せやろがいおじさんも懸念…先鋭化や“多数派”に見えてしまう課題の残る「ハッシュタグデモ」、その行方は
「ツイデモ」は社会を変える?
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 先週金曜、愛知県庁に集った医療従事者たち。「生理休暇を取得した看護師は2%にとどまる」とのデータを会見で報告するとともに、その模様を労働環境の改善を広くネット上でも訴えた。

【映像】バズれば世論に? 「ツイデモ」は社会を変える?

 目を引くのは、「#生理が辛い時は生理休暇を」と書かれた横断幕。Twitterのハッシュタグだ。自分たちが訴えたい問題・課題にハッシュタグを付けて拡散を狙う“ツイッターデモ”(ハッシュタグデモ)、略して“ツイデモ”を起こそうとしているのだ。

 会見にも参加した愛知県医労連の矢野彩子さんは、これまでも賃金の引き上げや夜勤時間の短縮などでツイデモを試みてきた、とりわけ東京オリンピック・パラリンピックへの看護師派遣に反対するツイデモ「#看護師の五輪派遣は困りますは全国の医療従事者の共感を呼び、反響は50万を超えたという。さらにこれらの声は日本共産党の山添拓参院議員によって予算委員会の質疑で取り上げられ、欧米メディアの取材も受けることになった。

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 こうした事例は他にもある。育休に対する助成を個人でも申請できるようにしてほしいと岐阜県の主婦が訴えた「#子育て世代の助成金をつかわせてください」は、実際に制度改正に結びついている。「ハッシュタグ・アクティヴィズム」とも呼ばれる、こうした社会運動について、国民民主党の矢田わか子参院議員は「生活実感を持った人が声を伝えようとツイッターを活用するのは面白いと思っていた。思いが強ければ国を変えることもできるという、一つのツールであることは間違いないと思う」と話している。

■言葉が先鋭化しやすくなる

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 沖縄から時事問題について発信を続けるお笑い芸人・社会活動系YouTuberのせやろがいおじさんは「世の中には不具合や機能不全が起きている所がいっぱいあると思うが、一人だけで声を上げても、なかなか光が当たらない。それがTwitterを通じて意見を束にし、大きな塊になれば変わっていくこともある」と、ツイデモの実績を評価する。

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 その一方、「Twitterは“いいこと言っているな”と思った人をフォローし、さらにその人がリツイートした投稿のアカウントをまたフォローしてく構造になっているので、同じような意見の人だけが固まってしまう“エコーチェンバー”現象が起きやすい。の結果、右か左かに関係なく、言葉が先鋭化してしまいがちだ。僕自身、意見表明してみるとビックリするようなコメントが山ほど来て、中には“生まれてきてごめんなさい”、みたいな気持ちにさせられてしまうものもある。

 でも、そうやってボコボコにされた人がパンパンに腫れた顔で“みんなも意見表明しようよ。こっちにおいでよ”と言ったところで、誰も声を上げようとは思わないだろうし、それこそ“楽しいTikTokを見に行こう”となってしまうはずだ。その結果、Twitterのユーザーが減って、ツイデモの影響力そのものが減ってしまうことになるかもしれない。

 やはり会ったこともない、顔も見えない状況の中、140文字で意見が違う人と建設的な議論をするのは不可能だ。加えて、日本人は検証が苦手だ。オリンピックの開催と感染者数との因果関係、アベノマスクと感染防止対策の効果との因果関係が、どれだけ検証されたのか。その場の盛り上がりでふんわりとして、終わってみると“結局何だったっけ?”というのことも多い気がする。ツイデモが広がっていくことも大事だけれど、リアルで関係を築いて、言葉を交わし合える人と話し合う場も増やしていかないといかんと思う」と懸念も示した。

■1週間後も同じことを言っているだろうか?

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 慶應義塾大学大学院のクロサカタツヤ特任准教授は「市井の声が国を動かすようになったというのは、とてもすごいことだと思う。ただ、これは政治のだらしないさそのものを表してもいると思う」と話す。

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 「これまで民主主義が完璧だったという時代はない。イギリスのチャーチルが“民主主義は他のシステムに比べれば良いという程度だ”というようなことを言っているように、僕らはより良いシステムを常に求めていかなければいけない。そういう中で、ひとりひとりの声をストレートに社会システム全体に反映させる直接民主主義がいいのか、やっぱり代理人を通じて皆で合意形成していく間接民主主義がいいのか、その分かれ道で悩んで、迷ってきたのがこれまでの歴史だ。

 そして日本は代議制民主主義、つまり僕らが選んだ代議士が、僕らの意思を政治に反映させるというシステムをとっているので、そのために数年に一度、ものすごいお金をかけて選挙をやっている。しかし僕らの声が届かない、社会も変わらない。だからこそ、ツイデモのようなものデジタルテクノロジーが政治にマッチアップしてしまっているのだろうし、何だったら政治よりも強いんじゃないの?と状況になってしまっているのだろう。

 一方で、こうしたものは暴走機関車にもなりやすいので、僕らは気を付けて扱わなくてはいけないものでもある。 テクノロジーというのは上手く使える人と、そうでない人とに分かれる。また、うまいことをうまいタイミングでうまく言うということによって急にバズるということもある。せやろがいさんがおっしゃったように、“バズる”というのは指数関数的に増えていく構造なので、確かに今この瞬間は100万人、1000万人が反応しているかもしれないが、1週間後もその人たちが同じことを言っているだろうか、ということも問われなくてはいけない。

 議会、国会で話そうと言っていた社会システムを、皆がウワーッと言っただけで本当に動かしていいのだろうか。場合によっては非常に危ない状況も生んでしまうのではないだろうか。この“諸刃の剣”にどう向き合い、どう使っていくのか。まだ誰も答えを持っていない状態だと思う」。

■悪口、批判、怒りの方が盛り上がりやすい

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「昭和のような総中流時代とは違って、これだけ社会が多様化してくると、新聞・テレビのようなマスメディアでは人々の声を掬いきれない。そこで少数派の声を掬い上げる仕組みとしてSNSが機能するようになった。そのこと自体は良いことだと思う」としつつ、次のように指摘した。

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 「せやろがいさんもおっしゃったことだが、東京大学大学院の鳥海不二夫教授の研究によれば、“#スガやめろ”というハッシュタグデモを調べたところ、投稿していたアカウントの6割が特定のコミュニティに属していて、そのコミュニティに属しているアカウントは全体の1.5%に過ぎない、いわば“少数派”だったということが分かったという。

 バズらせるためのテクニックやツールも発達してきている中、ちゃんとした無作為抽出の世論調査ではないものを、まるで多数派、あるいは世論であるかのように扱ってしまうのは危険だということだ。

 さらに言えば、“#スガやめろ”もそうだが、ポジティブで建設的な意見は盛り上がりにくく、悪口、批判、怒りの方が盛り上がりやすく、“エンタメ化”してしまいがちだ。やはり少数派の声を掬い上げる回路をちゃんと確保しつつ、いかに穏やかで真っ当な議論に持っていけるのか。それはプラットフォームにも求められている問題だと思う。

 そして、この問題は同時に民主主義の限界でもあると思う。つまり多くの人の価値観を単一に染め上げたり、感情で動かす方が、社会は動かしやすい。民主主義に必要なのは議論だ。それは複数の見方を提示した上で、どれが最も公正で、社会にとっていいのものなのか、その落ち着きどころを考える作業だ。一方で、ツイデモも含めた社会運動というのは、一つの価値観、世界観に統一されなていなければ始まらない。世の中を変えるためには議論よりもまず行動だというのは、確かに社会を変える可能性を持っているのかもしれないが、やりすぎればフランス革命のようになってしまう。そこのバランスをどうとるのかというのが我々に問われているのではないか」。(『ABEMA Prime』より)

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