「当初の目的を逸脱し、納税行為ではなくなっている」返礼品をやめた所沢市長と考える、「ふるさと納税」の課題
推進派&離脱の市長に聞く
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 故郷や応援したい自治体への寄付によって住民税の控除が受けられるだけでなく、豪華な返礼品(寄付額の3割が上限)ももらえることから、昨年度は寄付件数が3488万8000件、金額にして6724億9000万円と、過去最高の利用を記録した「ふるさと納税」。

 しかし、先月、東京23区の区長たちが金子総務大臣に提出したのは、制度の抜本的見直しを求める要望書だ。ふるさと納税の利用が増加した結果、約531億円の区民税が他の自治体に流れた計算になり、住民税の税収減が進めば、行政サービスの低下が避けられなくなるというのだ。

【映像】ふるさと納税で税金流出 推進派&離脱の市長に聞く

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 武田前総務大臣は7月、「災害時の被災地支援、新型コロナ対策に携わる医療従事者への支援など、さまざまな取り組みに活用されており、こうした取り組みのさらなる広がりを期待していきたいと思う」と述べていたが、これまでも地域の特産品ではないものが「返礼品」になるなど、寄付の獲得に向けた自治体間の競争の激化が度々問題視されてきた。

■「当初の目的を逸脱し、納税行為ではなくなっている」

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 そんな中、いち早く返礼をやめる決断をしたのが埼玉県所沢市の藤本正人市長だ。現状について藤本市長は「当初の目的を逸脱して、納税行為ではなくなっている」と指摘する。

 「そもそも納税というのは、“地方自治への参加権”みたいなものだ。税金を出し合って道路を作ろうじゃないか、公園を作ろうじゃないか、困っている人を助けようじゃないか、そして、どこを厚くしようか、と皆で考える。そういう、民主主義の基本行為だと思う。それなのに、どうして地方自治体が競争をしなくちゃいけないの?黙っていると税金が他の自治体に奪われちゃうの?という疑問があった。

 これが続けば、納税するのが損か得か、ということで判断されるようになってしまうだろうし、それは仕方ないとしても、市として競争に参加することは、こういう矛盾を認めていることになる。見過ごすわけにはいかないし、おかしいことはおかしい、ダメなものはダメだということを伝えるために、2年続けた返礼品競争を2017年にやめた」。

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 結果、所沢市のふるさと納税の寄付額は大幅に減少。しかし大きな影響は無かったのだという。「これだけの人口で、こういうような人々が集まっていれば、運営にこのぐらいの税収が必要だよね、という基準に満たなければ、国が補填をしてくれる地方交付税交付金という制度がある。東京23区のように豊かな団体であれば地方交付税が不交付となってしまうが、所沢市の場合は交付を受けられるので、ソフトランディングすることができた。“どうしてやめるんだ”という声もあまりなく、むしろ“よくやってくれた”という声が多かったし、“返礼品に使ってくれないか”といった業者からの要請も2度ほどあっただけだ」。

 その上で藤本市長は「産業振興は産業振興で、堂々と税金でやればいい」と指摘した。「牛肉や海産物などの特産品のない地方都市については、ふるさと納税は全然プラスになっていないと思う。つまり都市と地方の税金の取り合いというだけでなく、特産品を持っているかどうかの運次第ということになってきている。そして、ふるさと納税によって税収が増えて地方交付税交付金をもらわなくて済むようになるということは、単に国が自治体に取り合いっこをさせ、地方に移譲するお金を減らしているということでもある。ふるさと納税の専門サイトができてしまったり、この制度で生活をする人たちが出てきてしまったりしている以上、すぐにやめるのは難しいかもしれない。しかし間違っているところがいっぱいある制度だ。返礼品の上限額が寄付額の2割になろうが1割になろうが、あるべき姿ではないと思う」。

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 一方、山形県酒田市の矢口明子副市長は、ふるさと納税によって「大変助かっている」と話す。「酒田市は一般会計で600億円規模の歳入があり、ふるさと納税はその5%にあたる30億円規模になっている。これがなくなれば、どこからか確保しなければいけないことになる。酒田の返礼品を受け取ることで身近に感じてくださるという、そういう効果はあるも思っている」。

 他の自治体にはない特産品を探した結果、今月からバイオマスで作った“電気”を返礼品に加えた。「競争が大変激しいので、酒田らしいもの、酒田にしかないものを常に探している。私どもは庄内平野にあるので、特産品のお米は一番美味しいと思っている。ただ、お米は他の地域でも返礼品になっている。そういう中で、木質バイオマス発電所を設置していること、“脱炭素”の観点から、地域で作られた再生可能エネルギーも返礼品にして良いという通知が国から出たことで、“酒田の資源を使って作られた電気”として、返礼品にさせていただくことにした」。

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 制度そのものには「中立」と話す矢口副市長。とはいえ、“不公平感”は残るようだ。「制度の元々の趣旨は、都会に集まる人や企業、そして税金を何とか地方に還流していこうということだった。もし、ふるさと納税の制度がなくなるのであれば、地方交付税を充実させるとか、別の制度が用意されなければ、地方はとてもやっていけない。私ども(地方)が18歳まで育てた子どもたちを都会に吸収されている事も含めて、大変不公平だなと思っている」。

■「ソーシャルセクターへの手厚いサポートになっていくといい」

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 両氏の意見を受け、自治体とのコラボ商品を出しているEXITのりんたろー。は「数日後に税理士のところに行く予定にしていて、今日の話を聞いてふるさと納税をしようかどうか決めようと思っていたが、余計に迷ってきてしまった。ホタテの水着の自治体にだけ寄付しろうかな(笑)」とコメント。相方の兼近大樹は「僕は頑張ってほしいと思っている自治体にメチャメチャふるさと納税しちゃっているが、返礼品をもらわずに全ベットしている。全国ツアーをしていると、自治体によって特徴があることがわかるし、それがふるさと納税のカタログにも現われているので、“うちにはこういうものがある”というアピールには繋がっていると思う」とコメント。

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 また、フリーアナウンサーの柴田阿弥は「“東京一極集中”によって地方の税収が減り、行政サービスが維持できなくなるという、その負の連鎖を断ち切ろうという目的があったと思うので、東京23区から税金が流出しているということ自体は、ふるさと納税の意義そのものではないかとも思う」と指摘した。

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 「寄付できるのも住民税の20%が限度なので、残りの80%は住んでいる自治体に納めていることになる。住んでいる自治体からは納税額の通知しか来なかったけど、寄付した自治体からは地域のニュースなどが載っている丁寧なメールが送られくることもあるし、税金を納める側として気分がいい。損か得かで選ぶのは良くないという意見もあるかもしれないが、みんな行政サービスを見て“ここに住もう”と思うのではないだろうか。もちろん、子ども時代は地方の税金で育てられたのに、それが都会に吸い取られて還元されず、歳を取って地元に帰って、また地方の税金にお世話になることを考えると、不平等もある。それでも個人で選べる制度としては良いものだと思うし、魅力的な自治体に人やお金が集まるのは当然だと思う」。

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 さらにリディラバ代表の安部敏樹氏は「特産品を自治体が買い取ってくれるとなると、地元の業者は当然ながら高く売ろうとする。結果、業者を甘やかすことになり、競争力が低下してしまう原因にもなる。しかし競争が激化した結果、努力を促すための独自のマーケットができてきた。酒田市のように新しいことをして税収を増やそうというインセンティブが働くことも含め、地方創生にとって一定の価値があることではないか。一方で、誰が最も得しているかといえば、ふるさと納税の比較サイトなどのプラットフォーマーだ。そこに税金が一部が流れていることを考えると、果たしてそれは適切なのだろうか、という議論もあると思う」とした上で、次のように話した。

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 「寄付のうち3割は自治体が返礼品を買うために使われているわけで、その上限はもっと低くていいんじゃないかとか、通常のマーケットで勝負している大半の業者はどうするんだ、という問題がある。もっと言えば、ふるさと納税による控除は100%だが、認定NPOなどへの寄付金控除は40%。自民党、特に菅さんがいかに地方が好きかがよく分かる制度だと思うが、今後は地元の公共を担うソーシャルセクターへの手厚いサポートになっていくといい」。

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 総務大臣時代に制度導入に尽力した菅前総理は2016年、「都会と地方、お互いにこの“ふるさと納税”という一つのツールを使って、お互いが理解を深めていく」と話していた。ふるさと納税の行く末は…。(『ABEMA Prime』より)

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