ATPカップは2日目を終え、早くもドラマチックな展開を見せている。地元オーストラリアが優勝候補筆頭のイタリアを破ったのだ。間違いなく立役者は22歳の若いエース、アレックス・デミノーだ。生まれ故郷のシドニーで、世界ランク7位のマッテオ・ベレッティーニを6-3 7-6(4)で撃破した。
183cm 69kgの体は、196cm 96kgのベレッティーニと同じコートに入るとまるで少年のよう。しかし、持ち味のフットワークを生かしながら速い攻めを果敢に挑み続け、ラリー戦ではベレッティーニに主導権を握らせなかった。
デミノーにとってこれが3年連続のATPカップ。開催国チームのエースとしての重圧は大きいだろう。初開催の年はアレクサンダー・ズベレフ、デニス・シャポバロフという若手スター対決に連勝してすばらしいスタートを切ったが、そこから4連敗中だった。いくつもの接戦を落として涙をのんできた。
昨年はシーズンを通してもいい年とはいえなかった。グランドスラムでは3回戦を突破できず、夏にはコロナに感染して東京オリンピックを欠場。シーズン後半はすっかり調子を崩し、最高15位だったランキングは今34位まで落ちている。しかし、そうしたつらい経験のすべてがここにつながっていたと思えるような今日の勝利だった。
試合後、熱狂するファンにこう語りかけた。
「何度倒れたかは問題じゃなくて、倒れても何度起き上がったかということが大事なんだと思う。確かに去年はいいシーズンとはいえなかったけど、ここまで本当にがんばってきたし、今はキャリアで一番いい状態なんだ。今年は絶対にいいシーズンにしてみせる」
そんな若いエースの奮闘に、33歳と27歳のチームメイトが応えた。元ダブルス世界2位のジョン・ピアースと現在ダブルスランキングを自己最高の23位に上げているルーク・サビル。対するイタリアは、ダブルス巧者の36歳シモーヌ・ボレッリとともに再びベレッティーニをコートに送り込んだが、この策は結果的に失敗だった。落胆を引きずるイタリア・ペアを、心身フレッシュなオージー・ペアが6-3 7-5で振り切った。
予想外の結果はこのカードだけではなかった。世界ランク3位のアレクサンダー・ズベレフを擁するドイツ、8位のフェリックス・オジェアリアシムと14位のデニス・シャポバロフの二枚看板で臨むカナダが、トップ10の選手を持たない国にそれぞれ敗れている。
カナダはアメリカに0-3の完敗だった。シャポバロフがコロナ感染による隔離明けでシングルスに出場できなかったことが最大の敗因だが、オジェアリアシムもテイラー・フリッツとのエース対決に7-6 4-6 4-6の逆転負け。オジェアリアシムとシャポバロフの親友コンビのダブルスも、フリッツとイズナーに屈した。
シドニー入りする際に感染が判明したシャポバロフは、ホテルでの1週間の隔離を経て今大会開幕の前日にようやく“自由”の身となったが、まだ倦怠感があるという。シャポの回復に命運がかかっている。
2日後の相手であるイギリスは、ドイツを破る好発進だ。ナンバー2対決でダニエル・エバンスがヤン・シュトルフに快勝してイギリスが先勝し、エース対決ではズベレフがキャメロン・ノリーに快勝。勝負のダブルスで、ダブルス・スペシャリストのジェイミー・マレーとエバンスのペアがズベレフ/ケビン・クラウィーツを破ってみせた。
ロシアは2位のダニール・メドベージェフが35位のウーゴ・アンベールに敗れながらも、ナンバー2のロマン・サフィウリンの奮闘のおかげで、なんとかフランスから勝利をもぎ取った。
チーム戦の妙をいたるところで味わった一日だった。明日は、グループDのポーランド対ジョージア、ギリシャ対アルゼンチン、グループAのノルウェー対スペイン、セルビア対チリが行われる。
やはり気になるのは、2日前の初戦でシングルスを回避したステファノス・チチパスの状態。対戦相手は13位のディエゴ・シュワルツマンとなるが、ツアー1といわれるフットワークとスピードを誇る29歳は、手術後初のシングルスの対戦相手としてはもちろん厳しい。どういう判断を下すのだろうか。
文/山口奈緒美