「赤ちゃんを抱っこした時、彼女は号泣した」「全国どこでも起きている問題だ」“内密出産”を決断した慈恵病院の蓮田健院長と熊本市の大西一史市長が生出演で訴え
蓮田院長&大西市長に聞く
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 予期せぬ妊娠をした女性の孤立を防ぐため、病院の一部担当者を除いて、父親や家族にも情報を明かさない「内密出産」。去年12月、熊本市の慈恵病院で、10代の女性が一部の相談員にのみ身元を明かして出産、1カ月が経過後も「身元は明かさない」「自身での養育はしない」という意志は変わらなかったことから、国内初の内密出産と報じられた。

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 一方、母親に関する氏名を伏せたまま病院が出生届を市に提出すれば、刑法に抵触してしまう可能性が指摘された。そこで慈恵病院は出生届を出さずに戸籍を作るために市と協議を進め、14日、市長の職権で戸籍が作成される方針となった。

 そしてこの日の夜の『ABEMA Prime』に、蓮田健・慈恵病院理事長兼院長と大西一史・熊本市長が揃って生出演、これまでの経緯や思いを語った。

【映像】慈恵病院の蓮田健院長&熊本市の大西一史市長に聞く

■大西市長「今回の判断で全てが解決するわけではない」

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 熊本市は、女性が内密出産した昨年12月の時点では病院に慎重な姿勢を求めていた。

 大西市長:“望まない妊娠”をされている方の安全な出産も含め、慈恵病院さんは以前からお悩みになり、いろいろな取り組みを検討されてきた。ただ、日本では内密出産についての法整備がなされていないために病院が罪に問われてしまうなどの不利益が生じる可能性があり、私どもとしては、それでは何にもならないので、できるだけ控えて頂きたい、そしてお子さんとお母さんの情報をきちんとできるだけ教えて頂いて取り組みを進めようと考えていた。

 ところが秘密にして出産をしたい、そして産まれてきた子どもを育てるのが難しいという、厳しい状況に置かれた母子が現実にいる。ここで行政は“できません”、病院は“ぜひやらせてください”と対立をしてしまっていては、物事が先に進まない。そこで2月1日に蓮田先生を訪ね、話をする中で、母子のため、特に子どもさんの不利益にならないようにするため、協力しながらやっていきましょうということで進み始めた。

 蓮田先生の方でも、出生届を出すことで罰せられるのかも含め法務局に問い合わせをされていたが、“捜査機関が個別に判断することだ”、“そういったケースでは首長の職権で戸籍を作成することができる”という回答が先週10日に示された。つまり戸籍法でも定められている通り、本来であれば出生届は必要だが、今回のような特殊な状況においては戸籍を作成できる手法があるとわかったということだ。ルールがはっきりしていない中でも、やはり最善を尽くしていくべきだと判断し、出生届を受理せずとも戸籍を作成する検討に入ることにした。

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 現時点で、市に対して批判的な声は届いていないという。

 大西市長:「よく決断された」といった反応が多いと思うが、今回の判断で全てが解決するわけではない。例えば戸籍については、これから戸籍法の既定の中で市長、あるいは区長さんの職権で決めていくことにはなるが、やはり両親の名前がないということになる。その意味では、子どもが出自を知る権利、親を知る権利をどう担保していくのか、非常に難しい問題になってくると思う。

 また、今回のことを前例にしたいかしたくないかというよりも、今後もお困りの状況に対して、我々行政が相談を受けながら一緒に対応していくということが必要になってくる。熊本市が求めているように、国民的な議論をして、望まない妊娠で悩んでいる人たちへの法的な救済の手段を作ることが求められている。
 

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 「こうのとりのゆりかご」(いわゆる“赤ちゃんポスト”)が始まって15年、熊本では慈恵病院さんの献身的な取り組みで、孤立し、誰にも相談できないという妊婦さんに対して、今の法制度の中で様々な対応がなされてきたが、やはり限界もある。そこは病院と自治体がタッグを組むということもそうだし、他の自治体でも、匿名で相談が出来たり、経済的な支援が受けられたりする仕組みが始まっている。

 そうした制度を皆さんにも知っていただき、困った時には相談を受けて母子の安全を守り、孤独な中で出産をしなくて済むようにすることが大事だ。熊本市のような政令指定都市は全国に20市あるが、その市長会で私は何回も国に対して要請を行っているし、自治体としてもネットワークを組んでどんどん声を上げていくことを引き続きやっていきたい。

■蓮田院長「レアケースの女性たちを助けてください」

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 内密出産した女性は、子どもとの“お別れ”の際に号泣していたのだという。

 蓮田院長:彼女は赤ちゃんに対する思いが非常に強い。最初、赤ちゃんに炎症反応が出たので感染を疑い、保育器の中で抗生物質の点滴を毎日していた。そのため、抱っこもできなかった。しかし彼女は保育器の前に毎日来ていたし、夜中も赤ちゃんのことが心配で眠れない。写真もいっぱい撮っていた。だから1回だけでも抱っこしてもらおうと思い、退院する直前に保育器から出して抱っこしてもらうと、号泣していた。退院後もずっと連絡をくれているので、赤ちゃんに対する思い、愛情は強いと思う。

 しかし、おそらく自分で育てるのは無理なのではないかと思う。彼女が子どもを育てられない理由の一つが、親の過干渉だ。やはりお母さんからの過干渉の呪縛があるような感じで、実家から離れられればいいのにと思うが、そこがうまくいかない。裁判を見ていてもそうだが、孤立した女性には、過干渉のお母さんがいることが多く、暴力を受けるとか、性的虐待を受けるといったことは無いために軽く見えるかもしれないが、精神を破壊されてしまう女性もいる。次に彼からのDVだ。「別れよう」と切り出すと殴られていたというし、妊娠が分かると全く連絡がつかなくなってしまった。

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 今回、まさに法制度がない中での取り組みなので、行政の方も戸惑われたと思う。しかし現行法下で出生届を出さずとも戸籍を作るというふうにおっしゃっていただいたのでとてもありがたいと思っている。

 やはり「こうのとりのゆりかご」に赤ちゃんを預けに来る女性もそうだが、誰にもばれることなく出産したいという女性の多くが被虐待歴の背景や家族、特にお母さんとの関係がうまくいっていなかったり、発達障害・知的障害といった精神科の領域の背景を持っていたりすることが多い。

 だから“お母さんなんだから、そのくらい頑張りなさい。妊婦検診して病院に通って、病院で産んで、仮に育てられないとしても名前を名乗って特別養子縁組とかしたらどうだ”といった批判もあるが、私は今申し上げたような背景を持っている方が8〜9割に上ると見ているし、頑張ろうと思っても頑張れない環境、能力、あるいは支援してくる人がいないという意味では、レアケースであるとも言えると思う。

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 そうした母親を救ってきた「こうのとりのゆりかご」は、昨年までの15年間で159人の赤ちゃんを受け入れてきた。

 蓮田院長:残念なことに、子どもたちのその後について私たちは知る由もないというのが現状だ。大西市長に対しては非常に失礼な話かもしれないが、慈恵病院で保護した後は児童相談所の管理下に入るので、私たちが「教えていただきたい」と申し上げても、「それはプライバシーに関わることだから」ということになるし、他県に行ってしまい、市役所や児童相談所でも辿りようがないという場合もある。

 それでも先日、ゆりかごに預けられた赤ちゃんが大きくなって訪ねてきてくれた。「自分が預けられた時の写真が見たい」とおっしゃったので、大丈夫かなと思って見せたが、ニコニコして見てくれていた。とても良い子に育ってくれていて、とても嬉しかった。安心した。

 いわゆる“赤ちゃんポスト”や今回のような内密出産が日本に導入されれば、無責任な育児放棄が蔓延するんじゃないかと不安に思う方もいるかもしれない。しかし先ほど申し上げたような特殊な背景を持ってらっしゃる方の出産は、おそらく年間100件〜200件くらいではないか。私はその人たちのことを考えてください、その人たちを助けてくださいと申し上げたいし、ぜひ皆さんに理解していただきたい。

■大西市長「国民的な議論をして一歩でも前に進めて頂きたい」

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 政府も「再婚禁止期間」の廃止や、無戸籍児の問題に繋がる「嫡出推定」の見直しに向けて動き出している。今回の内密出産の問題も国会でも取り上げられており、国民民主党の玉木雄一郎代表は1月20日の衆院本会議で「蓮田院長は物事を前に進めるために、“自分が捕まったほうがいいのかな”とさえおっしゃっていた。総理、母子の命と身体を守る取り組みであるこの内密出産は違法なんだろうか」と質問。

 しかし岸田総理は「刑法上の犯罪にあたるかどうかについては、捜査機関により収集された証拠に基づき、個別に判断されるべき事柄であると考えている」と、従来の政府見解に沿った答弁を行っている。

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 大西市長:地元選出議員の方々は所属政党に関わらず今回の問題について非常に関心を持っていただいているのでご相談をしていきたいし、課題を病院の先生とも共有しながら、例えば厚生労働大臣や少子化担当大臣などにも話を聞いていただけるよう、働きかけをしようと考えている。

 同様の事例は他国にもあるし、ドイツに行って内密出産の法制度のリサーチをする中で、賛成・反対の議論があったと伺った。きょう番組に出てくれと言われ、なんとか頑張って出たが、それはこの問題を国民の皆さんに考えていただきたいという気持ちからだ。これは熊本市という一自治体、慈恵病院という一病院だけの話ではないはずで、全国どこでも起こっていることだ。

 私は国会議員の秘書をしていた頃、「臓器移植法案」という、人の死を扱う法案の作成のアシスタントのような仕事をしたことがあった。やはり命に関わる仕組みづくりというのは、相当な時間がかかってしまうものだ。それでも国民的な議論をして一歩でも前に進めて頂きたいと思うし、その声が国会に届くことが重要だ。(『ABEMA Prime』より)

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