寸暇を惜しむ。何かに打ち込む人からすれば、無駄な時間はとにかく省きたいところだ。そのストイックさから、将棋界一の研究量を誇ると言われる永瀬拓矢王座(29)には、熱心さに関するいろいろなエピソードがある。ある棋士からは、年間の研究時間が5000時間にも及ぶという証言があったが、同じ将棋道場出身の戸辺誠七段(35)が明かしたのは、まさに永瀬王座が将棋のための時間を少しでも増やしたい、という思いが溢れたもの。これを聞いたファンからも「全ては将棋の時間を作るためか」「とにかくストイック」と驚きの声が続々と届いた。
永瀬王座は、現在では藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)ともVS(1対1の練習対局)をするほか、他の棋士とも研究会を開いている。最近では「正月という概念を捨てました」というように、年末年始は休むもの、という考え方もやめ、その中でもモチベーションをうまく高めながら努力を続ける方法を模索している。戸辺七段によれば「とにかくストイックですね。将棋に勝つことを第一に置いていまして、無駄な時間が嫌い。隙間の時間もどんどん研究会をやっています。タイトル戦が終わった移動日でも、帰ってきて夕方からとかでもやりますから」と、まさに将棋中心の日々を送っている。
将棋を指す、考えるための時間は、1時間単位どころか、1分単位で絞り出す。ある研究会の日、午前中から指していた永瀬王座と戸辺七段が、練習将棋の後に感想戦をしようとしたところ、永瀬王座が感想戦をせずに昼食に行こうと言い出した。「感想戦をやらないのかと思ったら『この時間に行けば並ばないでご飯が食べられるから行きましょう。それで帰ってからやれば、ロスがない』と」。客が多いランチタイムに行ったのでは、店前で並ぶかもしれないし、店内でも注文してから出てくるのが遅いかもしれない。それならば、しっかり感想戦ができるように、先に食べに行こうというのだ。
その逆もある。「感想戦をやったり、もう一局やったりしてから、店が空いている時間に行こうというのもありました」。たとえば正午に一局終えたところで店に向かうより、もう一局指して感想戦まですれば、午後の1時も過ぎるころ。ピークタイムはかわせる、そういう発想だ。
年間5000時間と言われる研究の時間も、このぐらいのこだわりがなければ捻出できないかもしれない。ファンからも「すげえ」「将棋の時間を作るのが最優先」という感想が多く寄せられたが、誰もが認めるストイックさがあれば、これも納得といったところだ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)