れるようになる度に批判が出てくると思う。いつの時代もあった議論ではないか」と指摘すると、中国トレンドマーケターのこうみく氏も「TikTokやInstagram、YouTubeは若者たちに身近なSNS、メディアで、中でもショートムービーで紹介して購買に繋げるということが今や主流になりつつある。特にTikTokはレコメンドされるコンテンツの中に意外な出会いがある。また、“爆売れ”というのは、目的を持って探した物というよりは、ふとしたことで出会って心を動かされて買ったというものが大衆に広がっていくことだと思う。その意味では、“TikTokを使うのが一時的に売れることに繋がる”という、その“一時的”という表現は、非常に前時代的な考え方だと思う」とコメント。

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 その上で、「出版不況について言えば、中国は本当に本を読まない社会になってきていて、日本よりもずっと本が売れない状況が続いている。私が2019年末頃にTikTokに関する本を出版して中国の友達に見せたところ、“本を出版するなんてアンティークな趣味をしているね”と言われたくらいだ。そんな中国においてメチャメチャ流行っているのが、週に1冊だけ本を紹介するという有料アプリだ。年会費が5000円も払わないといけないという、かなり高額なサービスだと思うが、すでに1500万人の有料会員を抱えている。今回TikTok書評を批判した批評家の方は、“出版業界は新しいメディアに波乗りばかりしてるんじゃない”という意図で発言したのかもしれないが、逆に言えば、同じ波は二度と来ない。新しい波に乗り続け、発見し続けないといけないと思う」との見方を示した。

■「出版に携わること自体に不毛感、絶望感が出てきているのだと思う」

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 一方、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「出版業界で長く仕事をしている僕からすると、“何が書評なのか”ということが混乱したまま議論されていると感じる。書評というのは単なる“紹介”にとどまらず、一つの文化というか批評、コンテンツの側面もある。つまり、その本が社会的、歴史的に見てどういう位置付けになるのか、どういう意味があるのか、といったことを掘り下げるもので、売れるか売れないかとは関係なく成立するものでもあるということだ。書評家の方もそのことを言いたかったのだろうが、言い方の問題で炎上してしまったのだと思う」と指摘する。

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 「背景にあるのは、圧倒的な出版不況だ。そのこともあって、あんな“捨てゼリフ”みたいなことを言ってしまったんだと思う。僕も5年ほど前に朝日新聞の『売れてる本』というコーナーに執筆していたことがあったが、昔であれば知名度があれば4、5万部は売れるだろうという共通認識があったが、今では2万部も売れれば“ベストセラー”と言われるくらいになっている。

 そして“紹介”の部分に関しては、これまでもメインストリームのメディアがやってきた。かつては男性誌でも女性誌でも本の紹介欄や広告が載っていて、そこを見て本を買っていたし、土曜の朝にやっているTBSの『王様のブランチ』など、みんながテレビを見ている時代であれば番組に取り上げられることで売れていた。ところが今、そうした情報を得られる場所がマスメディア上になく、個人のブログやTwitterになっているのではないだろうか、TikTokも、それと一緒だ。購買の導線になるメインストリームの媒体からSNS、そのショートムービーに変わってきているというだけの話ではないか。TikTokに限らず、新しいプラットフォームやサービスに乗るのは大事だ。

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 一方で、売れている本がなぜ火が付いたのかが分からなくなってきている部分がある気がする。例えば歴史学者の呉座勇一さん『応仁の乱』(中公新書)は、読んでみると小難しいのに、それでも50万部も売れた。もちろん、売れるにはいい本である必要があるが、それでも全く売れない本が大半だ。両極化、非常に混沌とした状況の中、出版に携わること自体に不毛感、絶望感が出てきているのだと思う」。

■「潰そうと思っているとか、そういうことは全くないと思う」

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 書評家・翻訳家の大森望氏も「もちろんTikTokerに向けたような余計な一言があったから炎上になってしまったが、本音は出版業界全体に対して“TikTok売れ”といって浮かれていて本当にいいのか、そのブームが去ったときに何が残るのか、と警鐘を鳴らしたかったのではないか」と話す。

 「Twitterなどで見ていると、今回の論争をきっかけに、かつてないくらい、何十年に一度のブームではないか、というくらい“書評”という言葉が溢れていて、逆に面白かった(笑)。“書評をバカにしている”みたいな意見もあるが、書評家がみんなTikTokerを敵視しているとか、ライバルだと思っているとか、潰そうと思っているとか、そういうことは全くないと思う。逆に、書評で売れることを求められたら、敵いっこない。

 うちの娘は高校生で、書評などは全く見ないが、TikTokは毎日見ているので、先日も、“TikTokで流れてきて、タイトルも、誰が書いているかも分からないけど、字が減っていくみたいな本ってある?”と急に言われた。筒井康隆さんの『残像に口紅を』という小説のことだった。TikTokのムービーを見てみると、“あ”という文字がもしなくなったらどうなるか、みたいなところから始まっていて、なんだか面白そうだと食いつくんだろうなと思った。実際、今年に入って『残像に口紅を』が10万部も売れたと聞いたし、娘にもちゃんと波及したんだと思った。

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 僕たちがいくら本を読む人向けにどんな書評を書いても、そもそも若い女の子には届かない。そういう意味ではTikTok効果はすごいなと思う。僕もYouTubeチャンネルで本の紹介もしているが、なかなか視聴者数が伸びないという悩みがある。そこでTikTokをやろうと思ってしばらく研究したが、全然違う才能が要求されるなと思って(笑)、台本は僕が書いて、娘に出演や編集をやってもらう方がいいのではないかと思っていた。

 佐々木さんは批評と言っていたが、本をどうやって歴史的に位置付けるとか、この本にはどういう意味があるのかみたいなことは、本を読んでいる人にしか通用しないという最大の弱点がある。その意味では、上手く本を読む人を増やさないと、どうしても分が悪い。しかも雑誌からもどんどん書評欄がなくなり、書く場所が減ってきている書評家たちには、“絶滅危惧種”的な状況に立たされているという危機感があると思う」。(『ABEMA Prime』より)

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