1日、官邸で総合科学技術・イノベーション会議が開かれ、大学の研究支援を行う10兆円規模の「大学ファンド」計画の実施を決定した。
【映像】大学を救う? “10兆円ファンド”の仕組み(図あり)※冒頭〜
大学の選定は2022〜2023年度にかけて公募が行われ、国際卓越研究大学として認められた大学には2024年度以降、1校あたり年数百億円規模のファンド運用益を配分予定だという。また、選定の要件として、世界トップレベルの研究者が集まる研究領域の創出・育成、若手研究者が研究できる環境整備などを求めた上で、大学側には「年3%」の事業成長が要求される。大学ファンドは、10兆円規模の公的資金を原資に、年3000億円の運用益を出すことが目標だ。
成長戦略に「科学技術立国の推進」を掲げている岸田政権だけに、この“10兆円ファンド”は肝いり施策の一つと言えそうだが、公共政策に詳しい東京工業大学准教授の社会学者・西田亮介氏は「この政策とネーミングで、政府はずいぶん得をしている」と指摘する。
「10兆円を大学に配るのであれば“10兆円ファンド”でいいと思うが、これは10兆円を運用してその運用益を配るという内容だ。3000億円は将来の目標であって、すぐに3000億円の運用益が出るわけではない。おそらく、最初は10兆円とは程遠い、かなり小さい規模からスタートするはずだが、報道を見ても10兆円という言葉ばかりが走っている」(西田亮介氏・以下同)
日本には国立大学が約80校、公立や私立もあわせると約800校の大学がある。一方で、日本の大学は海外大学と比べて、1校あたりの独自の研究資金に乏しく、研究基盤の軟弱化がたびたび指摘されてきた。アメリカではハーバード大学が4.5兆円規模、イエール大学が3.3兆円規模、スタンフォード大学が3.1兆円規模の大学基金を持つのに対し、日本では慶應義塾大学が730億円、早稲田大学が300億円、東京大学が150億円規模になっている。また、博士課程の進学率は減少の一途で、若手研究者の安定的ポストも年々減少が続いている(※文部科学省データ)。
西田氏は「多額のファンドを持っているアメリカの大学は基本的に私立」とした上で「大学の在り方と戦略は国によっても大きく違う。アメリカ型もかなり特殊だが、日本の大学の一番の問題は、中長期で大学をどのように育てていくのか、高等教育をどう発展させていくのか、具体的な戦略がない。20年間、『選択と集中』をやり続けて『じゃあ東大と京大筆頭に、幾つかの研究大学にはちょっとお金を出しましょう』という施策をやった結果、博士課程の進学率は減って、若手研究者の安定的ポストも減り、博士課程を出た情報系の研究者は稼げる民間に流れてしまい、大学の世界ランキングも下がり続けているし、多くの研究者や業界団体も『選択と集中』は失敗だと述べている」とコメント。
大学を発展させ、研究者を育てるためには何が必要なのだろうか。西田氏は「求められているのは底上げだ」と話す。
「国が国立大学に出している基本的な予算の合計が約1兆円で、それを約80の大学でわけている。これが各大学で4割程度の安定的な資金になっているが、人件費の総額とほぼ同額。これらが削られてしまうと、安定的な人件費の拠出すら見込めなくなってしまう。その一方で、今でも大学業界には多くの規制が残っていて、自由に事業を行うこともできない。若い人たちはこの業界が危ないと思っている。(博士課程を出て)実際に20代、30代で年収200万円〜300万円で働いている優秀な人たちがたくさんいる。業界そのものが危ぶまれて、避けられていることを国や政策設計者は全然わかっていない」
選択と集中を徹底的に進め、絞った数校にだけ大規模なお金を出すやり方もあるが、西田氏によると、すでにシンガポールなどでは同様の施策が行われているという。
「日本の業界から不公平だと言われるが、例えば東大と京大にいくつかの大学(の研究者)を集めてしまう。要は日本の大学を全部東大と京大にして、そこにドカッと超巨大なお金を落とすやり方もある。そういった施策は過去にシンガポールなどがやっている。しかし小国の政策であって、国土が広く、人口もそこそこ多い日本にはそぐわないだろう。結局、日本は『選択と集中だ』と言っても、集中と選択も、規模もどっちつかずの中途半端な政策を20年も続けてきた。だから、世界の大学ランキングでも下がり続けている。新型コロナの感染各大の影響で留学生も来なくなって、さらにお金もなくなったら、いずれ本当に何もなくなってしまいかねない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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