北朝鮮メディア「労働新聞」が6日に公開したミサイルの写真。発射されたのは「極超音速ミサイル」だといい、およそ700km先の標的に命中したとしている。
これについて岸防衛大臣は「これまで北朝鮮により発射されたことのない新型弾道ミサイルであると考えている」とコメント、アメリカ軍の米インド太平洋軍司令部は「北朝鮮による違法な兵器開発がもたらす不安定な影響を浮き彫りにした」としている。
国際社会が科した経済制裁によって国内は疲弊、新型コロナ対策による国境封鎖や干ばつで食料事情も深刻化しているという北朝鮮。にもかかわらず、核実験、ミサイル発射実験をやめないのはなぜなのか。
『ABEMA Prime』に出演した軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「北朝鮮と韓国・アメリカ軍の戦争は、公式には休止しておらず、今も対峙しているわけだ。だからこそ、戦えるだけの戦力を持とうということだ。ただし、真正面からぶつかった場合、北朝鮮にはお金が無いので敵わない。そこでミサイルを作り始めた」と説明する。
「ただ、ミサイルを飛ばすとアメリカが怒ってしまうということで、何とか自分たちの行動を正当化するために、“衛星を飛ばしているので平和利用だ”と主張して飛ばしていた時期もあった。また、核開発の技術は難しく、当初は手間取っていたが、2006年に最初の開発に成功。さらにミサイルに載せられるほどに小型化、2013年以降になると、かなり技術も進んでいるようだ。さらに水爆の技術も入れて、非常に大きなものも作るようになっている」。
そして出てきたのが、「極超音速ミサイル」だ。黒井氏は次のように説明する。
「これまでに作っていた弾道ミサイルは、野球で言えば空に向かってボールを投げ、その勢いで飛んでいって目標にぶつかるという、山なりのミサイルだ。ただ、それではアメリカ海軍や自衛隊のイージス艦が高高度で撃ち落とすことができる。じゃあ低いところを飛んでくれば困るだろうと、そういうタイプのミサイルを作っているということだ。
これは野球で言えば“ライナー性”のボールを投げるような感じで低い弾道で進む。ただ、空気圧で失速して落ちてきてしまうので、滑空していく仕組みの弾頭を付け、水切りのような感じで再び上昇、飛距離を伸ばしている。こうしたミサイルは、北朝鮮だけでなく中国やロシアも作っている。アメリカ軍としても、これに対応する兵器を作っているので、今度はそれを回避するミサイルを作って…という“イタチごっこ”が続いていくことになるだろう」。
一方、松野官房長官は6日、「北京の大使館ルートを通じ、北朝鮮に対し、厳重に抗議を行い、強く非難したところだ」と述べているが、それ以上の打ち手はないのだろうか。
黒井氏は「打つ手はない。アメリカが怒ったら面倒くさいと思うだろうが、日本が抗議しても、あまり気にしない。そのアメリカも、今は中国やロシアの問題に忙しいので、北朝鮮にはあまり関心がない。しかもアメリカと仲が悪い中国やロシアが北朝鮮の肩を持つので、国連安保理でも何も通らない。北朝鮮としては“得”な状況だ」。
そこで注目を集めているのが、アメリカ軍の巡航ミサイル「トマホーク」だ。岸田総理大臣は去年10月、「いわゆる敵基地攻撃能力の保有も含め、あらゆる選択肢を検討するよう、改めて確認をした」と発言しており、“国産トマホーク”とも呼ばれる長射程巡航ミサイルの開発を進め、反撃能力や抑止力を高めようという構想もある。
黒井氏は「そもそも日本は“専守防衛”なので、敵の国土を攻撃する力は持っていなかった。しかし中国も含めミサイルで攻撃し合うということになれば、やはりアメリカと一緒に抑止力を高める上では必要だろうということで話が出てきている。ただし、これで北朝鮮のミサイルに対抗できるかというと、ちょっと無理だろうと思う。それは技術的な問題というよりも、実際に北朝鮮が核ミサイルを撃ってくる時は、すでにアメリカとの戦争が始まっている状態だからだ。
北朝鮮が怖いのはやっぱりアメリカ軍だし、そういう状況下で日本が弱いミサイルをいくつか持っていたとしても、北朝鮮が攻撃を躊躇するかどうかには、あまり関係がないと思う。また、発射する前にこちらが発見するのは無理だと思う。北朝鮮には朝鮮戦争以来、地下に1万を超える施設があると言われていて、どこかにミサイルを隠しているのか分からない。
加えて、アメリカ軍が持っているトマホークや、日本が作っている地対艦ミサイルも含め、巡航ミサイルの速度は旅客機よりもちょっと速いぐらい。日本から撃ったとしても、北朝鮮に届く頃には1時間ぐらいが経ってしまっていて、間に合わないはずだ。そういう観点からも、中国との駆け引きとして国産トマホークの議論があるのは良いかもしれないが、北朝鮮対策としてはなかなか難しいのではないか」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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