ATPカップが元旦に開幕！意地とプライドが激突する国別対抗戦 “ビッグ3”不在の中、大会を盛り上げる“若きヒーロー”たちの活躍に注目

　ATP（男子プロテニス協会）が主催する国別対抗戦『ATPカップ』が、2022年の1月1日、まさに年明けとともに開幕する。今回が3回目の開催となるATPカップは、各国のナンバーワンの選手のランキングによって出場資格が得られるチーム戦で、今回は16カ国が出場する。

【映像】ATPカップの見どころ

　2020年の初開催では、24チームがシドニー、ブリスベン、パースのオーストラリア3都市に分かれて熱戦を繰り広げたが、新型コロナウイルスの影響を受けた2021年は出場チームを半減させるなど規模を縮小せざるをえなかった。そこから今回は本来のスケールにより近づけたかたちで、8人のトップ10プレーヤーを含めた各国の代表選手たちがシドニーに集結する。

　諸般の事情で欠場する選手の中に、いわゆる“ビッグ3”———ノバク・ジョコビッチ（セルビア）、ラファエル・ナダル（スペイン）、ロジャー・フェデラー（スイス）が皆入っているということは残念ではあるが、これも世代交代を示すダイナミックな現象のひとつといえるのかもしれない。

　2021年はついに次世代のヒーローとして期待されていた選手たちが、ときにビッグ3を押しのけてトップに躍り出たシーズンだった。全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドンではジョコビッチが変わらぬ強さを発揮して頂点に立ったものの、決勝の対戦相手はそれぞれ25歳のダニール・メドベージェフ（ロシア）、23歳のステファノス・チチパス（ギリシャ）、25歳のマテオ・ベレッティーニ（イタリア）という『U-25世代』。そして、ついにメドベージェフが全米オープンの決勝でジョコビッチを破り、年間グランドスラムを阻んだのだ。

　東京オリンピックでは、準決勝でジョコビッチを破った24歳のアレクサンダー・ズベレフ（ドイツ）が金メダルを獲得。ズベレフはATPファイナルズでも準決勝でジョコビッチを破り、決勝ではメドベージェフとの次世代対決を制して大会2度目の栄冠を手にした。

　シーズンを引っ張った若い主役たちが、そのままATPカップも盛り上げる存在になりそうだ。各国エースの中で最年長はスペインの33歳ロベルト・バウティスタアグートだが、実に10人が25歳以下の若手である。

　勝敗はシングルス２本とダブルス１本で争われる。当初発表されたメンバーならディフェンディング・チャンピオンのロシアがチーム力として図抜けていたが、世界ランキング5位のアンドレイ・ルブレフと18位のアスラン・カラツェフが抜けて勢力図は大きく変わった。単複を兼ねることができるとはいえ、2位のメドベージェフひとりでは４カ国1組のグループラウンドから苦戦することになりそうだ。

　何しろ同じグループBには、フルメンバーのロシアにすら対抗できそうだったイタリアがいる。7位のベレッティーニともうひとり、弱冠20歳で10位に位置するヤニク・シナーを擁し、さらにはダブルスの全豪オープン・タイトルホルダーでもある34歳ファビオ・フォニーニと36歳シモーヌ・ボレッリという元気なベテランがいる。フォニーニはいざとなればシングルスも戦えるし、勝負どころで大仕事をする底力は十分だ。

　開催国の特権でワイルドカードが与えられるオーストラリアも同じグループに入っている。22歳のアレックス・デミノーをエースとする地元チームは例年よりも層が薄いが、注目のグループラウンドをよりいっそう盛り上げることができるだろうか。

　グループCもおもしろそうだ。シードは世界3位のズベレフをエースとするドイツだが、11位のフェリックス・オジェアリアシムと14位のデニス・シャポバロフを擁するカナダが同じグループにいる。21歳と22歳の若い二枚看板を持つこのカナダがドイツを撃破する可能性も十分あるだろう。ただ、少々心配なことはここにきてテニス界にコロナ感染者が増えており、シャポバロフもその中の一人。とにかく無事にコートに立てるよう祈るしかない。

　グループA（セルビア、ノルウェー、チリ、スペイン）とグループD（ギリシャ、ポーランド、アルゼンチン、ジョージア）は混戦必至。この機に、普段あまり目にすることのない選手の存在を知ることで、シーズンを見るおもしろさはきっと倍増する。初日から全ての対戦で各国のナンバーワン同士が激突するのだから、ここで話題にしたチームや選手以外にも見るべき試合は目白押しだ。

　また、ATPポイントや賞金は個々の勝ち星に対して与えられるため、消化試合などはないし、どんな状況でも個人のモチベーションは保たれる。団体戦と個人戦の魅力を併せ持った特別な大会。セルビア、ロシアに続いて今回頂点に立つのはどの国か。日本の出場が叶わなかったにもかかわらず、このイベントを全試合ABEMAで見られるとは、テニスファンにとってうれしすぎる正月だ。
　
文／山口奈緒美