JR東日本の乗降客数で全国2位を誇る巨大ターミナルステーション・池袋駅を擁する一方で、リクルートの「住みたい自治体ランキング関東版」では19位と、生活拠点としての人気は決して高くはなく、7年前には23区で唯一、“消滅可能性都市”に指定されたこともある豊島区。
【映像】"消滅危機"からの巻き返しへ!!豊島区の"中の人"に聞く秘策 カギは「女性目線」
強い危機意識から区が打ち出したのが、“子どもと女性にやさしいまちづくり”だ。若い女性を集めた“としま100人女子会”を開催、育児支援や家賃補助、ひとり親に対策など、区政に対する意見を募り、街づくりに反映させてきた。そうした中で出てきた施策の一つが、生理用ナプキンの無料配布だ。21日には区役所で稼働していた無料提供サービスOiTr(オイテル)が池袋パルコでも設置され、話題を呼んでいる。
■「約100人の女性に意見を聞き、翌年には11事業・8000万円が予算化」
区男女平等推進センター所長の佐々木美津子さんは「区の未来を左右する20〜40代の女性たちにとって住みやすい街、住み続けたい街なのか。区が行っている施策が、彼女たちのニーズと合致しているのか。それらを確認するため、まず女性たちの本音を聞いてみようと、“F1会議”というものを立ち上げ、そのキックオフイベントということで約100人の女性に集まっていただいた。声を聞いて事業を実現するというのが一番だという区長の言葉もあって、翌年には11事業・8000万円が予算化された」と話す。
池袋を中心に、公園やトイレの整備も推進している。
豊島区「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長の安達絵美子さんは「他にも“おばあちゃんの原宿”と呼ばれる巣鴨、あるいは目白など、特色のある街はあるが、やはり池袋周辺に大きめの公園が点在しているので、それらをつなぎ、リニューアルして特色を出していこうと考えた。同時に、1人あたりの緑の面積は非常に少ない一方、小さな公園が住宅街に点在していて、数としては160とかなり多い方なので、それらを過ごしやすくする取り組みも始めている。
今、住宅街の公園はどうしても禁止事項が多い。しかし、もう一度見直して、“できない公園”から“できる公園”をみんなで作っていこうというコンセプトに活動している。豊島区の場合、やわらかい素材のボールであれば基本的には遊んでOKにしていたが、暮らしの中にある公園を見直していこうという中で、例えば“火を使いたい”という要望もあった。防災ベンチといって、かまどが入っているベンチがあるが、非常時にしか使わないものなので、見たこともないという声も多かった。そこで、実際に使っているところを見てもらおうということも兼ねて、防災かまどで餅を作ったり、マシュマロを焼いたりするイベントを開催した。
また、2014年、日本創成会議という民間の研究機関が“2040年までに20〜39歳までの若年女性が半分以上減少してしまうと”推測した都市が“消滅可能性都市”だ。全国で896の自治体が指摘を受けたが、東京23区では豊島区だけがマイナス50.8%ということで指摘を受けた。女性の方々の意見を聞いたところ、公園の中でもトイレが暗い、怖い、汚いというイメージがあるという声を聞いたので、2018〜2020年までの3年間で、区内85カ所のトイレを改修していった。区長も“トイレは街の顔”として、トイレが清潔で使いやすく綺麗であることが街のイメージも変えていくと言っている。そして、そのうち24カ所をアートトイレにした」。
■「女性の意見を聞く機会はやっぱり少なかった」
「男性だからとか女性だからということは特にないとは思う。ただ、今の段階では女性の意見を聞く場を作っていく必要があると、意識的に考えている」と話す安達さん。
「消滅可能性を指摘される前の区役所は、町会や商店街などの方々とのお付き合いが多く、どうしても男性の比率が高かった。企業も同様で、役職者の方になると、やはり男性の比率が高いという現状がある。その意味では、男性の意見は比較的聞きやすい土壌があったが、女性の意見を聞く機会はやっぱり少なかった」と明かす。
「ただ、女性を優遇するサービスを実施しているかといえば、そうではない。子育て支援も女性にやさしいのではなく、子育て世帯にやさしい施策だ。女性の視点で見た時に住みやすくなることで、男性や高齢者、人口の1割ぐらいいる外国の方々も住みやすい街になるのではないか、ということだ。また、ジェンダーギャップの解消という捉え方もあると思うが、消滅可能性都市からの脱却という側面で行ってきた子どもと女性にやさしいまちづくりは、そこには直接的には寄与しないと考えている。また違った施策が必要だし、区としてはそこについても手を打ってきている」。
佐々木さんも「ジェンダーギャップの大きな要因、それはアンコンシャス・バイアス、いわゆる無意識の偏見、思い込みであると考えている。そこで私のいる男女平等推進センターでは、ジェンダー平等を推進するための講座や講演会等を開催している。例えば『モテるって何?』というのは区内の大学生が企画したもので、参加していただいた方も20〜30代だった。こうした講座に参加された方の中には、“世間的に、男性はもっと家事をしろとか育児をしろといわれるが、僕は十分にやっている。これ以上何をすればいいんだろう”という声が出ることもある。意識の中で、だんだん変わってきているのかなというところは感じている」とした。
■「自分ごとにできる、主体的に参加できる“関わりしろ”を作っていきたい」
全国各地の自治体の街づくりをサポートしてきたという慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「本当に学ぶべきポイントが多い」と話す。
「じわじわと人が減っていっている自治体の共通点の一つに、全世代に喜んでもらえるような、バランスの取れた行政サービスを提供しようとしているので、逆に“この街に残ろう”という積極的な選択の理由にならない。議会にはいろいろな考え方を持った議員がいるし、特定の世代だけとか、子どもだけ、女性だけなどと言われると、それ以外は?他が後回しになるんじゃないの?となりがちだ。
でも、誰にも迷惑をかけないような街にしようとしすぎた結果、何もできなかった。その点、豊島区は恐れずに思い切った。バランスは都道府県がしっかりやればいいし、基礎自治体は平等という言葉に引きずられすぎず、民間企業のように“うちの街はここを特化してやるよ”ということをもっと打ち出していってもいいのかなと感じている。誤解を恐れずに言うなら“ちょっと女性に優しすぎない?”というところがあるから“いやいや男性も”という議論が盛り上がることもあると思う」。
パックンも「女性にやさしい区と男性にやさしい区が隣にあったら、僕は前者に住みたい。女性にやさしい区は、全員にやさしい区と思う」とコメント。
その上で、「僕は天の邪鬼なので、あえて反論させていただく(笑)。確かに立派な公園、綺麗なトイレがあった方がいいけれど、豊島区が本当に消滅するはずがないし、むしろ立地条件から考えれば、バリバリ働くビジネスパーソンが気楽に楽しく住める街に特化しても良かったと思う。一軒家がほしい、近くに緑がほしいという方々は郊外に住んで、例えば東武東上線に乗って池袋まで通ってくる。だったら池袋駅から歩いても帰れる圏内に家賃が安い、飲み屋も多い、というビジネスパーソン向けの街づくり戦略を取った方が、税収も増えるのではないか」と投げかけた。
安達さんは「住みたい街ランキング19位という話があったが、10月に出た別のランキングでは、一人暮らしの女性が選んだ首都圏の街の2位になった。最初は消滅可能性都市からの脱却を考えて“女性にやさしいまちづくり”を掲げたが、私の部署の名前にもあるように、“わたしらしく、暮らせるまち。”という意味では、バリバリ働く女性もターゲットにはなっている。また、ターゲットを絞った方がいいという話もあったが、豊島区が目指しているのは多様なライフスタイルを受け入れ、本当に街の人が主役になれる街だ。そのためには、自分ごとにできる、主体的に参加できる“関わりしろ”を作っていきたいと思っている」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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