こども家庭庁への名称変更「戦前の家父長制を復活しようというような意図は全くない」 自民党に影響を与えたとされる高橋史朗氏が反論
高橋教授を直撃 
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 「子どものみならず、その周辺の大人たちも希望をもって生きているような新しい日本作りをしていきたい」。21日、「こども家庭庁」の基本方針が閣議決定されたことを受け、野田聖子少子化担当大臣は内閣官房に準備室を設置したことを発表した。

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 政府が総理大臣直属の機関として2023年度の創設を目指している同庁は、教育格差、子育て支援、いじめ対策、児童虐待対策など、省庁間で縦割りになっていた子どもに関する政策を一元化、司令塔となる存在だ。

 しかし、当初、自民党内で創設に向けた検討が進められていた際の名称は「こども庁」。ところが保守派の議員らから「子どもの基盤は家庭」との意見が出され議論は紛糾。最終的にその主張が通り、“家庭”が加えられることになったとして、批判の声が上がっている。

 この問題について野田大臣は「そもそも名称は仮置きだったので、大切なことは中身」と説明、「こども家庭庁」派だった山谷えり子参議院議員は「“家庭”が入って良かったと思っている。家庭的なつながりという中で、本当に子ども真ん中で育っていくと思う」とコメント。

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 一方、「こども庁」派の自見はなこ参議院議員は「病気で自分の両親を亡くされた方もいるし、生まれながらに様々な事情から養護施設で育つ子どもたちもいる。本当の意味で”子ども真ん中”を貫くのであれば、、やはり名称は“こども庁”がいいとの意見が多数あったが、最終的なとりまとめは座長一任になった」としている。

 そこで『ABEMA Prime』では、自民党の会議などで名称を「こども家庭庁」にすべきだと主張してきた麗澤大学大学院の高橋史朗客員教授と、シングルマザーとして子育てについて積極的に発信してきた益若つばさ(モデル/商品プロデューサー)を交えて議論した。

■「親自身が幸せにならなければ、子どもは幸せにはならない」

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 益若は名称変更について、「“子ども家庭庁”だったのが現代的な“こども庁”になったのは理解できたが、それが再び“こども家庭庁”になってしまったことは、言葉を選ばずに言えば“古いな”と感じる。“帝王切開で産まれた子どもは愛されていない”とか、“子どもは母乳で育てないといけない”といったイメージに縛られるような印象がある。色々な形の家庭があると思うし、子どもを真ん中に置くというのなら、やはり“こども庁”がベストではないか」と困惑気味だ。

 これに対し、高橋氏は子どもをめぐる問題は家庭の問題と密接不可分であり、「“家庭だけを入れるのはおかしい”とおっしゃるが、“こども家庭地域学校…庁”という名前になってしまうというのはおかしな話なので、あくまで家庭の基盤を大事にしながら、多様な子どもの問題にもっと支援を充実させろという必要があるのではないか、ということだ」として、次のように説明する。

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 「私は臨床教育学を専門にしているが、まず、“問題児”なんてものがいるのではなく、問題の親、問題の教師、問題の社会、つまり子どもを取り巻く環境や構造そのものを変えなければ、子どもをめぐる問題は解決しないということだ。私は青少年健全育成の委員会の座長を引き受けたこともあるが、“青少年健全育成”という言葉には胡散臭いところがある。やはり“健全な大人が不健全な子どもを健全に育成する”という前提そのものがおかしい。そもそも大人たちが不健全であって、大人たち自身が変わらねばならないのではないか、そこを議論しなければいけない。

 いじめの問題も、本質は家庭の問題だ。教育再生会議で作家の曽野綾子さんが“どんなに法制度をつくってもダメだ。家庭なんだ”と発言された。私も神奈川県で不登校の審議会の専門部会長をし、教員研修もやったが、いじめっ子の根本にあるのは、いじめられている子の気持ちが分からないという、“共感性の欠如”だ。これについて曽野さんは“共感性が育つ大事な時期に学校で教えることも大事だけど、家庭で親がどう関わるかが大事だ”と指摘されていた。

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 また、精神科医の岡田尊司氏の『父という病』『母という病』『夫婦という病』という本にも出てくることだが、親と子が共に育っていく必要があるということだ。私は最近、“カリスマギャルママモデル”と呼ばれる方たちとシンポジウムに参加したが、彼女たちは虐待の問題に悩んでいると話していた。ピーク時には4万人くらいの組織だった『ギャルママ協会』の会員の多くの方も、“子どものことがかわいいと思えない”と言っていた。

 例えば夫婦ゲンカを見るのは子どもにとって大きなストレスになるし、心理的虐待につながる。あるいは親が子どもを無視してスマホをずっと見ているのも虐待だ。そういうことを自覚していない親がどんどん出てきた。私は“心のコップを上に向けろ”と言っているが、子どもを支援していくことと、親が親としての役割を果たせるような“親育ち支援”の両方が必要なのではないか。親自身が幸せにならなければ、子どもは幸せにはならない。

 ただし、この“親育ち支援”というのは“親性”というものが育っていくために寄り添っていくためのものであって、“もっと頑張れ”とか、“家庭はこうあるべきだ”と押し付けるものではない。いま、7割弱の虐待は“世代間連鎖“だ。十分な愛情を受けられずに育ち、虐待に苦しんだ親たちにとって、“父親はこうあるべき、母親はこうあるべき“と言われるのは一番辛いことだ。

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 そして、子どもはみんなで育てるものだ。そもそも共同養育は日本の伝統だ。江戸時代、日本の子どもたちを見た外国人たちは“世界一笑顔であった”と言っている。それは今のように孤立した子育てではなく、兄弟姉妹、地域のみんなが“社会の宝”として育てていたからだ。その意味では、社会全体が連携しないといけないし、“家庭か、そうでないか”という二者択一ではない。

 ここが補足しないといけないところで、“家庭”というものが大事ではあるが、名称に“家庭”を入れたからといって、家庭のことだけを議論するのではないんだということだ。もともと家族は崩壊しつつあるし、親子もかなり厳しい。一方で、最近ではヤングケアラーの問題や子ども食堂など、様々な新しいテーマが出てきているし、それらのニーズに応えていくために叡智を絞らないと行けない。そういう環境の中で、“昔に戻れ“なんていうのはありえないことだ」。

■「昔の価値観は誰にも通用しないし、復活しようがない。」

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 しかし、「こども庁」の創設に向け奔走してきた自民党の山田太郎参議院議員は、今回の名称変更に疑問を呈している。その理由が、家庭での虐待の経験者に配慮すべきだというものだ。山田氏のブログによれば、当初の「子ども家庭庁」から「家庭」が外れた理由も、風間暁氏ら虐待サバイバーの訴えによるところが大きかったのだという。

 ABEMA Primeの取材に対し風間氏は「虐待のある家庭の状況は、権力を持つ親の一存で変わる。黒と言え黒、白と言えば白。説明や対話もない。私の声も存在も、家庭ではなかったことにされ続けた。今の状況も、権力を持つ一部の人たちの声で、あったはずの声をなかったことにされた結果だ。家庭内で行われていた虐待の構造と、よく似ている」などと訴えている。

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 高橋氏は「私は朝日新聞の報道についても見ているが、虐待を受けた子どもが“家庭”と言われると傷つく、というようなことを言われている。あまりいい例えではないかもしれないが、ここにナイフがあると。強盗が使えばドスになるが、立派な医者が使えばメスになる。ドスになる可能性があるからといってナイフは危険だとは言えないだろう。あるいは台風の被害に遭った子が思い出すから、天気予報をどうにかしてくれというのと似ているところがあると思う。虐待という一つのことをもって家庭そのものを危険視するのはいかがなものだろうか。

 もちろん、虐待で苦しんでいる子がいることは事実だし、“家庭”という言葉で傷つくから外してほしいという声にも配慮しないといけない。子どものケアの充実も、全力を挙げてやらないといけないことだ。ただ、その中で家庭の基盤を大事にすることも尊重しないといけないというのが私の考えだ。

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 私は有識者会議の議論を全て読んでいるが、実際に子どもに関わっている各界の専門家の方がたくさん来て、かなり重厚な論議をしている。構成に入っている。“家庭”を名称に入れると問題が起きると言っているかたもいるが、全体から見れば例外的だ。子どもの利益を第一に考えるという議論を尽くしているし、傷ついている子どもに配慮していないとか、子どもが軽視されるということはない。全体を冷静に見る必要があると思う。
 
 そして、自民党の保守が言ったから名称を戻したというのは、報道として僕は間違っていると思っている。公明党も立憲民主党も国民民主党も、以前は“家庭”を入れていたし、家庭教育支援のことは有識者会議でも詳しく議論されてきた。戦前の家父長制を復活しようとか、そんな意図は全くないし、そんなことを言っている人は見たことがない。

 そもそも“家庭はこうあるべきだ”“お父さんはこうでお母さんはこうだ”という、昔の価値観は誰にも通用しないし、復活しようがない。そうではなく、家族の絆や親子の絆とかを、どうやって取り戻していくかということだ。理想は多様でいいし、むしろこれが唯一の理想の家庭だ、というものはない。一方で、不易と流行という言葉があるように、不易と古い価値観は少し違う。

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 また、子どもファースト、子どもの利益を第一に考える。これはイデオロギーを超えて、絶対的に正しい。私も全面賛成だ。ただ、何が子どもの利益になるのかについては、深い配慮が必要だ。ヨーロッパには、“地獄への道は善意で敷き詰められている”という言葉もある。子どもの意見を聞き、尊重しなければならないが、全てを聞き入れた方がいいというわけではない。子どもが嫌がること、例えば壁になることだって、利益になることがある。ただ子ども、子どもと言うだけではなく、そういうことも踏まえないといけない」。

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 益若は「国が決めるものだから、やっぱり傷つく方がいない名前にすべきだし、平等に愛されている感覚も得られると思う。なおさら、こども庁でよかったかなって(笑)」と苦笑。「親が子どもと一緒に成長するというのはとても素晴らしいと思うし、そのためのサポートも大事だと思うが、すでに崩壊してしまっている家庭もある。そこに対しては、親に成長しましょうよと言うよりも先に、いざという時に逃げ込める場所が必要だ。それこそが家庭だと思うし、こども家庭庁がそれを作ってくれるなら、私はそれでいい。でも、今のままだとちょっと心配で、“もう少し親がしっかりしろよ”、と突き放されているように感じている」と重ねて懸念を示した。(『ABEMA Prime』より)
 

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