「デジタル技術を活用した人員配置の見直しによる介護職員の処遇改善といった、国民の暮らしの改善に繋がる規制改革に重点を置く」(岸田総理)。
厚生労働省が試算した、約32万人の介護職員不足(2025年度の予測)に対し、20日に開かれた規制改革推進会議の専門会合で提案された、デジタル技術や生活をケアするセンサー、ロボットなどを活用した、介護現場の負担軽減策。それにより、職員1人に対し要介護者3人というこれまでの基準を見直し、1人で4人まで介護ができるよう、介護施設などの規制を緩和すると報じられている。
技術開発が進んでいるとはいえ、そのようなことが本当に可能なのだろうか。Twitterには「3人でも大変なのに、提案した人は現場と現実を知らない」「排泄と入浴と食事と深夜徘徊の世話ができるロボットがあればいいけど」「ブラック化が進んで介護を志す人がいなくなる」と不安の声も少なくない。
介護の現場で8年にわたり働いていたEXITのりんたろー。は「弱い力で握れたり、楽にベッドから起こせたとしても、その先には人間が必要じゃないか。入所者の方の様子をみて、色々なことを察知して、対応できるようにならなければ意味がない。放っておいても、1人、2人をそんな風に見られるくらいの状態にならないと意味がない。とてもではないが、現場でそこまで活躍できるレベルまで技術が追いついていないような気がしている。負担が増えてストレスが発生すれば、最初に介護士が潰れてしまう。手が回らずに事故が起きたり、入所者の方に手を上げてしまうようなことも起きたりすると思う。まずは給料を上げるところに、しっかり予算を投じてほしい」と訴える。
「僕が働いていた施設では、目の前のお年寄りを放っておけないような女性の方ばかりが残り、男性はどんどん辞めていっていた。僕はアルバイトだったので適度に休んで癒やしも得られていたが、あれが毎日だったら…と思う。介護度1〜2の方が中心だったが、それでも皆さんすごくしんどそうだったので、これが介護度3の人を夜勤も含め2人で担当するとしたら、1カ月で介助する側か介助される側のどちらかはつぶれると思う。それぐらいの大変さだ。給料とかも考えていかないといけない」。
社会福祉法人「ライフの学校」田中伸弥理事長も「まだ情報が少ない中でお話をさせていただくと、入所系の老人ホームの中でも、有料老人ホーム、介護老人保健施設、特別養護老人ホームと、それぞれ入居している方々の特性は異なる。私どもの会社で言えば、特別養護老人ホームなので、介護度が3以上、平均では4.2〜4.3、つまり自分で移動ができない、ご飯が食べられない、着脱ができない、お風呂が入れないということで、多くの介助が必要な入居者の方がほとんどなので、要介護者1.6人に対して職員が1人にして、通常よりも手厚いケアをしている。それを一律に4人に対して1人というのは、かなり危険な規制緩和ではないか、というのが第一印象だ」と指摘する。
「介護の業界でも二極化が進んでいる。弊社では来年度に15人ぐらいの入職が決まっているが、弊社の給料が高いかというと、そこまで高くない。それでも弊社に集まってくるのは、やはり入所者の方々にとって充実度の高い暮らしを、寄り添って提供したいという体制になっている、イコール人員が必要だという面がある。給料は上げられるに越したことはないが、国としては上げるなら、少ない人手でも回せるようにしないと、社会保障費がかさんでくる、では4対1でどうだろう、みたいな部分も少し透けて見えるような感じもする。だからこそ、現場のスタッフからの反発が非常に強いのだと私は考えている。
国の資料を見ても分かるが、特別養護老人ホームは平均的に2対1、もしくはそれ以下でなければ、いいケアはできないような形の統計も出てきている。今後、どこでどう線引きをするかという問題も出てくるのかなと思っている。その意味では、先ほどりんたろー。さんがおっしゃったように、自分の生活を犠牲にしてまで、とは言わないが、本当にお年寄りのために尽くしている職員が多い中で、今回のような報道はミスリードだし、乱暴だったのではないか。
また、直接介助、要は人に関わる部分のケアをテクノロジーで代替できる段階にはないと思うし、“優しく掴めたからなんだ”と言ってしまうと開発をされている方々に怒られてしまうが、りんたろー。さんのご意見はもっともだと思う。一方で、介護ロボットというと、皆さんはドラえもんみたいなものを想像してしまいがちだが、例えばデンマークでは施設内にレールを張り巡らせて、リフトを使って移動させている例もある。だから一概にテックがダメと言いたいわけではない。
実際、日本でも対人援助に当たらない部分に関してはテクノロジーが活用されていて、最先端ではないが、体圧を自動で分散したり、体重設定をして空気圧を変えられたりするエアマット、あるいはリモコン操作でボディーソープがミストになって噴射されたり、ドーム内の温度を調節したりできる機械浴槽などは前からあって、取り入れている施設は多い。
私たちの施設でも、コミュニケーションツールや、今まで手書きで、保管してある場所に行かなければ申し送りも確認できなかった介護記録のクラウド化、リハビリの動作などが動画や写真付きで見られるようしている。そういう部分は、どんどん推進すべきだ。要はテックによって効率化したから人を減らすのではなく、効率化した部分で何ができるかだと思う。
例えば今、特別養護老人ホームは入所者を週に2回お風呂に入れないと法令違反になる。しかし皆さん、お風呂は週に2回と言われたらどうだろうか。もっと入りたいと思うだろう。ということは、人がいらなくなったではなくて、週に3回、お風呂に入れてあげたいよねというのが現場の思いだと思う。それによってより清潔になり、代謝が上がる。食欲が増す。元気になる。結果的に介護度が下がるということもあるかもしれない。入所者がいかに自立し、その人らしく尊厳を持ったまま看取りに向かえるか、ということを真剣に考えるためにICTは使われるべきだ」。(『ABEMA Prime』より)
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