2021年は4つのタイトル戦に出場し、その全てでタイトルを手にした藤井聡太竜王(王位、叡王、棋聖、19)。今や棋士の序列1位にもなり、今月9日から始まるALSOK杯王将戦の七番勝負でも、渡辺明王将(名人、棋王、37)に挑戦し、最年少五冠達成を目指すことになる。昨年末に行われたインタビューで、印象に残る対局について聞かれた藤井竜王だが、やや考えた後に挙げたのが、豊島将之九段(31)とフルセットまで戦い続けた、叡王戦五番勝負。3勝2敗で制し、最年少三冠を達成することになったが、通算勝率が8割を超える天才が、勝ち負けを繰り返して学び取ったものは、実に大きかった。
叡王戦五番勝負は、お~いお茶杯王位戦七番勝負と同時期に行われていた。叡王戦では藤井竜王が挑戦、王位戦では防衛と立場が違ったが、対戦相手は同じ豊島九段。両者による2つのタイトル戦は「ダブルタイトル戦」「十二番勝負」といった表現になり、昨年の将棋界における最大の関心事になった。この連戦の前まで、豊島九段が対戦成績で6勝1敗と大きくリードしていたこともあり、さしもの藤井竜王であっても、両方を制することはなかなか難しいという見方も強かった。
結果は周知の通り、藤井竜王が王位戦は4勝1敗で防衛、叡王戦は3勝2敗で奪取に成功する。長く苦しめられてきた“天敵”を相手に防衛・奪取を果たしたことで、一気に藤井時代の到来を予感させるものになったが、この中でも叡王戦五番勝負は、藤井竜王にとって印象が強いものだった。「もちろんタイトル戦はどのシリーズも印象に残っているんですけど、一つ挙げるとすれば、フルセットになった叡王戦でしょうか。内容的にも第1局から第5局まで、第4局は完敗だったんですけど、際どい勝負が多くて印象に残っています」。
藤井竜王は第1局、第3局と勝利し、常にリードしてきたが、その後の第4局はシリーズの流れを変えかねないほどの黒星を喫することとなる。「ちょっと早い段階でミスが出てしまって、勝負どころを作れなかったのは残念です。進んでみると、だいぶまずい局面になってしまっている気がしました。本局は完敗でした」と、本人の口から「完敗」と語られるのは珍しいほど。この連戦の最中に、序盤が目下の課題であると自覚はしていたが、改めて超ハイレベルの戦いにおいては、もつれる終盤と同等かそれ以上に、序盤での失点が勝敗を大きく左右することを痛感することになった。
デビュー以来、通算勝率では8割以上をキープし、少々のミスも持ち前の終盤力でカバーできてしまう藤井竜王。だからこそ実力が拮抗した相手と戦い、かつ敗れることで得られるものも貴重だった。フルセットの戦いを制し、最年少三冠を達成。その後、豊島九段とは竜王戦七番勝負でも戦うことになるが、そのシリーズでの4連勝も、この叡王戦でのひりつくような戦いがあったからこそだ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)